シナリオプランニングで広がりのある戦略オプションを考える【Stylish Ideaメールマガジン vol.277】







シナリオプランニング実践の7つのステップを進め、ベースシナリオ、複数シナリオを作成し、最終的には戦略オプションを検討します。

このとき、せっかくシナリオプランニングに取り組んだにもかかわらず、出てくる戦略オプションの案が、どれも普段から考えているようなものばかり、というケースが少なくありません。

そのような戦略オプションの案が出てくる場合、たいていは、現在、取り組んでいることを念頭にシナリオを見てしまっています。

例えば、せっかくシナリオで今後の都心部や地方における環境変化の可能性を具体的に検討したのに、戦略オプション案、つまり自組織のことを考える際、急に頭の中に

  • 自社の主力の製品やサービス
  • 現在開発中の製品やサービス

などを思い浮かべてしまうのです。

そして、そのような製品やサービスを、どのように当てはめるかを考え出してしまう。

そうすると、最終的なアウトプットとしては、なんだか普段から考えているものばかり、ということになってしまいます。

もちろん、そのように検討する戦略オプション案が悪いわけではありません。

しかし、せっかくシナリオプランニングをとおして現在の延長線上ではない世界の可能性を考えたのですから、何か他の観点を盛り込めないかと思うはずです。

そのヒントになるのが『技術経営論』(丹羽清著)の中で紹介されている「発展型シーズ志向」という考え方です。

この本の中では「発展型シーズ志向」という考え方を紹介する前提を次のように述べています。


高度技術社会では、ユーザ(消費者)は自分の欲しいものを想像できないが、一方、技術者は、新技術によって実現できるユーザの新しい生活機会を創造できる立場にいる。

・『技術経営論』103ページ

技術経営に関する本なので、ここでは「技術者」の立場で書かれていますが、もう少し範囲を広げて「その分野の専門家」ととらえた方が汎用性があるでしょう。

このような前提の元、次のような区別をして、「発展型シーズ志向」について解説しています。

【従来のシーズ志向】
その分野の専門家の声「この製品ができたので、何かに使ってください」
   ↓
【従来のニーズ志向】
その分野の専門家の声「これは、あなたが欲しいと言っていたものです」
   ↓
【発展型シーズ志向】
その分野の専門家の声「ほら、こういう生活があるのですよ。すばらしいでしょう」

ここでいう「従来のシーズ志向」のように、専門家の観点だけで独りよがりな製品やサービスを開発する代わりに顧客のニーズに寄り添う「従来のニーズ志向」の観点が強調されています。

もちろん、それも大切ですが、シナリオプランニングを使って、普段なら考えない期間や範囲で見た社会を元に、顧客が想定していなかったような新たな可能性を提案するのが「発展型シーズ志向」です。

この「発展型シーズ志向」と同じような考え方を『新しい市場のつくりかた』では「文化開発」と呼んでいます。

同書では、従来の技術開発と、この本で紹介する文化開発を次のように対比して紹介しています。

【技術開発】
今しあわせだと思っている状態が、もっとコストパフォーマンス良く実現できるようになること

【文化開発】
今まではしあわせと思っていなかった状態をしあわせと思うようになり、それが実現できるようになること

同書では技術開発を「生産の論理」と呼び、一方、文化開発を「生活の論理」と呼んでいます。

現在のようにさまざまなものが変化する時代、その影響を受けるのは企業だけではありません。

その企業で働く人でもある私たちひとりひとり、つまり生活者もさまざまな影響を受けていきます。

そのような中では、現在を前提として、それをより良くするための取り組みも大切ですが、変化する時代にあわせた「しあわせ」を考えて、それを提示し、実現する方法を考えることも同じように大切です。

シナリオプランニングの取り組みをとおして現在を前提とせず、起こり得る変化の可能性を包含し、新しい「しあわせ」の形を描き、そこから戦略オプションの案を考えていく。

そのようにして生まれてきた戦略オプションの案の中には、既存の事業ドメインなどを超えたより「広がりのある」ものが含まれているはずです。