シナリオプランニングを共通のツールにする【Stylish Ideaメールマガジン vol.314】
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シナリオプランニングのプロジェクトを進めていく際、目的がどのようなものであっても、まずはわれわれが作成したシナリオを「読む」ことから始めます。
たとえ、プロジェクトの目的が中期経営計画のために本格的なシナリオを作成するという目的であったとしても、シナリオを「作る」前に「読む」ことから始めます。
拙著『実践 シナリオ・プランニング』では、このシナリオを「読む」ことを、「作る」という言葉と対比しやすい言葉を使うという意味で「使う」と表現して、この本がシナリオプランニングの「作り方」と「使い方」の両方をお伝えする本だと紹介しています。
全員が使うからこそ価値が出るもの
拙著の中で「作り方」だけではなく「使い方」を紹介しているのは、「使い方」、つまりシナリオを「読む」ことが、シナリオを「作る」ことの基礎になるからという理由があります。
しかし、それ以上に重要な理由として、シナリオの「使い方」を理解することは、組織として未来のことを考える共通言語、言い換えれば組織内で「共通のツール」を持つために欠かせないからというものがあります。
例えば、現在の組織において、仕事を進めていくための「共通のツール」として欠かせないものにスケジュール管理ツールがあります。組織によってOutlookやGoogleカレンダー、あるいはサイボウズなど使っているツールはさまざまでしょうが、どのツールを使おうとも、組織内の他の人のスケジュールを確認したり、打合せの調整をしたりするためには欠かせないツールです。
しかし、スケジュール管理ツールが便利に使えるのは、組織内の全員が「共通のツール」として使っているからです。仮にひとりだけがいくら便利なツールを使っていても、他の人がそのツールを使ってくれていなければ、いくら便利でも、十分な効果は得られません。
シナリオプランニングを共通のツールにする意義
これはシナリオプランニングでも同じです。
たしかにシナリオプランニングは優れたツールですが、そのツールを組織の中でひとりだけが理解していることは、組織の中でスケジュール管理ツールをひとりしか使っていないような状況と同じです。
理解している人自身は便利だと感じたとしても、周りに理解している人がいないので、「組織」として見たときは、シナリオプランニングの効果を十分に享受することができません。
多くの組織において、シナリオプランニングに取り組む目的は、手法をマスターすることというよりは「将来における不確実な可能性に柔軟に対応できる組織になる」ことであるはずです。
そうなのであれば、必ずしも組織のメンバー全員がシナリオを「作る」ことができなくても良いのです。しかし、上記の目的を達成するためには、組織の中の多くの人が、できれば全員がシナリオを「使う」ことができる必要はあります。
極端な話で言えば、組織の中でシナリオを「作る」ことができる人がゼロだったとしても、シナリオを「使う」ことさえできれば、シナリオを「作る」部分は専門家に任せるなどすることで、「将来における不確実な可能性に柔軟に対応できる組織になる」ことは可能です。
そのため、いずれシナリオを「作る」ことを自分たちでできるようになりたいかどうかは別としても、シナリオを「読む」こと「使う」ことは、今すぐにでも取り組んだ方が良いことなのです。
コラムで取り上げているその他の話題
2-外部環境要因リサーチ 3-重要な環境要因の抽出 4-ベースシナリオ作成 5-複数シナリオ作成 5フォース 6-シナリオ詳細分析 7-戦略オプション検討 DX SDGs 『実践 シナリオ・プランニング』 『進化思考』 アイデアソン イノベーション オンラインワークショップ コンティンジェンシープラン シナリオプロジェクトマネジメントモデル シナリオ作成プロセス ジョブ理論 チームビルディング デザイン思考 ネガティブ・ケイパビリティ パターン・ランゲージ パーパス ビジネスモデル メンタルモデル リーダーシップ リーンキャンバス レジリエンス ロジックモデル 不確実性 事業開発 仮説検証 対話 悪魔の代弁者 成果 成果物 戦略 戦略的対話 文化開発 未来創造ダイアローグ 焦点錯覚 現状分析 社会構成主義 組織学習 組織資源
コラム執筆者:新井 宏征(あらい ひろゆき)

株式会社スタイリッシュ・アイデア 代表取締役
東京外国語大学大学院修後、SAPジャパン、情報通信総合研究所(NTTグループ)を経て、現在はシナリオプランニングやプロダクトマネジメントの考え方を応用し、事業と組織の両面からクライアントの変革を支援するコンサルティング活動に従事。
Saïd Business School Oxford Scenarios Programmeにおいて、世界におけるシナリオプランニング指導の第一人者であるRafael Ramirezや、Shell Internationalでシナリオプランニングを推進してきたKees van der HeijdenやCho-Oon Khongらにシナリオプランニングの指導を受ける。
その内容を理論的な基礎としながら、2013年の創業以来、日本の組織文化や慣習にあわせた実践的なシナリオプランニング活用支援を行っている。
資格として、PMP(Project Management Professional)、英検1級、TOEIC 990点、SAP関連資格などを保有している。
主な著書に『実践 シナリオ・プランニング』、訳書に『プロダクトマネジャーの教科書』、『成功するイノベーションは何が違うのか?』、『90日変革モデル』、『世界のエグゼクティブが学ぶ 誰もがリーダーになれる特別授業』(すべて翔泳社)などがある。
