<私>をくぐらせるシナリオプランニングの取り組み【Stylish Ideaメールマガジン vol.289】

冒頭でご案内したセミナーの母体となっている未来をつくる人のための実践コミュニティ Futuringの構想は、これまでシナリオプランニングを活用したコンサルティングに取り組んできた中で浮かび上がってきた問題意識が元になっています。

手法としてのシナリオプランニングに目を向ける

私がシナリオプランニングのコンサルティングを始めた頃、「良いシナリオ(特に複数シナリオ)をつくることができれば、自分たちにとって理想の未来をつくっていくことができる組織やチームになっていくことができる」と考えていました。  

その考えの元、私自身も国内外のシナリオプランニングに関するあらゆる文献を読み、自らも実践してきました。 

そして実際のプロジェクトでの活用をとおして、手法としてのシナリオプランニングの活用方法を極めようとしてきたのです。  

もちろん、その取り組みが意味がなかったわけではなく、必要なことであったのはたしかです。  

しかし、同時に「手法としてのシナリオプランニングにだけ目を向けるのでは十分ではない」ということにも気がつきました。  

手法としてのシナリオプランニングに取り組み、お客さまも質の高いシナリオを作れるようになったものの、必ずしも、そこから新しい取り組みが生まれるわけではなかったのです。  

成果を左右する原因としての「マインドセット」

もちろん、すべての場合でそうだったわけではありません。  

同じような質のシナリオをつくることができた複数の組織があった場合、そこから新しい取り組みにつながっていく組織と、そうではなく「これまでの日常」に戻ってしまう組織があったのです。  

そのような違いがなぜ生まれるのかを考え続けた結果、シナリオプランニングに取り組むメンバーの「マインドセット」がひとつの原因だと気づきました。  

この点について、私なりの表現での紹介は、拙著『実践 シナリオ・プランニング』の第1章(40ページ以降)でご紹介している「未来創造OS」の話、そして、それを元にした「成果物だけが得られるシナリオプランニングの取り組み」と「成果も得られるシナリオプランニングの取り組み」という話でご紹介しています。  

同じような観点を、冒頭でもご紹介した細川英雄さんの『自分の<ことば>をつくる』では「<私>をくぐらせる」という表現を使っています。  

<私>をくぐらせる」ことが当事者意識につながる

例えば、同書の111ページでは、このことについて次のように書かれています。    

「<私>をくぐらせる」というのは、その話題に関して自分の問題意識をもって話すということです。  

また、その前の106ページからの部分では「自分ごととして表現するには」という観点で、次のようなことが書かれています。  

 ここで重要なのは、その対象(話題や事柄)をまず「自分の問題として捉えているか」ということです。 「自分の問題として捉える」とは、別の言い方をすれば、「自分ごと」ともいうことができます。やや硬い言い方をすれば、「当事者意識」ということでもあります。(中略) 当事者意識とは、その話題や事柄について自分が当事者であるという認識の仕方です。  

シナリオプランニングに取り組む場合、この文の「話題や事柄」というのは、シナリオプランニングをとおして描く将来の可能性のことであり、その将来の可能性の中で起こり得る課題が相当します。  

例えば、「2030年の日本社会」というテーマでシナリオプランニングに取り組んだ場合、起こり得る2030年の日本社会の可能性と、そこで生じる社会や顧客の課題に目を向けることになります。  

そのような課題を「当事者意識」を持って向き合い、その対応策を考えられるかどうかが、シナリオプランニングの取り組み後の成果を大きく左右します。  

先ほど引用した『自分の<ことば>をつくる』の一節のあとには、次のようにも書かれています。    

この意識を持たないと、話題や物事に関して、第三者的な立場から冷ややかに傍観する、ということになりかねません。これは、「評論家」的態度とでもいうべき、もっとも忌避される姿勢を形成してしまいます。

未来をつくるための「なぜ」を見いだす大切さ

組織での取り組みを進めていく際には、たしかに冷静な分析は必要です。  

しかし、その分析をする背景には、取り組む個人、あるいは組織としての「なぜ」があるかどうかが、その後の取り組みの実現可能性や広がりを大きく左右します。  

昨今、メディアなどで大きく騒がれている課題、例えば人口減少や環境・エネルギー問題、テクノロジーの活用などは、あらゆる組織が取り組んでいます。  

そのような中で、話題になっているトピックを追いかけるだけではなく、なぜ、自組織がその課題に取り組むのか、なぜ自分が担当したいと思っているのかという点を明らかにしなければ、その取り組みは、結局「誰がやっても同じもの」になってしまうでしょう。  

もちろん、「なぜ」を考えることは、決して簡単なことではありません。出来合いのフレームワークに穴埋めをすれば、できあがるようなものではありません。  

しかし、そのように簡単ではなく、手間がかかるものであるからこそ、他者や他組織ではない、自分・自組織の「なぜ」にたどり着くことができるのです。  

そして、その「なぜ」が、不確実な将来に向けた取り組みを進めていく、個人や組織の取り組みを後押しするものにもなります。   未来に関する取り組みを、成果ある、持続的なものにするためには、<私>をくぐらせるシナリオプランニングの取り組みが欠かせないのです。