「人が問題なのではなく、問題が問題である」を組織で実践するには
さまざまな組織のお手伝いをさせていただいていると、規模や業種を問わず、繰り返し目にする光景があります。
それは、思うように進まない取り組みを前にして、関係する部署同士が「相手側に原因がある」と語り合っている場面です。
ある新しい取り組みがなかなか動き出さないという話で営業に話を聞きにいくと、「事業部側が現場を見てくれていない」という声が聞こえてくる。同じ取り組みについて事業部に話を聞きにいくと、「営業が無理な要件を持ってくるから動きづらい」という反応が返ってくる。経営企画は「現場の問題意識が足りない」と感じていて、現場は「経営企画がつくる戦略は地に足がついていない」と感じている。
それぞれの言い分には、そう感じる根拠があるのでしょう。しかし、こうしたやりとりを横で聞いていると、誰もが「相手側の人や部署」を問題の根っこに据えて議論を始めていることに気づきます。
そして、議論が進めば進むほど、本来取り組むべき問題そのものから、私たちはむしろ遠ざかってしまうのです。
「人が問題なのではなく、問題が問題である」

こうした場面に遭遇すると「人が問題なのではなく、問題が問題である」という言葉を思い出します。私は、2024年から2年ほど森川すいめいさんのオープンダイアローグのトレーニングを受けたのですが、その中で何度か耳にして、印象に残っている言葉です。
この言葉は、ナラティブセラピーで「外在化」と呼ばれる考え方を端的に表したもので、問題を、特定の人や人間関係そのものに貼りつけて扱うのではなく、問題そのものをひとつの対象として外に取り出して向き合っていく。問題と人を切り離して見ることで、本来取り組むべき問題に向き合いやすくする、というものです。(より専門的な解説を読みたい方はナラティヴ実践協働研究センターのページなどをご覧ください。)
この発想は、組織の中で起きる「犯人探し」を超えていくためのヒントとして、非常に魅力的に響きます。
冒頭で書いたような部署間のやりとりの中で、もし「営業が悪い」「事業部が悪い」とそれぞれが言い合うのではなく、いったん全員で「いま自分たちの前にある『問題』とは何だろうか」と問い直すことができたら、議論の質はずいぶん変わるはずです。
それでも、犯人探しに戻ってしまう
しかし、現実はそう単純ではありません。
「人が問題なのではなく、問題が問題である」という発想を頭で理解したとしても、いざ多くの人が困っている状況に直面すると、私たちはやはり「あの人が悪い」「あの部署が悪い」という見方に戻ってしまうのです。
最近では、こうした場面に「対話の場をつくろう」と動く組織も増えてきました。たしかに、お互いの言い分をフラットに聞き合う場を持つことで状況が変わる可能性があります。
しかし、それぞれの参加者が「誰かが問題だ」という枠組み(フレーム)を抱えたままだと、せっかくの対話の場がうまく機能しない場合が少なくありません。最初は公平に話を聞こうとしていたとしても、頭の中にあるフレームがそのままなので、結局は「やっぱりあの部署のあの動き方が問題だ」という犯人探しに着地してしまう、ということが起こります。
以前のコラムで、「危機感が伝わらない」という現象の背景には、戦略を考える側と現場で役割を担う側で見ている「範囲」の違いがあるという話を取り上げました。今回の「犯人探しに戻ってしまう」現象も似たものとしてとらえることができます。
あえて少し違った見方をすれば、「問題が問題だ」という枠組み(フレーム)に変えて対話をしましょう、問題を引き起こしている構造や仕組みに目を向けましょうと言っても、「人や部署が問題だ」という枠組み(フレーム)を抱えたままであれば、対話という形式を持ち込んだとしてもうまくいかない可能性が高いのです。
枠組み(フレーム)を変えるために「未来」を使う

では、どのようにすれば枠組み(フレーム)を変えられるのでしょうか?
ここで活かせるのが、シナリオプランニングをとおして描く複数の未来です。
シナリオプランニングでは通常、2軸の組み合わせから、起こり得る4つの未来を描きます。そこで描いた4つの未来を眺めるだけにとどめず、「いま自分たちが頭を悩ませている、この問題」を、それぞれの未来に当てはめてみるのです。
すると、不思議なことに、同じひとつの問題のはずなのに、世界によって姿が変わって見えてきます。
ある未来では、いま悩んでいる問題はさらに深刻なものになっているかもしれない。別の未来では、問題の形そのものが変わって、今とは違うところで現れているかもしれない。さらに別の未来では、その問題はもはや問題ですらなくなっている、ということもあり得ます。
このように複数の未来をとおして問題を見直してみると、自分たちが問題だと思っていたものが、特定の人や部署に貼りついた固定的なものではなく、ある条件のなかで立ち上がってくるものだということが、頭の理解ではなく感覚として腑に落ちてきます。
これは拙著『実践 シナリオ・プランニング』の中で「リフレーミング」と呼んでいること、つまり枠組み(フレーム)が変わる、再構築されるということにつながります。
このように自分たちの枠組み(フレーム)が書き換わってはじめて、「人が問題なのではなく、問題が問題である」という発想が、組織の中で実用可能なものになるのです。
複雑になっていく時代のなかで、犯人を見つけて取り除くだけでは前に進まない問題は、今後ますます増えていくでしょう。だからこそ、対話の前に、その対話をどこに立たせるかが効いてくるのです。未来を土台にすることで、私たちは目の前のものごとを普段置かれている状況からは離れたところから見つめることができ、犯人探しに陥らない議論をはじめることができるのです。
コラム執筆者:新井 宏征(あらい ひろゆき)

株式会社スタイリッシュ・アイデア 代表取締役
東京外国語大学大学院修後、SAPジャパン、情報通信総合研究所(NTTグループ)を経て、現在はシナリオプランニングやプロダクトマネジメントの考え方を応用し、事業と組織の両面からクライアントの変革を支援するコンサルティング活動に従事。
Saïd Business School Oxford Scenarios Programmeにおいて、世界におけるシナリオプランニング指導の第一人者であるRafael Ramirezや、Shell Internationalでシナリオプランニングを推進してきたKees van der HeijdenやCho-Oon Khongらにシナリオプランニングの指導を受ける。
その内容を理論的な基礎としながら、2013年の創業以来、日本の組織文化や慣習にあわせた実践的なシナリオプランニング活用支援を行っている。
資格として、PMP(Project Management Professional)、英検1級、TOEIC 990点、SAP関連資格などを保有している。
主な著書に『実践 シナリオ・プランニング』、訳書に『プロダクトマネジャーの教科書』、『成功するイノベーションは何が違うのか?』、『90日変革モデル』、『世界のエグゼクティブが学ぶ 誰もがリーダーになれる特別授業』(すべて翔泳社)などがある。
