リスクと不確実性を混同しない【Stylish Ideaメールマガジン vol.229】

国から緊急事態宣言が出され、企業としてもCOVID-19に伴う対応をさまざまな観点から考える必要が出ています。

有事に対応するために企業が検討するものとしてよく知られているもののひとつに「コンティンジェンシープラン」があります。日本語では「緊急時対応計画」と呼ばれます。

Wikipediaでは次のように解説されています。

コンティンジェンシープランとは、災害や事故など想定外の事態が起きた時のために、事前に定めておく対応策や行動手順のこと。日本語で言い換えるなら、 緊急時対応計画 。滅多に起こらないが、発生すれば破滅的な結果につながる例外的事案に対するリスク管理を指すことが多い。

この中にもある「想定外」という言葉からシナリオプランニングを連想して、コンティンジェンシープランとシナリオプランニングが似たものとしてとらえている人もいるようです。

しかし、実は両者には明確な違いがあります。それは両者が扱うものの違いです。

  • コンティンジェンシープラン:顕在化したリスク
  • シナリオプランニング:不確実性

扱うものだけではなく、目的も違います。

  • コンティンジェンシープラン:リスクによる影響を最小化する
  • シナリオプランニング:不確実な要因が自社にとってどんな影響を及ぼすのかを検討する

今起きているCOVID-19についていえば、これを「顕在化した(ネガティブな)リスク」と見なした場合、それによる影響を最小化するさまざまな施策を検討することになります。

一方、「不確実な事象」と見なしてシナリオプランニングで取り扱う場合には、COVID-19がもたらすさまざまな不確実な可能性を検討することになるでしょう。そこでは世界や国の経済に与える影響など、ネガティブなものもあるかもしれません。一方で、ニュースで出ているように環境面ではポジティブと言える影響も出ています。さらに経済面でも、ネガティブな面だけではなく、ポジティブな面からも見ることができる可能性も考えられます。

このように思い込みにとらわれずに、さまざまな観点から見た上で、自社にとってネガティブだと考えられる不確実な要因を「リスク」と見なして、それに対する対処を考えることもできるのです。

このように見ていくとわかるように、コンティンジェンシープランとシナリオプランニングは、どちらかに取り組めば良いというものではありません。

現在のように、いま私たちの目の前で顕在化しているリスクに対しては、緩和するための策をすぐにとる必要があります。これがコンティンジェンシープランです。

一方で、この状況がもたらす、その後の不確実な可能性を検討した上で、そこから想定される新たなリスクに備えながらも、そこに潜むチャンスを活かす施策も検討する。これがシナリオプランニングです。

このように両者の特徴を理解した上で、自社の状況にあわせて使い分けていくことが、今この時期に求められることではないでしょうか。

コラム執筆者:新井 宏征(あらい ひろゆき)

株式会社スタイリッシュ・アイデア 代表取締役

東京外国語大学大学院修後、SAPジャパン、情報通信総合研究所(NTTグループ)を経て、現在はシナリオプランニングやプロダクトマネジメントの考え方を応用し、事業と組織の両面からクライアントの変革を支援するコンサルティング活動に従事。

Saïd Business School Oxford Scenarios Programmeにおいて、世界におけるシナリオプランニング指導の第一人者であるRafael Ramirezや、Shell Internationalでシナリオプランニングを推進してきたKees van der HeijdenやCho-Oon Khongらにシナリオプランニングの指導を受ける。

その内容を理論的な基礎としながら、2013年の創業以来、日本の組織文化や慣習にあわせた実践的なシナリオプランニング活用支援を行っている。

資格として、PMP(Project Management Professional)、英検1級、TOEIC 990点、SAP関連資格などを保有している。

主な著書に『実践 シナリオ・プランニング』、訳書に『プロダクトマネジャーの教科書』、『成功するイノベーションは何が違うのか?』、『90日変革モデル』、『世界のエグゼクティブが学ぶ 誰もがリーダーになれる特別授業』(すべて翔泳社)などがある。