【対談ダイジェスト】「実践シナリオ・プランニング」出版記念対談イベント第1回【×組織】嘉村堅州さん

新刊『実践シナリオ・プランニング』発売記念!

出版直後の2021年6月に毎週開催しました『実践 シナリオ・プランニング』出版記念対談イベント【シナリオプランニング × ??】

第1回目のゲスト、東京工業大学リーダシップ教育院の嘉村賢州さんと、本の著者である弊社代表新井宏征との対談が行われました。このページではそのダイジェスト版をお届けします!

▼「ティール組織」と「シナリオプランニング」

著者 新井宏征(以下、新井):『実践シナリオ・プランニング』著者の新井です。シナリオプランニングを使ったコンサルティングやワークショップを通じて何を実現したいかということこの1冊の本にまとめました。少しボリュームもあって読み始めるまで抵抗があるという方もいると思いますので、この本を知っていただくきっかけとして、いろんな方と広がりを作っていくためにセミナーを企画しました。
第一回目はティール組織を研究されている東工大嘉村さんにお越しいただきました。私も東工大でもシナリオプランニングの講義をしたことがあります。

東京工業大学リーダシップ教育院 嘉村賢州さん(以下、嘉村さん):東京工業大学リーダシップ教育院の嘉村賢州です。大学教員の傍らティール組織を始めとする進化型の組織の研究して実践しています。

シナリオプランニングは昔から追いかけているテーマで重要なスキルだと思っていました。ただ、難しくプロセスが長くて前半で力尽きるという経験を何度もしたのですが、この「実践シナリオプランニング」の本ではそうならないための配慮がされていることに感銘しました。シナリオプランニングを一般化する、身近に使えるツールとしてティール組織と合いそうと感じています。

どこがティール組織と合いそうかというと、今までの組織論は「未来は予想できる」「人は計画を立てればそのとおり実行できる」という世界観の組織論でした。しかし人はそれぞれ個性を持っているし、ほんとうは未来なんて読めない、計画通りいかないこともあります。そもそも予測できてコントロールできるという理想を手放したのがティール組織の考え方です。タフネス(強く)、レジリデンス(しなやか・回復力がある)、アンチフラジャイル(困難をチャンスに変える)といった、何かが起きても回復できるしなやかさ、困難を力に変える組織が待望されています。
ティール組織は計画を立てない、ゴール設定をしないといわれることがありますが、それは誤解で、大きな未来は見据えています。ゴール設定をしてしまって綿密な計画をたててしまうと、変化よりも、計画をそのまま遂行することを優先させてしまうことがあります。大きく未来を見据えながら変化し続けるというのが正しいティール組織の作法で、そのときに役に立つのがシナリオプランニングだと感じています。

昔シナリオプランニングに出会ってまだ深く理解できていない時、「優れたシナリオプランナーがいたらどの組織も同じ戦略になってしまうのでは?」と思いました。ティールでない組織はだんだんと大きな方向性が似てくるんですね。次はAI、次は○○..といって他の組織の名前にすり替えてもわからないのでは、という誤解を持っていました。
今回本を読んで確信したのは、シナリオプランニングは客観的に正しいシナリオを見つけるのではなく、未来を想定することによって個人や組織が内製するためのものだったということです。似てくるのではなく、シナリオプランニングをうまく使えばより個性がでてくるということがわかったのが本を読んだ一番の収穫でした。
もっとも印象的だったのが、38ページの「リフレクティブアプローチ」の氷山モデルです。振り返りをするときに行動や考え方の振り返りはするけれども、感情の振り返りが大切だということが書かれていて、シナリオプランニングは次の潮流を見つけるためではなく、未来を想定する中で自分たちは何を望んでいるんだろうということをたどるための補助ツールだということを改めて教えていただく有意義な読書体験になりました。

新井:みなさんもシナリオプランニングとは未来を考える手法だというのは聞いたことがあるかもしれません。未来を作っていくときに外部環境要因を選んでシナリオの軸を作りますが、横軸の不確実性のところはリサーチをするなどして客観的に判断できます。ただ縦軸のテーマに与える影響が大きいかどうかについては、組織の中で話してみてそれをどう捉えているのかによって変わってきます。どうしても「世の中でそう言われているから」といって判断しがちですが、もし実際に起きたら自分たちにどう影響あるかまで掘り下げる必要があるんですね。組織の状態というのはここのプロセスをいかに掘り下げるかが大事で、これが38ページのリフレクティブアプローチの部分です。

下の方の思考、感情、のぞみを日常では脇において頭だけで考えてしまうんですが、こんな世界になったらやだな、こういうことが本当に起きたら自分たちはどうなる、などの感情が氷山モデルの下の方まで深堀りしていきます。シナリオプランニングはアウトプットで、作るプロセスの中で組織のいろいろなのぞみや感情、日常業務ではでてこないようなことをいかに出していくか、その中で組織のメンバーの考えを知って新しいものをつくっていく最初の一歩につなげていくのが大事なところです。
シナリオプランニングでも「planよりplanningが大事」という言葉があります。アウトプットとは別に、プロセスとしても得るものがあるんですね。そこでの成果として未来を見るアンテナが立つ、対話したことによって組織としてアンテナが揃ってくるということがありますので、シナリオをやっていく中でアウトプットだけに目を向けずにもう一歩深堀りしてほしいと思います。

▼組織として個人の思いにどのくらい寄っていけるか?

質問(参加者の方から):組織として個人の思いを大事にしていくというのはどのくらい寄っていけるのか?

嘉村さん:ティール的な考え方でいうと、海外の潮流は経営層が組織を考えるのではなく、集合知を使ったほうが良い結果が出るという考え方が注目されています。たとえばシリコンバレーでIT企業が事業を立ち上げるときには何度も何度も書き換えてなんとかベンチャーキャピタルからお金を獲得するということが起こっているとすると、大企業の新事業立ち上げるときは ほぼ1回の承認プロセスで判断されているんですね。ただ経営層が本当に新規企業を諮るだけの知財があるかと言うとそうでもなく、政治ゲームになってしまったり、思惑がからみあうこともあり、組織全体の集合知性のほうが良いと言われています。組織内全員の投票によって新規事業を決める方が成功確率が高いと言われているんですね。いろんな人が未来シナリオを練るという集合的アプローチでやるというのは今の潮流としても正しい流れだと思います。

新井:計画があると計画にこだわっってしまうというのは、例えば以前フォルクスワーゲンでデータ改ざんがありましたが、戦略を作ってこうすると決めてしまっていたために、計画に合わせてしまった、計画ありきで進んでしまったということが起きました。シナリオプランニングでワークショップをやる場合も、なるべく多様性を求めて、経営企画の人だけでなく現場の人にも声をかけて平らにならすということはワークショップでは気を使っています。

▼参加者の視野が参加者の視野が狭い時にシナリオが独善的にならないか?

新井:独善的なものにならないか?ということについては、なる可能性はあります。実際どうするかというと、まず一回シナリオ作ってもらいます。とりあえず今知っている情報で作ってしまうと今の状態に気づいてもらうステップになります。そして振り返りの時間をたっぷりとって見落としていたことなどを気づいてもらえるようにする、独善的にならないようにプロジェクト設計しています。

▼継続してシナリオとともに歩んでいる組織の事例とは?

質問(嘉村さんから):シナリオを更新し続け、シナリオとともに企業が歩み続けるために、こういう頻度でシナリオを練り直している、いつがシナリオプランニングに向いているかなど、シナリオプランニングを継続している組織の息づいている風景を教えていただきたい。

新井:あるお客様でシナリオを作りましたが、その後で事業部でシナリオと関係なく日常業務のプロジェクトを起案するときに、プロジェクト案がどのシナリオに対応しているか、など一旦シナリオを通していろんなものを考えるという設計にしています。

今までも自分たちなりに先のことは考えていたけども、シナリオを通すことでみんなのプラットフォームになった、作業としてやるだけでも自然と不確実なことをみんなで自然と考える仕組みになっていったという経緯がありました。またシナリオを作った方たちがファシリテーターとして事業部へ紹介していくう役割を担えるようになるところまでサポートし、組織に浸透できるようにしています。

嘉村さん:なるほど、イメージが湧いてきました。芯となるんですね。その場合そもそもの芯となるものをもう一度作り直そうというのにいい時期はありますか?

新井:はい、あります。組織によっては例えば5年に1回などと決めているところもありますが、世の中が変わってくるとそれが適切かはわかりません。私の場合、定期的にやるというよりは、例えば作ったシナリオの縦軸で「自動運転」という軸を作ったら、それについて定点観測していく仕組みを導入していくというお手伝いもしています。するとはじめに作った複数のシナリオは「派生する確率は全部同じ」として作っていますが、時間が経つと確率が変わってきて現実のものになってくる場合もあります。その兆候を見極めるための定点観測をやってくださいと伝えていて、そうすると初期徴候を見極めて対応できる、タイミングによっては作り変えるということができます。

▼自己の組織の主力事業を否定するシナリオは採用できない?

質問(参加者の方から):シェルのシナリオプランニングが有名ですが、現在の温暖化危機に対処できていないように思います。自己の組織の主力事業を完全に否定するシナリオは採用できないのでは?

新井:シェルもコロナになったあと新しいシナリオを作り直しましたし、バイデン政権になったあともエネルギー業界の変化など見直していく必要があります。世の中のトレンドとしても自分たちの根本を変えていかなくてはいけないですね。シェルも今まではシナリオプランニングでうまくやってきた会社と言われていますが、今後組織がどうなっていくかというのは大きな分岐点だと感じます。

→メールマガジンでも解説しています「自社の現状を否定するようなシナリオはどうつくるのか?」

▼トップダウンで決めたパーパスを共有するのか?

質問(参加者の方から):シナリオプランニングでのパーパスの重要性とは、トップダウンで決めたパーパスを共有していくことになるか?

新井:トップダウンのこともありますが、シナリオを作っていく中で組織としてだけでなく、個人にも目を向けて自然と考えることになるということをこの本で伝えています。「パーパスをつくりましょう」となると形式的なところはあるかもしれませんが、個人がどうするか勝手に考え出す場面が、プロジェクトではそう差し向けなくても起きるようになります。

▼感情が矛盾や対立した場合は?

質問(参加者の方から):Want、feel、think、doがそれぞれ矛盾すること、対立することが多いと思うのですが、その時にwantに立ち帰ると言うことなのでしょうか?望みと感情すらも対立するように感じます。

嘉村さん:定期的に対話していくうちに整っていくので、むりやり決めるということはしません。今までは一つの正解を探すようにしてきましたが、一つに決めようとすると決められた側は敗者になってしまう。正解を出そうとすると対立していまうけど、対話をし続けると自然に調整されていって未来に近づいていくと思います。

新井:プロジェクトで時間をとりたいのはまさにここで、対話の中で気づいていく事が重要だと感じています。個人の中でも矛盾、対立してしまうというのもあると思いますが、シナリオを作っている間は、アウトプットを出すために頑張って考えますが、そのあとにシナリオを使うことで気づくこともあります。シナリオを作るだけでなく、シナリオを使って対話し続けたり、感じたことを持ち続ける仕組みや時間をもつことが必要だと思っています。

▼シナリオは一つに揃えたほうがよいのか?それとも複数持つのか?

質問(参加者の方から):自分なりのシナリオではなく組織で揃えたほうが良いのでしょうか?または収束させたり適合させるのではなく進む道をたくさんにしておくということでしょうか?

新井:実際のプロジェクトの例で、千葉県松戸市の総合計画をシナリオプランニングで作成して使うというプロジェクトをやった際は8つのシナリオができましたが、最終的に統合していきました。そのときにお伝えしているのは、統合しているのは正解ではなくて、組織として共通のグローバルシナリオです、その他に自分たちのチームの軸はそれはそれで持っておいてくださいということです。そうすると8つのシナリオになるんですが、絞り込む必要はなく、いろいろな可能性をその人の中で持つということは想定しています。組織として取り組み上、1つに絞るということはもちろんありますが、個人的にも無理に1つに絞り込むのは好きではありません。

嘉村さん:AorBまたはAandBの考え方ですね。「AorB」だとBが大事と考えた人にとっては、しぶしぶAに従うと被害者意識を感じたりやりがいが失われていく。一方「AandB」のどっちもやりたいだと分散されてしまって何も実現できない場合もあります。優先順位を決めておくということで、AもBも大事だけどAの方に重点をおく、ということ。Bをやっていけないということではない。またAに重点をおくということがグローバルシナリオであって、Bのせっかく自分たちがワクワクしているものを消す必要はないという考え方だと思います。

▼発達段階の進んだ人の集まりでないと難しいのでは?

質問(参加者の方から):発達段階の進んだ人の集まりではないとティール組織も、シナリオプランニングのダイアローグも難しいのではありませんか?

新井:たしかにシナリオの取り組みやすさは変わってくる場合もありますが、本でも書いているように鶏と卵のような話で、シナリオを通してシナリオを使える組織にしていくという考え方です。普段考えないような人が変わっていって考えられるようになったということがあって、シナリオを使いこなせる組織になるためにシナリオを使い始める、そのためにこの本でも簡単にに使い始めるということを紹介しています。本で紹介している未来創造ダイアローグは、本来はシナリオの考え方が組織に合わないけれどもどうやって組織に入れていくかを考えて作りました。

嘉村:ティールの考え方では人を発達段階でみていません。すべての色に特徴があってどう活かし合うかという考え方です。それぞれの良さが引き出せて、悪い部分が出ないような構造とプロセスがあるので、そこにいる人の発達段階は求めずにすんでいるんですね。プロセスに沿っていればできるようになるという構造があるので参加者を選ばないと思います。