【事例紹介 ジーベックテクノロジー株式会社(後編)】シナリオプランニングが「共通言語」になるまでー対話が生んだ組織の変化

左から、ジーベックテクノロジー株式会社 福島啓輔さん、株式会社スタイリッシュ・アイデア 代表 新井宏征、ジーベックテクノロジー株式会社 吉原慎太郎さん
ジーベックテクノロジー株式会社では、2022年5月から本格的にシナリオプランニングを社内に導入し、今では組織の「共通言語」として定着しつつあります。後編では、現場のマネジメントを担う福島啓輔さんと吉原慎太郎さんに、なぜこの手法を使い続けようと考えたのか、具体的な活用のプロセスと組織の変化についてお話を伺いました。
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【事例紹介 ジーベックテクノロジー株式会社(前編)】社長のプライベートレッスンから始まった、全社員が未来を考える組織づくり
【Profile】ジーベックテクノロジー株式会社 福島啓輔さん
2015年入社。研究開発部にてテスト加工や基礎研究、試作開発、特許取得に携わる。拠点の立ち上げなど幅広く経験を積み、現在は自ら企画したプロジェクトを推進しながら、同部署の責任者を務める。
【Profile】ジーベックテクノロジー株式会社 吉原慎太郎さん
2019年の入社後、GSM部にて国内営業の経験を積み、海外営業も兼任するようになる。既存の枠にとらわれない新しい用途への市場開拓に注力し、グローバル市場における同社製品の価値提供を牽引。2023年より同部署のマネージャーを務める。
【ジーベックテクノロジー様での取り組み経緯】
- 2022年3月〜:住吉社長のプライベートレッスン
- 2022年5月〜:管理職およびマネジメントチームでのシナリオプランニングを活用した計画検討の取り組み
- 2024年3月〜:マネジメントチームでのシナリオプランニングを活用した「製品のありたい姿検討」の取り組み」
- 2024年10月:上記検討結果を元にした管理職メンバーでの対話会
- 2024年11月:上記結果を元にした全社員での対話会
- 2025年9月〜:マネジメントチームでの戦略実行計画検討の取り組み
- 2025年11月:上記検討結果を元にした管理職メンバーでの対話会
一部の管理職から全員参加へ。シナリオを「自分たちのもの」にするために

――2022年2月に社長がプライベートレッスンを受講され、同年5月から社内にも導入されました。福島さんは初めから参加されたそうですが、元々シナリオプランニングはご存知でしたか?
福島さん:はい、導入前に技術顧問からシナリオプランニングのことは聞いたことがあり、本を読んである程度は理解していました。ただ、実際の業務に取り入れるまではできていませんでしたね。私たち開発担当は、「目の前のことだけでなく数年先の未来を見越し、まだ顕在化していないシーズを狙っていくこと」が大切です。そうした考え方に近い部分があったため、会社規模でシナリオプランニングを活用できる機会に対しては、ワクワクする気持ちが大きかったですね。

――吉原さんは2024年3月から参加されたと伺っていますが、社内に導入された当時はどのような印象をお持ちでしたか?

吉原さん:会社で導入した頃(2022年)は、当時の管理職のみ参加していたので、「何か横串で動こうとしているんだろう」と思っていました。決してネガティブに捉えていたわけではありませんが、当時は深く関われる立場でもなかったことと、コロナ禍だったこともあり、それを身近で見ることもなかったんです。2024年に初めて参加した時は、自分も呼んでもらえた嬉しさに加えて「こんな風に議論ができるんだ」と、とてもポジティブな感情でしたね。
――2022年はどのような内容に取り組まれたのでしょうか?
福島さん:ヒロさん(当社新井)が関わってくださる前に、管理職の3名で中期経営計画を作っていたんです。それを、より自分ごと化、会社の目的としていくにはどうすれば良いかを、シナリオプランニングを使いながら考えました。2022年はどちらかというと売上規模の目標や、その実現のために人員がどれくらい必要かといった大枠を決めた感じですね。

――その後、2024年にシナリオを作り直しされたと伺ったのですが、その理由についてお聞かせいただけますか?
福島さん:吉原も言っていたように、2022年は一部の管理職が主体になっていたため、メンバーからすると「トップダウンに近い感じでシナリオが降ってきているのではないか」と考えたんです。そこを見直し、メンバーが主体的に、そして自分ごと化できるボトムアップのシナリオを作れないかと考えました。メンバーと一緒に揉んでいくことで、シナリオプランニングを「共通のツール」として使いたいという思いがあったんです。そのため、2024年はメンバー全員で行うことを前提に、事前に管理職の間で、時間をかけて当日議論するための題材・軸をしっかりと考えましたね。
――その流れで、2024年11月に「組織全体での対話会」を実施されたのですね。当日はどのような雰囲気でしたか?
福島さん:貸し会議室を借りて、全メンバーが6つほどのテーブルに分かれました。社内でこの規模でディスカッションをしたのは初めてでしたね。発言しづらそうな雰囲気はなく、前向きなコメントが多かったです。「会社をこうしたい」というコミュニケーションを増やしていきたいという気持ちは、元々メンバーの中にもあったんだと思います。

吉原さん:全社での報告会は年に2回あったのですが、あくまで報告会で。お互いに質問をし合ったり、議論したりはその時が初めてだったかもしれません。意見を言う際の観点は、もちろん部署ごとに違いはありましたが、それを話し合って擦り合わせることができたのも面白さを感じたポイントですね。ヒロさんがはじめに、参加したメンバーに向けて上手に説明もしてくれましたし。
――実際に、全社で実施されてみていかがでしたか?
福島さん:メンバーから「実は会社をこうしたいと考えていたんだ」「2022年に出した中期経営計画に対して、こういう切り口もあるんじゃないか」といった意見が出てきたので、一緒にやってよかったなと気付けました。「これを目指すんだったら、機能として組織にこういう部署も必要だ」といった具体的な案も出てきたんです。「僕はこれをやってみたい」といったキャリアパスの話にもなり、ポジティブな感想が出て嬉しかったですね。
吉原さん:議論をして会社の方向性を決めることに、みんなで関与できた点が良かったです。内容も「会社にこういうポジションが作られる」「こういう方向性に行く」という自分たちにとっても身近なことで、メンバーにとっても自分自身のキャリアに直結しやすいテーマだったと思います。全メンバーの要望が通る目標や人事制度はなかなか作れませんが、少なくともみんなの意見をテーブルに上げて、それに対して議論ができたので納得感もあったと思いますね。

新井:作ったシナリオを見直していくのは、とても大切なことです。2024年の作り直しのきっかけは、外部環境の変化もありましたが、みなさんの「より自分たちが考える意義のあるものにしたい」という動機もありました。単に未来のことを考えられれば良いわけではなく、自分たちにとって考える意義があるシナリオをつくることが大切だと常々お伝えしていたので、そのように考えていただけたことは何より嬉しかったですね。全員で話すときは、正確性よりも「なぜこれをやる必要があるのか」「なぜ未来を考えないといけないのか」などの目的を、参加された方にしっかりとお伝えすることを意識しました。

2025年の取り組みでは「部署間の連携」を強化
――さらに、翌年2025年9月には「シナリオを使った戦略実行計画の取り組み」を実施されましたが、どのような目的から実施されたのでしょうか?

福島さん: 2024年に全社の目指すところ、メーカーとして必要な機能は見えてきたものの、まだ部署間での連携が弱い印象がありました。2025年の取り組みは、シナリオの目標を実現していくために各部署が何をしているかを把握し、行動がどう目標に繋がっているかをお互いに理解した状態にすることが目的でした。ある程度の連携は取れていたんですが、「他の部署はどのような目標を掲げてやっているのか」は見えづらい部分があって。
吉原さん: 2024年の内容がインプットされている状態で、いよいよそれを実現するためのフェーズでしたね。2025年前半は、まだ通常業務との優先順位付けが難しく、「より全社ごとにしなくては進まない」という課題が顕在化してきた時期でもあります。それを解消するためにも部署同士で集まって、自分たちで組織を円滑に動かしていくにはどうしたらいいかを話し合いました。
――年々取り組みの内容がブラッシュアップされていると思いますが、2025年の取り組みでまた違うフェーズに入った感覚はありましたか?
福島さん:そうですね、部署同士の理解が深まったのと、MBO(※)での個人目標の最終評価がとてもスムーズになりました。シナリオプランニングの中で「この部署はこういう課題を持っていて来年こう動こうとしている」というのが、みんなで共有できたのが大きかったと思います。
※MBO:Management by Objectivesの略。目標管理制度のこと。

吉原さん:現状と理想のギャップがしっかりと共有されていなかったので、他部署の動きに対して「なぜそれをやっているのか」が見えない部分がありました。2025年の取り組みは、「課題感の統一」という意味でも、とても良い内容だったと思います。
新井:25年の取り組みは、前年に作成したシナリオの結果を元にした自社分析から取り組みました。具体的には自社のビジネスモデルを分析し、それぞれの部署の現在の役割を踏まえて、今後の戦略実行のための取り組みを検討しました。シナリオプランニングでの戦略オプション検討の方法を活かして、「すぐに取り組まなくていけないこと」と「将来のために取り組むこと」と時間軸も意識しながら今後の取り組みを考えました。戦略実行のための取り組みというと、どうしてもすぐに成果につながるものだけになりがちですが、すぐ成果が出るわけではないけども、時間をかけて取り組んでいかなければいけないこともあります。そういう取り組みも大事だということは一般論としてはみなさんわかっているんですが、いざ自分が取り組むとなると、目の前のことに取り組む人と比べて評価されないのではないかという不安や懸念も出てくる。だからこそ、2025年の取り組みでは「すぐに成果が出るものも出ないもの全部大事だよ」という点を理解してもらいやすい枠組みを取り入れて、戦略実行のための検討を進めました。
福島さん:いろいろな取り組みを会社として必要なものだと考えていることを明確にしたことで各メンバーが「自分はこっちに注力しよう」と思えるようになったことも、2025年の取り組みで良かった点です。元々の「未来を想像して計画と準備を」というところから、最近では「一人ひとりが組織運営や自分の業務に主体的に取り組んでもらうためにどうしたらいいか」を考えるツールになっているような気がしますね。

メンバー全員が“自然と使いこなせる状態”を目指して

――今後は、シナリオプランニングやシナリオを使った対話を活用してどのような状態を目指されますか?
吉原さん:ヒロさんに頼らなくてもできるようにすることを目指したいです。号令やイベントがなくても、組織の中でそういった考え方ができるようになっていくこと、メンバーが自然とできるようになることが理想ですね。そして本当に必要な時に、ヒロさんに声をかけさせていただくかたちにできたらと考えています。
福島さん:吉原の言った通りで、自然発生的にできる文化や雰囲気作りを今後も継続していきたいです。しっかりと目的意識を持ちながら、「目的は何か」を設定してバックキャストすることを進めていきたいです。フォアキャストで積み上げていくのは、何となく今できてきているように思うんです。今後はバックキャストで考えていくことを部署単位、会社単位に広げていけるよう後押ししていきたいと思います。

――最後に、シナリオプランニングをどんな方におすすめしたいかを教えてください。
福島さん:企業規模や業界に関係なくおすすめしたいです。特に、課題意識を持っていて行動力がある方が一人でもいれば、その人を起点に組織に変化を起こせるのではないかと思いますね。
吉原さん:私も基本的には同じです。課題感もあり主体的でもあるけど、「合意形成、議論の進め方がわからない」「縦割りの組織で部署をまたいだ話の進め方が難しい」といった場合に最適だと思いますね。考え方の部分で、「こういうふうにやっていきましょう」とヒロさんからアドバイスを提供いただけると思うので、メンバーに納得してもらいながら進めたい方におすすめしたいです。

新井:ありがとうございます。みなさん、シナリオを作るだけにとどまらず、実行部分までとても丁寧にされていますよね。お二人がおっしゃっていただいた通り、私も本当の理想は内製化してもらうことだと思っています。スケジュールを押さえて「対話会をやりましょう」という取り組みの先に、日々の会話で自然と対話会で出てくるような話が出てくる状態が理想なんです。そういう状態に向けて、とても良い流れができているように感じますね。
――シナリオプランニングが「共通言語」として組織に根付いていく過程を伺うことができました。本日は貴重なお話をありがとうございました。

2022年、社長のプライベートレッスンから始まり、2024年の全社対話会、そして2025年の部署間連携へ。同社では、シナリオプランニングが「未来を考えるツール」から「組織を動かすための共通言語」へと進化を遂げていました。自然発生的に対話が生まれる組織を目指す、ジーベックテクノロジーの取り組みに今後も注目です。
コラム執筆者:新井 宏征(あらい ひろゆき)

株式会社スタイリッシュ・アイデア 代表取締役
東京外国語大学大学院修後、SAPジャパン、情報通信総合研究所(NTTグループ)を経て、現在はシナリオプランニングやプロダクトマネジメントの考え方を応用し、事業と組織の両面からクライアントの変革を支援するコンサルティング活動に従事。
Saïd Business School Oxford Scenarios Programmeにおいて、世界におけるシナリオプランニング指導の第一人者であるRafael Ramirezや、Shell Internationalでシナリオプランニングを推進してきたKees van der HeijdenやCho-Oon Khongらにシナリオプランニングの指導を受ける。
その内容を理論的な基礎としながら、2013年の創業以来、日本の組織文化や慣習にあわせた実践的なシナリオプランニング活用支援を行っている。
資格として、PMP(Project Management Professional)、英検1級、TOEIC 990点、SAP関連資格などを保有している。
主な著書に『実践 シナリオ・プランニング』、訳書に『プロダクトマネジャーの教科書』、『成功するイノベーションは何が違うのか?』、『90日変革モデル』、『世界のエグゼクティブが学ぶ 誰もがリーダーになれる特別授業』(すべて翔泳社)などがある。
