生成AIの登場で、シナリオを「作る」ことは格段に容易になりました。AIに丸投げしても、一定の水準のシナリオが出てくる時代です。

それでも、組織の課題がそれで解消するわけではありません。何を問うのか、描いた複数の未来のどれに「おや?」と反応するのか、そしてシナリオをもとに組織をどう動かすのか。ここは人が担う部分として残り続けます。

このページでは、2023年から生成AIを使ったシナリオプランニングを検証し、研修や支援の現場で実践してきた立場から、次の3点を整理します。

  • シナリオプランニングの7ステップのうち、どこで生成AIが役立ち、どこは人が担うべきか
  • 生成AIからシナリオづくりに使える答えを引き出すための、プロンプト以前の考え方
  • AIでは代替できない「直観」と「対話」の役割

生成AIでシナリオプランニングの何が変わったか

変わったことは、スピードと量です。外部環境のリサーチ、要因の洗い出し、シナリオのストーリー化といった「視野を広げる作業」は、生成AIによって以前とは比べものにならない速さと量でこなせるようになりました。自分たちだけでは思いつかない観点を持ち込めることも大きな変化です。

変わらないことは、次の3つです。

  • 何を問うのか(シナリオテーマの設定)
  • 描いた複数の未来のうち、どれを自分たちの判断に効くものとして受け止めるのか
  • シナリオをもとに実際に動く組織をつくること

当社は2023年から、ChatGPTでシナリオプランニングがどこまでできるのかを月例会やニュースレターで検証してきました。当時の結論は「ある程度のシナリオのたたき台はつくれる。ただし、シナリオプランニングの実践方法にもとづいて指示を出せること、出てきた結果の良し悪しを判別できることが前提になる」というものです。当時の生成AIを、「先生」ではなく「驚くほどいろいろなことを知っている新入社員」にたとえたこともあります。

その後、生成AIは大きく進化しました。それでも、この前提は変わっていません。MIT Sloan Management Reviewなどでも、シナリオづくりにAIを使う際は人間が主体となり、その中にAIを組み込むあり方(AI-in-the-loop)が議論されています。

シナリオ作成7ステップ別:生成AI活用の可能性

シナリオプランニングの基本の7ステップについて、生成AIをどの程度活用できるかを整理したのが次の表です。「活用の可能性」は、当社が研修や支援の中で実際に使ってきた経験にもとづく判断です。

ステップ活用の可能性AIが役立つ場面人が担うこと
① シナリオテーマ設定低テーマの文言のブラッシュアップ取り組みの方向性を決める問いそのものは、実施者が判断する
② 外部環境要因リサーチ中〜高自分たちだけでは見つけられない観点の発見、リサーチ時間の短縮シナリオプランニングの定義にもとづいた指示を出す。情報源の確かさを確認する
③ 重要な環境要因の抽出中各要因がテーマに与える影響を考える際に、自分たち以外の観点を持ち込む不確実性と影響度の最終的な判断
④ ベースシナリオ作成中〜高確実な変化の整理。結果をストーリーにまとめる分野によって精度に差があるため、中身を吟味する
⑤ 複数シナリオ作成中〜高軸の候補出し、両極の検討、シナリオのストーリー化どの軸で未来を描くかを選ぶ。シナリオプランニングの理解がないと、指示も結果の判断も難しい
⑥ シナリオ詳細分析中〜高新たな観点の追加。詳細化した結果のストーリー化自社・自分の担当分野にとっての機会と脅威を見きわめる
⑦ 対応策の検討低〜中ブレインストーミング的な案出し、自分たちの案のブラッシュアップ優先順位をつけ、実行する組織をつくる

表から見えるのは、生成AIが力を発揮するのは「広げる」作業と「言葉にする」作業だということです。一方、「決める」作業、つまりテーマ、軸、対応策の選択は人の側に残ります。そして②③⑤のように活用の可能性が高いステップほど、シナリオプランニングの定義にもとづいた指示が出せないと、もっともらしいが誤った結果が返ってきます。

7ステップそのものについては「シナリオプランニングの進め方(作成ステップ)」で詳しく解説しています。

プロンプトより前に決めること:「知りたいこと」の具体化

生成AIは、入力された文章の続きを、確率的にもっともらしい形で生み出しています。そのため「2035年の日本はどうなりますか?」のような大まかな問いには、一般的すぎる答えしか返ってきません。

大切なのは、プロンプトの書き方の前に、自分が何を知りたいのかを具体的にすることです。当社の研修では、次の4つの原則でプロンプトを「具体的」にすることをお伝えしています。

  1. 役割を示す:冒頭で「あなたは未来学者です」のように役割を設定する
  2. 文脈を示す:「新規事業のテーマを考える目的で調べています」のように、背景と意図を伝える
  3. 回答の形式を示す:「バリューチェーンごとに示して」「ポジティブ・ネガティブの両面で」のように、使いやすい形を指定する
  4. 対話を前提とする:一度で答えを求めず、全体像を確認してから気になる点を追加質問で深める

この原則をシナリオプランニングに当てはめると、問いの立て方には3つの型があります。架空のテーマ「2035年の日本における地方の物流」を例に見てみます。

  • 俯瞰:地方の物流を取り巻く外部環境の変化を、政治・経済・社会・技術などの観点から一覧で出してもらう。新しい分野では、まず全体像をつかむ形式を指定する
  • 深掘り・両論併記:気になった要因(たとえば自動運転トラックの普及)について、プラスとマイナスの両面を併記させる。自分の判断に使う論点は、必ず両論で見る
  • 時間軸:「現在」ではなく「2035年時点」でどのような状態になりうるかを、変化する場合と変化しない場合に分けて描かせる

この3つの型は、そのままシナリオプランニングの特徴に重なります。未来に目を向け、外部環境を俯瞰し、立場によるポジティブ・ネガティブの両論を考える。シナリオプランニングは、それ自体が視野を広げる手法です。生成AIは、その「視野を広げる」部分を強力に手伝ってくれます。

生成AIを使った「軸」の作り方

複数シナリオの軸づくりは、生成AIが特に役立つ場面のひとつです。当社では次の流れで進めています。

  1. 不確実な要因を出す:シナリオテーマと検討する未来の範囲(例:2030年の日本における働き方)を明示し、回答の粒度と解説の有無も指定して、不確実な要因を出してもらう。生成AIは繰り返しを嫌がらないので、指示を少し変えて何度か出すと、結果にも変化が出る
  2. 両極を検討する:選んだ要因について、次の2つのパターンで「設定した時点で起こりうる状態」を考えてもらう
    • 変化・不変化パターン:現状から大きく変化する可能性と、大きくは変化しない可能性
    • ポジ・ネガパターン:現状からポジティブな方向とネガティブな方向に変化する可能性
  3. 人が選ぶ:出てきた候補から両極をひとつずつ選び、軸にする。どの軸で考えると自分たちの判断が変わるのかは、人が決める

いくつか実践上のコツがあります。

  • 要因は自分で選ぶ。できれば要因の定義も添える。自分にとって「わからない」もの、関係ないと思うもの、将来を想像しにくいものほど、あえて入れてみる
  • 「技術が進む/進まない」は軸にならない。技術の進歩はほぼ確実だからです。不確実なのは、社会や業界がそれを受け入れるかどうか(規制、顧客の受容、普及の速さ)です
  • シナリオの中身を描かせるときは、テーマを毎回明示し、極の定義も渡す。キーワードだけでなく定義まで示すと、期待した結果になりやすくなります

AI時代に「直観」を取り戻す

生成AIは、網羅的に、しかも疲れることなく、たくさんの未来の可能性を出してくれます。けれど、その中のどれに「おや?」と反応するかは、人にしかできません。

2026年にCalifornia Management Reviewで公表された論文 "Bringing Back Intuition into Scenario Planning"(Metz & Sadler-Smith)は、シナリオプランニングの実践に直観を取り戻すことを提唱しています。論文では、直観を2種類に分けて活かすことを勧めています。

  • 熟達直観:経験の中で身につけた、既知のパターンの素早い照合。既知の領域では強力だが、過去の正しさに縛られやすい
  • 創造的直観:多様な経験が無意識に統合されて生まれる「新しい結びつき」の感覚。弱いシグナルに気づき、非連続な未来を発見する力になる

AIが情報収集を自動化すればするほど、集まった大量の情報に反応し、そこに意味を見出す人間の直観の重みは増していきます。「なんか気になる」という感覚を当てずっぽうと切り捨てず、いったん受け止めてから検証する。その積み重ねが、AIに作らせたシナリオを自分たちのシナリオに変えていきます。

→ 詳しくはコラム「AI時代のシナリオプランニングに"直観"を取り戻す」をご覧ください。

どの生成AIを使うか

結論から言えば、シナリオプランニングのために専用のソフトウェアを導入する必要はありません。ChatGPT、Claude、Geminiといった汎用の生成AIで十分に実践できます。差がつくのはツールではなく、ここまで見てきた指示の出し方と結果の見きわめ方です。

ツールを選ぶ際には、次の観点を目安にしてください。

  • 用途で使い分ける:アイデアの発想やシナリオのストーリー化には、言葉の扱いが得意なもの。ファクトの確認には、参照元を明示してくれるもの
  • 長い文章を扱えるか:資料を読み込ませたり、途中まで作ったシナリオを渡して続きを考えさせたりする場面が多いため
  • 組織の利用ルールに合うか:お客さまの個別情報や社外秘の情報を入力しない等、組織の規約に沿って使えるか

2024年に「シナリオプランニングではどの生成AIを使うのがいいか?」を書いた当時は、参照元を示してくれるツールが限られていました。今では主要な生成AIの多くがウェブ検索と出典表示に対応し、ツールによる差はさらに小さくなっています。ツールの進化は今後も続きますが、「どのツールか」より「どう使うか」という点は変わりません。

AIでは解消しない「実行」の壁

いずれ、戦略やシナリオの作成をAIに丸投げしても、十分な水準のアウトプットが出てくる時代になるはずです。

それでも、組織の課題がすべて解消するわけではありません。「いくら立派な戦略や計画を作っても、なかなか実行されない」という、AI以前から続く課題が残るからです。かつてはコンサルティング会社に戦略策定を依頼しても、その後まったく実行されないと嘆かれていました。今はその作り手が「コンサルタント」から「AI」に代わっただけで、問題の根本は変わっていません。

当社が「シナリオはアウトプットではなくインプット」とお伝えし続けているのはそのためです。AIで作ったシナリオも、組織のメンバーが対話をとおして「腹落ち」し、自分事としてとらえて初めて、戦略の実行につながります。

当社は、シナリオをもとにした対話の手法「未来創造ダイアローグ®」や、戦略を実行する組織づくりの支援で、この「作ったあと」の部分をご一緒しています。

→ 組織開発コンサルティング|戦略を実行する組織づくり

→ コラム「AIに丸投げできない「組織の未来」─シナリオプランニングと対話の重要性」

生成AIとシナリオプランニングを学ぶ・組織に取り入れる

  • 研修:シナリオプランニングの基本と生成AIの活用を組み合わせた研修を、目的や対象者に合わせて設計します。→ 企業研修
  • 講演・社内勉強会:「AI時代のシナリオプランニング」をテーマとした講演や、経営層向けの話題提供を承っています。→ 講演のご相談
  • AIをテーマにしたシナリオの実例:フィジカルAIがもたらす日本の製造業の未来を4つのシナリオとして描いたレポートと、その全体像を整理したページがあります。→ フィジカルAI|5層技術レイヤーで読み解く全体像と将来展望

なお、当社はプロンプト集の販売や、生成AIツールの導入代行は行っていません。お手伝いするのは、生成AIを使いこなしながら、自分たちで未来を考え、動ける組織をつくることです。

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生成AIとシナリオプランニングについて、これまでに書いてきた記事です。

変わったこと・変わらないこと(2023年からの検証)

直観

ツールの選び方

実行と対話

AI時代のシナリオプランニング導入のご相談

生成AIを使ったシナリオプランニングを自社で始めたい、すでに使っているがうまく組織の動きにつながらない、研修や講演を検討している。そうした段階を問わず、お気軽にご相談ください。

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株式会社スタイリッシュ・アイデアでは、シナリオプランニングや未来創造ダイアローグを活用し、以下のようなサービスをご提供しています。

・中期経営計画や戦略立案のご支援(シナリオ作成から最終アウトプットの作成まで)
・ビジョン・パーパス策定のご支援
・事業や研究開発の企画検討のご支援
・未来を担う人材育成プログラムのご提供
・シナリオプランニングなどを活用した個別コンサルティング

単に複数シナリオをつくって終わりにしないためにも、プロジェクト等の設計時点からご相談いただくことをお薦めしています。