シナリオプランニングでの当たり/外れより大切なこと【Stylish Ideaメールマガジン vol.205】

シナリオプランニングのご紹介をすると、「これで未来は予測できるんですよね?」という類のことを聞かれることがあります。

その場合、他の手法などと比較しながら、シナリオプランニングは「未来を当てる」ためにやるものではないことをお伝えします。

そうすると、「シナリオで2つの外部環境要因を使うだけで予測できないのであれば、3つとか4つの外部環境を使えばいい」と食い下がられる場合もあります。

しかし、材料を増やしていけば未来が当たる確率が高まるものでもありません。

もちろん、せっかく作ったシナリオですから「当たってほしい」と思う気持ちもわかります。

しかし、こう考えてしまうことのより深刻な問題は「当たり/外れ」に目がいっていることよりも、見ている視野が狭いというところにあるのです。

「当たり/外れ」に意識が向いてしまっている場合、シナリオテーマで設定した時間軸(例えば10年後)にしか注意が及んでいないことがわかります。

しかし、未来は10年で終わるわけではありません。
シナリオで描いた世界が「当たり」であれ「外れ」であれ、世界はその先も進んでいきます。

そこまで視野を広げると、シナリオで考えた未来の「当たり/外れ」がゴールではないことがわかるのではないでしょうか。

作成したシナリオを検証できるような出来事が起きた場合、私たちがやるべきことは、

・シナリオの作成プロセスを振り返り、
・その上で新しいシナリオを検討したり、
・戦略の見直しや新しい戦略の策定を行う

ことまで見据えなければいけません。(もちろん、これがすべてではありませんし、必ずこの順序でやるわけでもありません)

つまり、未来が「当たり」だったかどうかを「点」としてとらえるのではなく、シナリオで描いた世界と現実のフィードバックを照らし合わせ、アップデートしていく取り組みを「線」のように続けていくべきなのです。

清水勝彦氏の『戦略と実行』という著書には、この「線」のような取り組みを続ける大切さが次のように紹介されています。

「実行」は「戦略の後工程」ではありません。
実行は、戦略の仮説を展開すると同時に、また戦略立案段階で明確にできなかったこと、予想できなかったこと、あるいは間違っていたことをその実際の行動の中で知り、フィードバックを通じて「戦略を練り上げる」プロセスでもあるのです。

『戦略と実行』51ページ

「戦略」が企業の未来に関する仮説であるとすれば、その実行は顧客や競合の反応を通じて仮説を検証し、間違いを正し、さらに質の高い仮説を立てるという繰り返しにほかなりません。

『戦略と実行』52ページ

この清水氏の考え方を念頭に置いてみると、シナリオプランニングの取り組みで未来を考えることだけに目を向けるのでは不十分であることがよく理解できます。

シナリオプランニングの取り組みでは、シナリオを踏まえて戦略を立案し、実行し、そのフィードバックを踏まえて、シナリオや戦略を練り上げていくところまで目を向けなくてはいけないのです。

シナリオプランニングをやっていると、ついつい未来を描くことだけに注意がいきます。

もちろん、描いた未来の確度が高まるよう、リサーチなどでさまざまな工夫はします。

しかし、そういうことをしたとしても、描いたものの正確性だけに目を向けるのではなく、それを元にした「実行」にまで目を向けることを忘れてはいけないのです。

なぜなら組織にとって重要なのは、描いたシナリオの当たり/外れではなく、シナリオを踏まえた戦略とその実行であるはずだからです。