シナリオプランニングの取り組みで思い込みを外すために必要なこと【Stylish Ideaメールマガジン vol.288】
シナリオプランニングについての解説した資料や記事などを読むと、シナリオプランニングに取り組む効果として「個人や組織の思い込みを外す」という点を挙げているものを目にします。
同じようなことを拙著『実践 シナリオ・プランニング』でも紹介しています。
では、シナリオプランニングに取り組みさえすれば、個人や組織の思い込みを外すことができるのでしょうか?
もちろん、そんなことはありません。むしろ、十分に配慮した設計にせずにシナリオプランニングに取り組んだことで、元々持っていた思い込みを強化してしまうということにも起こり得ます。
思い込みを外すためのシナリオプランニングで必要な2つの点
そうならないようにするためには、
思い込みを外すことにつながるフィードバック
思い込みを外すことにつながるワークショップの設計
が必要です。
ひとつめは、メンバー間のフィードバックも参考にはなりますが、やはり外部の支援者(コンサルタントやファシリテーターという肩書の人)からの客観的なフィードバックの方が効果があります。
そのような客観的なフィードバックをできる支援者かどうかは、自分たちの置かれている外部と内部の両方の状況について十分に理解していることが必要になります。
候補となる支援者に、自社が置かれている業界の状況や課題などについて質問をすれば、思い込みを外すことにつながるフィードバックをできるかどうかを判断することができるでしょう。
思い込みを外すためのワークショップの設計
もうひとつ必要になるのが思い込みを外すことにつながるワークショップの設計です。
ひとつめで紹介した外部の支援者にかかわってもらえるのであれば、その人に設計を任せることもできるでしょう。
しかし、必ずしもすべての場合で外部に支援をお願いできるわけではありません。そのような場合、先ほど書いたとおりフィードバックはメンバー間で実施するとして、ワークショップの設計はどのように考えれば良いのでしょうか。
細かいことを気にし出すといろいろと考えなければいけない点があるのですが、絶対に外してはいけない大きな方針は「繰り返しを前提とした設計にすること」です。
弊社がシナリオプランニングを活用するプロジェクトにかかわる場合、プロジェクトの期間によらず、まずはプロジェクトの初期の段階で、一度、シナリオを作り切ることができるような設計をします。この時、作成するシナリオの質にはそこまでこだわらないことが大切です。
シナリオプランニング自体や、シナリオプランニングの背景にある考え方などに十分に慣れていない段階で作成したシナリオは、その作り手の典型的な頭の使い方、つまり「思い込み」が反映されていることが多いです。
その初期の段階でできあがったシナリオを客観的に眺め、フィードバックを受けることで、仮に外部の支援が得られない場合でも、自分たちの思い込みに気づきやすくなります。
その後は、その思い込みを自覚した上で、シナリオのブラッシュアップに取り組むのです。
実際に取り組む内容は、シナリオプランニング実践の7つのステップであることには変わりありません。
しかし、同じステップであっても、「何のためにやっているのか」という目的を明確に変える設計にすることで、個人や組織の思い込みを外すことにつながりやすいシナリオプランニングの取り組みができるようになります。
コラム執筆者:新井 宏征(あらい ひろゆき)

株式会社スタイリッシュ・アイデア 代表取締役
東京外国語大学大学院修後、SAPジャパン、情報通信総合研究所(NTTグループ)を経て、現在はシナリオプランニングやプロダクトマネジメントの考え方を応用し、事業と組織の両面からクライアントの変革を支援するコンサルティング活動に従事。
Saïd Business School Oxford Scenarios Programmeにおいて、世界におけるシナリオプランニング指導の第一人者であるRafael Ramirezや、Shell Internationalでシナリオプランニングを推進してきたKees van der HeijdenやCho-Oon Khongらにシナリオプランニングの指導を受ける。
その内容を理論的な基礎としながら、2013年の創業以来、日本の組織文化や慣習にあわせた実践的なシナリオプランニング活用支援を行っている。
資格として、PMP(Project Management Professional)、英検1級、TOEIC 990点、SAP関連資格などを保有している。
主な著書に『実践 シナリオ・プランニング』、訳書に『プロダクトマネジャーの教科書』、『成功するイノベーションは何が違うのか?』、『90日変革モデル』、『世界のエグゼクティブが学ぶ 誰もがリーダーになれる特別授業』(すべて翔泳社)などがある。