【事例紹介 ジーベックテクノロジー株式会社(前編)】社長のプライベートレッスンから始まった、全社員が未来を考える組織づくり

左)株式会社スタイリッシュ・アイデア 代表 新井宏征、右)ジーベックテクノロジー株式会社 代表取締役 住吉慶彦さん
金属加工の最終工程である「バリ取り・研磨」の領域で、革新的な特殊工具を世界40か国以上に提供しているジーベックテクノロジー株式会社。同社の製品は、主に自動車や航空機、医療機器などに使用される精密部品の製造現場で欠かせない存在となっています。独自のセラミック砥石を用いたソリューションは、これまで自動化が困難とされていた領域に革新をもたらし、グローバルニッチトップ企業として圧倒的なシェアを誇っています。
同社の代表取締役 住吉慶彦さんは、2022年にスタイリッシュ・アイデアのプライベートレッスンを受講。その後、社員からの「自分たちもやりたい」という自発的な声に押されるかたちで、社内プロジェクトへと発展しました。今ではシナリオプランニングの手法が、同社の組織文化として着実に定着しつつあります。今回、住吉さんと当社代表 新井が導入の経緯から組織に起きた変化までを振り返りました。
【Profile】ジーベックテクノロジー株式会社 代表取締役 住吉慶彦さん
慶應義塾大学大学院(電気工学科)を修了後、総合商社に入社。紙の原料の輸入・国内販売事業に従事した後、ベンチャーの立ち上げ、投資事業にも携わる。2005年に株式会社ジーベックテクノロジーに入社し、海外市場開拓を担当。2007年より代表取締役を務める。
社内メンバーとの“乖離”を埋めるためにシナリオプランニングを学び始める

――はじめに、どのような経緯でシナリオプランニングを知ったかについてお聞かせいただけますか?
住吉さん:2021年頃に明確な課題があったんです。当時、社内では僕が考えを示し、それを元にメンバーが行動するといった運営の仕方をしていました。「僕が考えていることはみんな考えているだろう」「伝えれば納得してやってもらえる」と考えていたんですが、そこに乖離がありそうだと気付いたんです。自分の見ている未来とのギャップを埋めるため、そしてメンバーに納得してもらうために、わかりやすいツールが必要だと思っていました。「未来を想像する思考法」を片っ端からチェックして、その時に出会ったのがシナリオプランニングです。我々の業界にもフィットするし、ビジネスの観点でみんなが理解しやすそうだと考えました。シナリオプランニングの本を何冊か読みましたが、ヒロさん(当社新井)の本が一番わかりやすく、「習うならこの人に習いたい」と思ったんです。本を読み終わってすぐに連絡しましたね。


――最初から社内での導入ではなく、プライベートレッスンから始められたのはなぜでしょうか?
住吉さん:まずは、僕がしっかりとシナリオプランニングを理解していることが必要でしたし、ヒロさんがどういう人かを知るためにプライベートレッスンをお願いしました。メンバーとのギャップを埋めることが目的だったので、はじめから僕が押し付けてはいけないと考えて。プライベートレッスンでは、ヒロさんが用意してくださった「2040年の日本社会」という普遍的なテーマに取り組みました。自分が今考えていることの正しさを、この手法を使って確認したかった意図もあります。

新井:2022年2月に、「3月くらいまでにどんどん進めていきたい」とご連絡をいただきましたね。課題も想定以上に取り組んでくださって、こちらも楽しかったです。はじめは、ピンポイントで現在の問題解決につながるようなテーマが良いかな?と思いつつ、まずは視野を広げて使い方を理解してもらえるようなテーマをご提案させていただきました。シナリオプランニングに限らず、何か新しいものを学ぶ場合でも、どうしても普段慣れ親しんだものをテーマにして学びたくなるものですが、目的によってはそれが常に良いとは限りません。今回はシナリオプランニングの基礎というか型をしっかりと身につけていただくために、普段の思考に引っ張られないテーマをご提案させていただきました。
住吉さん:たしかに、そうですね。僕は守破離を大切にしていて、プライベートレッスンでは「守」の部分を教えてもらいました。今まで自分一人で考えている感覚があったので、これなら幹部を含めたメンバーと共通のツールを持てそうだという期待もありました。
――プライベートレッスンを受けてみて良かった点はどこにありましたか?
住吉さん:まずは、ヒロさんが僕と違うタイプだった点です。見た目も含めて(笑)。柔らかい印象だったので、組織に導入していく際にメンバーが受け取りやすいと思いました。静かに、そして理路整然とお話ししてくださるので、みんなから信頼されるだろうなと。そして、ヒロさんがビジネスに対して幅広い視野を持っているのも大きかったです。中小企業は社長が家庭教師してもらうことは、とても大事なんじゃないかという気がしますね。話しやすくて、ついつい何でも話してしまいます(笑)。

メンバーからの「やってみたい」の声を受け、社内に導入

――そこから社内へはどのように導入されていったのでしょうか?
住吉さん:僕は、ストレングスファインダー(※)で未来志向であることがわかっていたのですが、メンバーは必ずしもそうではありません。それを人に教えることはほぼできないなと思っていました。だからこそ、わかりやすいロジックがあったほうが良いし、シナリオプランニングの4象限ならみんなで考える際に馴染みやすいと考えたんです。僕が「シナリオプランニングのレッスンを受けてみました」「こんな人でした」「本はこれです」「興味があったらいつでも声かけて」と言って、その後、実施するかどうかの判断は幹部メンバーに委ねました。1カ月くらいたった頃から、幹部メンバーの総意として「やってみたい」という声が上がりました。
※ストレングスファインダー:米国ギャラップ社が開発した、個人の強みや才能を特定するためのオンライン自己分析ツール。34の資質の中から、自分の上位資質を知ることができる。
――メンバーが自発的に「やりたい」と言ってきた背景には、どのような理由があったのでしょうか?
住吉さん:社内のメンバーも「僕しか考えていない状態は良くない」と思っていたんだと思います。そして、僕のやり方だとメンバー全員には伝わらないかもしれないという問題意識も持っていて、「どこに向かおうとしているのか」「そのために自分たちで何をすべきなのか」まで一人ひとりが腹落ちした状態にしないといけないと考えていたはずです。それを実現するためには、シナリオプランニングのようなものがあったほうが良いと考えていたのかもしれません。
――参加される方はどのように決められたのですか?
住吉さん:参加者もみんなで考えていましたね。彼らがこうしたいと言ったことを尊重して進めました。最初は幹部や管理職、専門職で、その後は他のメンバーも加わるようになりました。
【ジーベックテクノロジー様での取り組み経緯】
- 2022年3月〜:住吉社長のプライベートレッスン
- 2022年5月〜:管理職およびマネジメントチームでのシナリオプランニングを活用した計画検討の取り組み
- 2024年3月〜:マネジメントチームでのシナリオプランニングを活用した「製品のありたい姿検討」の取り組み」
- 2024年10月:上記検討結果を元にした管理職メンバーでの対話会
- 2024年11月:上記結果を元にした全社員での対話会
- 2025年9月〜:マネジメントチームでの戦略実行計画検討の取り組み
- 2025年11月:上記検討結果を元にした管理職メンバーでの対話会

――その後、2024年にはマネジメントメンバー、そして管理職メンバーでの取り組みを経て、組織全体での対話会も実施されたそうですね。
住吉さん:はい、「全員参加でやりたい」というのもメンバーの声からでした。当日印象的だったのは、午前中は静かだったのに、午後はみんなが前のめりになっていたことです。最初は「シナリオプランニングって何?」という気持ちもあったでしょうし、ワークショップ形式に慣れていなかったのもあって、意見を出すことに戸惑っていた部分もあったかもしれません。午後に慣れてきてからはとても活発で「すごいな、みんな興味あるんだな」と驚きました。
新井:たしかに、はじめは「この付箋を使って何をするの?」と警戒心もあったでしょうね。2024年の全社員での対話会では、その前に実施した管理職メンバーでの対話会の参加者が各テーブルに1人はいるようなグループ分けにしました。「盛り上げて」とお願いしたわけではないのですが、彼らが率先して意見を出してくれたことで、周りの人も「こういうことを言っていいんだ」と少しずつ理解していったんだと思います。こちらからは、「未来についての対話なので、合っている・間違っているはありませんよ」などとお伝えして、自由に意見を出しやすい場にすることを心がけました。
――初めて全社での取り組みを行ってみていかがでしたか?
住吉さん:それまで、日常の会話で未来について話すことはありましたが、改めて向かい合って話してみると、メンバーが考えていることがこんなにも違うんだと気付くことができました。考え方の深さもそうですし、方向性もさまざまで。未来志向を持っているか、そうでないかもよく知ることができましたね。

シナリオプランニングが社内の共通言語に。目指すのは「文化としての定着」
――シナリオプランニングを導入してから、社内にはどのような変化がありましたか?
住吉さん:まず、共通言語ができたことが、とても意味があると思っています。少なくとも幹部はシナリオプランニングが当たり前になっていますね。ただ、今はまだ立てたシナリオに対して定点観測をしたり、定期的にアップデートしたりといったサイクルはできてないので、その時々の課題に応じてヒロさんに関わってもらっています。シナリオプランニングだけではなく、他のツールも取り入れてくれるところはヒロさんのすごいところです。
――今後、シナリオプランニングを活用しながら、どのような組織を目指していきたいですか?
住吉さん:最終的には、シナリオプランニングを当たり前の文化として定着させ、自律分散型の組織を目指します。それを実現するためには全員が未来志向であることが必要ですし、会社の行きたい方向と、それをどう実現するのかの認識をしていないと、現場で適切な判断はできません。そういう意味でも、シナリオプランニングを通じて未来と自分たちの日常を繋げる「癖づけ」にもなっていると思います。
――住吉社長ご自身が実際に体験されてみて、シナリオプランニングをどのような方におすすめしたいですか?

住吉さん:中小企業はどこもやるべきだと思いますね。大企業はあまりにも重たくて変化しづらい側面があります。だからこそ、社長の一声で組織を変えられる中小企業は絶対やるべきです。あと、実は未来を作ることが仕事である政治家こそシナリオプランニングを学ぶべきだとも考えているんです。日本の未来を考えるわけですから。ぜひ取り組んでいただきたいですね。

新井:中小企業とおっしゃっていただいたのは、本当にその通りだと思います。あくまでも相対的なお話ですが、大企業と比べてリソースも限られていて、変化に対するバッファが限られている。ですから、きちんと変化を先読みして、変化に備えたリソース配分を検討しておくことは重要だと思います。
住吉さん:自分の人生でもそうだと思うんですが、未来を考えていなかったら迷子になりますよね。それは会社も同じです。こういう取り組みが自然とできるようになると、自分の人生に関しても同じように考えられるようになって、より充実した人生を歩めると思っています。5年、10年後にはもっと社内の当たり前の文化にしていきたいですね。
新井:「未来を考える」ことは、どちらかというとコンピテンシー(行動特性)、日々の行動のお話です。住吉社長がおっしゃっているように、本格的に変化していくためには一定の期間が必要となるという前提で見てもらうのはとても良いですね。


――今後さらに、シナリオプランニングが文化として定着し、実践で活用されていくのが楽しみですね。本日は貴重なお話をありがとうございました。

社長のプライベートレッスンからスタートし、メンバーの自発的な声を受けて全社に広がったシナリオプランニング。未来を考えることが「文化」として定着していく過程には、中小企業ならではのスピード感と一体感がありました。後編では、社内プロジェクトの中核を担った2名のマネージャーに、現場視点での変化と手応えについてお話を伺います。
▼後編はこちら
【事例紹介 ジーベックテクノロジー株式会社(後編)】シナリオプランニングが「共通言語」になるまで——対話が生んだ組織の変化
コラム執筆者:新井 宏征(あらい ひろゆき)

株式会社スタイリッシュ・アイデア 代表取締役
東京外国語大学大学院修後、SAPジャパン、情報通信総合研究所(NTTグループ)を経て、現在はシナリオプランニングやプロダクトマネジメントの考え方を応用し、事業と組織の両面からクライアントの変革を支援するコンサルティング活動に従事。
Saïd Business School Oxford Scenarios Programmeにおいて、世界におけるシナリオプランニング指導の第一人者であるRafael Ramirezや、Shell Internationalでシナリオプランニングを推進してきたKees van der HeijdenやCho-Oon Khongらにシナリオプランニングの指導を受ける。
その内容を理論的な基礎としながら、2013年の創業以来、日本の組織文化や慣習にあわせた実践的なシナリオプランニング活用支援を行っている。
資格として、PMP(Project Management Professional)、英検1級、TOEIC 990点、SAP関連資格などを保有している。
主な著書に『実践 シナリオ・プランニング』、訳書に『プロダクトマネジャーの教科書』、『成功するイノベーションは何が違うのか?』、『90日変革モデル』、『世界のエグゼクティブが学ぶ 誰もがリーダーになれる特別授業』(すべて翔泳社)などがある。

