シナリオプランニングで考えるのは"望ましい未来"か"起こり得る未来"か?【Stylish Ideaメールマガジン vol.266】

新刊『実践 シナリオ・プランニング』が発売になる前のタイミングで、この本の編集者さんと新刊についての対談をし、その結果をウェブで紹介しています。

【対談ダイジェスト】著者と編集者が語る「実践シナリオ・プランニング」

面白かったのは、この対談の冒頭で、編集者さんから次のような話が出たことです。

実は私はシナリオプランニングというものに対して最初ちょっと懐疑的なイメージを持っていました。それはシナリオプランニングってご都合のよい未来とかビジョンに向かってひた走るためのツールというような過度に楽観的な人たちが使うもの、(中略)というイメージがあったんですね。

シナリオプランニングは未来のことを考えるものという連想から、このようなイメージを持たれる方が実際には少なくありません。

このようなイメージを懐疑的にとらえる人もいれば、良いものだととらえる人もいます。

しかし、本ではもちろん、このメールマガジンでもご紹介しているとおり、シナリオプランニングは、自分たちにとって「望ましい未来」を描くための手法ではありません。

シナリオプランニングで描くのは、設定したテーマに対して「起こり得る未来」です。

そして、その「起こり得る未来」の可能性をインプットとして、そのような未来に向けて、自分たちが今からどのような取り組みをするのかを考えていきます。

言い換えれば、「望ましい未来」を直接描くのではなく、「起こり得る未来」を複数考えた上で、それらの中で「望ましい状態」をどのように実現するかを考えていくための手法です。

例えば、現在の新型コロナウイルス感染症拡大の真っただ中にいる私たちの状況を考えてください。

この状況は「望ましい状態」でしょうか?多くの人にとって、答えは「いいえ」でしょう。少なくとも、私には、この状況は望ましいものではありません。

しかし、置かれている状況が望ましいものではなかったとしても、私たちはこの中で、「望ましい状態」に一歩でも近づくための取り組みをしていこうと考えているのではないでしょうか。

シナリオプランニングで描く複数の未来は、私たちではコントロールできない環境変化によって浮き彫りになる未来です。

そのため、それらの未来の中には自分たちにとって望ましい環境もあれば、望ましくない環境もあるはずです。

しかし、望ましい環境だからといって、自動的に自分たちにとっての「望ましい状態」になるとは限りません。

一方、望ましくない環境になる可能性があっても、その中で、自分たちの「望ましい状態」を実現するための手段や方法を見いだすことができるでしょう。

たしかにシナリオプランニングにおける複数シナリオだけに目を向けると、それは「望ましい未来」を描く手法だとは言えません。

しかし、複数シナリオを描いただけでシナリオプランニングの取り組みを終えてはいけません。

いま、新型コロナウイルス感染症の拡大や、その他、望ましいとはいえない環境にいる私たちが、なんとかより善い状況をつくり出そうとしているように、複数シナリオで描かれたどんな未来になったとしても「望ましい状態」を実現することを考えることが、シナリオプランニングにおける「未来を考える」ということです。

わかりやすいアウトプットだけに目を向けずに、そのアウトプットを目の当たりにしたときに動き出す自分たちの想像力にまで目を向けることが、シナリオプランニングで未来を考えるということなのです。