AI時代のシナリオプランニングに"直観"を取り戻す

最近、AIに関する話題を目にしない日はないですが、シナリオプランニングに関連するところで言えば、外部環境の情報収集などをAIで自動化するという取り組みの話題が増えてきました。

地政学や政策・規制などの動向をAIが収集・整理し、さらには自社の戦略や事業の情報と結びつけて、影響をレポートとして届けてくれる機能まで有している。こうしたサービスは、今後ますます増えていくでしょう。

そういうニュースを目にしたとき、私の頭に真っ先に浮かんだのは「あ、これは、あのときと同じパターンかもしれない」という感覚でした。

私がSAPジャパンに勤めていた2000年代、BI(ビジネス・インテリジェンス)と呼ばれる仕組みの導入に数多くかかわってきました。経営に必要なデータを一箇所に集約し、多角的に分析できるようにする仕組みです。

長い期間のプロジェクトを経て、いざサービス開始となった直後は、物珍しさもあってよく使われます。しかし、しばらくすると、だんだんと使われなくなっていく。そういう場面を繰り返し見てきました。

その「感覚」は当てずっぽうではない

「AIインテリジェンス」とも呼べるAIを活用した情報収集や分析ツールに関するプレスリリースやニュースを読んだ瞬間に浮かんだこの感覚は、順を追って論理的に考えた結論ではありません。いわば「直観」です。

おもしろいことに、ちょうど同じ時期、シナリオプランニングの実践に「直観」を取り戻そうという主旨の論文("Bringing Back Intuition into Scenario Planning")を読みました。2026年4月30日に公表されたこの論文では、直観を単なる思いつきとしてではなく、行動科学の知見を元に位置づけ直しています。

その中のひとつが、ある領域での反復経験が暗黙知として蓄積され、新しい状況に出会った瞬間にパターン認識として働くという、熟達に基づく直観です。

先ほどの私の「あのときと同じパターンかもしれない」という感覚は、まさにこれに当たります。BI導入の現場で繰り返し見てきた経験が、新しいニュースを読んだ瞬間に反応したわけです。

(なお、論文では直観には2種類あるとしていて、ここで紹介した「熟達に基づく直観」の他に「創造的な直観」というものがあるとして違いなどを掘り下げていますが、ここでは話を単純化して、前者に絞って紹介しています)

「直観」だけでも十分ではない

ただし、同じ論文では、直観が万能ではないことも指摘されています。

過去の経験が新しい状況に当てはまらないとき、直観は誤ります。だからこそ、直観を出発点としながらも、「本当にそうだろうか?」と、今回の状況と過去の状況の相似点と相違点を分析して検証する。そのような直観と分析の往復が必要になります

実際、私も先ほどの感覚をそのまま結論にはせず、かつてのBIと今のAIインテリジェンスとで、何が同じで何が違うのかをひとつずつ確かめていきました。

直観は、このように分析的な思考の入口として使ってこそ、意味を持つのです。

AIが情報収集や分析を担うほど、人間の直観が問われる

たしかに、AIによる情報収集や分析の自動化は、これからの外部環境分析の前提になっていくでしょう。人間が手作業で集められる量とは比べものにならない「変化の兆し」を、AIは供給してくれます。

実際に私もClaude Codeで自社ツールを開発し、関連する情報や論文の収集を進めていますが、今までとは比べものにならないほど、多くの、かつ整理された情報に出会うことができています。

しかし、ここで忘れてはいけないのは、このような時代だからこそ、人間の直観も重要だということです。

大量に供給される兆しの中から、どの兆しに「おや?」と反応するのか。その反応を手がかりに、どんな問いを立て、意味を見出していくのか。そして、その意味をどうやって組織の「戦略的対話」にのせていくのか。

つまりAIが情報収集を自動化すればするほど、集まった大量の情報に反応し、そこに意味を見出していく人間の直観の重みは増していくと言えます。

かつてのBIがだんだんと使われなくなっていったのも、データを届ける仕組みは整えたものの、届いたデータに誰かが反応し、問いを立て、対話するという人間側の営みが設計されていなかったからでした。仕組みがどれだけ精緻になっても、この構図は変わらないのです。

だからこそ、シナリオプランニングを実践する際には、AIを活用しつつ、自分の中にふと浮かぶ直観、つまり「なんか気になるな」というような感覚を、当てずっぽうと切り捨てずに、いったん受け止めてみてください。

その上で、その感覚がいったい何なのか、自分の過去の経験に関係があるのか、あるいはお客さまとの何気ない会話につながるのかという点に思いを巡らしたり、その情報自体を精緻に深掘りする。

そうやって感覚をないがしろにはせず、かといって分析から得られるものも疎かにしない。

AIが人の代わりに情報収集を担う時代にこそ、直観に気づき、それを検証し、複数のシナリオをとおした対話を重ねる。その積み重ねが、不確実な未来に向き合う組織の力になるのです。

コラム執筆者:新井 宏征(あらい ひろゆき)

株式会社スタイリッシュ・アイデア 代表取締役

東京外国語大学大学院修後、SAPジャパン、情報通信総合研究所(NTTグループ)を経て、現在はシナリオプランニングやプロダクトマネジメントの考え方を応用し、事業と組織の両面からクライアントの変革を支援するコンサルティング活動に従事。

Saïd Business School Oxford Scenarios Programmeにおいて、世界におけるシナリオプランニング指導の第一人者であるRafael Ramirezや、Shell Internationalでシナリオプランニングを推進してきたKees van der HeijdenやCho-Oon Khongらにシナリオプランニングの指導を受ける。

その内容を理論的な基礎としながら、2013年の創業以来、日本の組織文化や慣習にあわせた実践的なシナリオプランニング活用支援を行っている。

資格として、PMP(Project Management Professional)、英検1級、TOEIC 990点、SAP関連資格などを保有している。

主な著書に『実践 シナリオ・プランニング』、訳書に『プロダクトマネジャーの教科書』、『成功するイノベーションは何が違うのか?』、『90日変革モデル』、『世界のエグゼクティブが学ぶ 誰もがリーダーになれる特別授業』(すべて翔泳社)などがある。