自社の現状を否定するようなシナリオはどうつくるのか?(前半)【Stylish Ideaメールマガジン vol.267】

『実践 シナリオ・プランニング』の出版記念対談イベントの第1回でも話題に出たのが、自社の現状を否定するようなシナリオを描くこと。

対談の中では深く触れられなかった点も踏まえて、改めてこのコラムで整理してみたいと思います。

シナリオプランニングは、将来において起こり得る不確実な可能性を検討し、その結果をインプットとしてそのような可能性に備える対応策を検討するもの。

その過程で複数シナリオをつくる際、複数の可能性の中に「この世界になってしまうと、今の自社の事業がまったく成り立たない」というものを盛り込むことが、冒頭に書いた「自社の現状を否定するようなシナリオ」に相当します。

このような複数シナリオをつくることについて、以前にもご紹介した「作り方」と「使い方」の観点から解説していきたいと思います。

・シナリオプランニングの作り方と使い方【Stylish Ideaメールマガジン vol.263】


「作り方」の観点から考えるためには、「自社の現状を否定するようなシナリオ」を作り手として、どのような目的や意図で作成しようとしているのかに目を向けてください。

シナリオプランニングに取り組んでいると、その過程で、組織の現状に不満を覚える方がいます。

そのような不満を集約していくと、

「将来、自社の事業に影響を与えるような不確実な可能性が、こんなにも自分たちの前に控えているのに、うちのトップは、なんでこんなにも無関心なんだ!」

となることが多いです。

たしかに、このように思うことは多いでしょう。しかし、そのような不満をきっかけとして、「無関心なトップに現実を突きつける!」と意気込み、「自社の現状を否定するようなシナリオ」をつくってしまうことは避けるべきです。

なぜなら、そのようなシナリオは、不確実な可能性を整理したものではなくて、作り手が特定の人に突きつけたい現実を盛り込んだものになってしまっているからです。

よく「複数シナリオをつくるときに、自分たちにとって都合の悪い未来を盛り込むのを避けようとすることがあるが、それは避けるべき」という話があります。

意図して「都合の悪い未来を盛り込む」のか「都合の悪い未来を避ける」のかの違いはありますが、不確実な可能性を客観的にとらえないようにしているという点で、実は意図していることは同じです。

このようにご紹介すると、「あえて最悪のケースを想定するという意図で、都合の悪い未来を盛り込んだシナリオをつくることは良くないことなのか?」と聞かれることがあります。

もちろん、自社にとってのネガティブな可能性をシミュレーションするような意図でそのようなシナリオがつくられているのであれば、それは意味があるものになるはずです。

ここで取り上げているのは、「不確実な可能性を見えていない人たちに、それを見せつけてやる!」という、力(りき)んだ意図というか、義憤のような意図でシナリオをつくることです。

そのように思ってしまう気持ちもよくわかります(私も会社員時代はもちろん、いまだにそういうことを感じることがあります)。

しかし、そのような意図でつくられたシナリオは、「これを盛り込もう」という思いが強いあまり、本来盛り込まれるべきものが盛り込まれない偏ったシナリオになってしまう可能性があるのです。

組織の中でそういう気持ちを持つような状況があり、それは大変な状況であることは理解しつつ、シナリオプランニングの観点からは、シナリオプランニングの理論に沿ってつくられた複数シナリオには、必ず自社にとって「都合の良い未来」も「都合の悪い未来」も含まれますよ、ということをお伝えしたいと思います。

どちらも含まれるというのは「4つのうち、このシナリオは都合が良いけど、これは都合が悪いシナリオだ」という単純なものではありません。

すべてのシナリオにおいて、「このシナリオは、今からこういう動きをすれば、自社にとって都合が良い世界ではあるけど、今のまま何もしなければ、こんな都合の悪いことが起こり得る」ということが考えられるものができあがるのです。

さらに、現代のような複雑な時代においてシナリオプランニングを使っていくとなると、「このシナリオでは、こういう動きをすれば自社にとって都合が良いけど、ただこのステークホルダーにとってはネガティブな影響を及ぼしてしまうから、これをどう考えようか?」という観点が見えてくるシナリオが理想です。

では、そのような理想のシナリオをつくるためにはどうすれば良いのかというと、それは「外部環境の変化を客観的にとらえる」という基本を徹底することに尽きるのです。

今回はいったんここまでで「作り方」の観点からの「自社の現状を否定するようなシナリオ」の解説とします。

「使い方」の観点からの解説は、次回のコラムでご紹介します。