複数シナリオの各シナリオに名前をつける重要性【Stylish Ideaメールマガジン vol.268】






先月は『実践 シナリオ・プランニング』の出版を記念して、こんなイベントを開催しました。

・『実践 シナリオ・プランニング』出版記念対談イベント【シナリオプランニング × ??】

最終回は慶應義塾大学総合政策学部の教授で、パターン・ランゲージの専門家でもある井庭崇さんと「創造」をテーマに対談しました。

『プロジェクト・デザイン・パターン』では、井庭さんが専門とするパターン・ランゲージが「良いデザインや良い実践の秘訣を共有するための方法」と定義されています。

パターン・ランゲージは、良い実践の秘訣などを共有するために、経験則を言語化します。

その言語化について、井庭さんは次のように解説しています。


「言語化」と言っているのは、(中略)経験則のひとつひとつに「名前」をつけるということを意味しています。つまり、良いデザインや良い実践について言及できるようになる「新しい言葉」をつくるということです。
そのような言葉があることで、デザインや実践について考えやすくなったり、語りやすくなったりします。

出所:『プロジェクト・デザイン・パターン

 

イベントでの井庭さんとの対談では、パターン・ランゲージによってつけられる「名前」がシナリオプランニングにおける複数シナリオのタイトルと似ているのではないかという話になり、盛り上がりました。

私の『実践 シナリオ・プランニング』では、各シナリオの「名前」であるシナリオタイトルについて、次のように紹介しています。

各シナリオの世界観をひと言で表すような「シナリオタイトル」は、たとえシナリオのストーリーを作成しない場合でも、必ず設定してください。なぜならば、これまでの経験上、シナリオタイトルを適切に設定しておくと、「戦略的対話」が起こりやすくなるからです。

「戦略的対話」とは、複数シナリオを共有することで生まれる組織内の非公式なやり取りだとお伝えしました。戦略的対話を起こしやすくするためには、複数シナリオの内容を共通言語化することが大切です。このとき共通言語となるのが、シナリオタイトルなのです。

出所:『実践 シナリオ・プランニング

 

このようにして、それぞれの分野での「言語化」に関する観点を引用してみると、似たような意味合いを持っていることがわかります。

パターン・ランゲージという言葉があることで、デザインや実践について語りやすくなるという主張は、シナリオプランニングにおいてシナリオタイトルがあることで戦略的対話を起こしやすくなるという点と重なります。

単発の研修などでシナリオプランニングに取り組む場合には、なかなかシナリオタイトルまでつけるところまではいかないのが実情です。

しかし、プロジェクトなどでシナリオ作成に取り組み、完成したシナリオを活用していく場合には、必ずシナリオタイトルをつけるようにしています

このようなシナリオタイトルの重要性を踏まえて、プロジェクトなどで本格的にシナリオプランニングに取り組む場合はもちろん、未来創造ダイアローグに取り組んだ際の仕上げとして、シナリオタイトルをつけることにチャレンジしてみてください。

コラム執筆者:新井 宏征(あらい ひろゆき)

株式会社スタイリッシュ・アイデア 代表取締役

東京外国語大学大学院修後、SAPジャパン、情報通信総合研究所(NTTグループ)を経て、現在はシナリオプランニングやプロダクトマネジメントの考え方を応用し、事業と組織の両面からクライアントの変革を支援するコンサルティング活動に従事。

Saïd Business School Oxford Scenarios Programmeにおいて、世界におけるシナリオプランニング指導の第一人者であるRafael Ramirezや、Shell Internationalでシナリオプランニングを推進してきたKees van der HeijdenやCho-Oon Khongらにシナリオプランニングの指導を受ける。

その内容を理論的な基礎としながら、2013年の創業以来、日本の組織文化や慣習にあわせた実践的なシナリオプランニング活用支援を行っている。

資格として、PMP(Project Management Professional)、英検1級、TOEIC 990点、SAP関連資格などを保有している。

主な著書に『実践 シナリオ・プランニング』、訳書に『プロダクトマネジャーの教科書』、『成功するイノベーションは何が違うのか?』、『90日変革モデル』、『世界のエグゼクティブが学ぶ 誰もがリーダーになれる特別授業』(すべて翔泳社)などがある。