シナリオプランニングで成果物から考えるという勘違い【Stylish Ideaメールマガジン vol.227】
新しい「VUCA時代の経営ツールボックス」というセミナーシリーズの第一弾では、ロジックモデルというツールをご紹介します。
ただし、このセミナーでお伝えしたいのは、ロジックモデルの使い方だけではありません。このツールの使い方をとおして、プロダクトやサービス、事業を検討する際に分けて考えるべき「成果」と「成果物」の違いをお伝えしたいのです。
プロダクトやサービスを開発するためのプロジェクトに取り組むと、どうしてもそれらを市場に出すことにだけ意識が向きます。
しかし、そのように意識を向けているプロダクトやサービスは「成果物」であって、プロジェクトの「成果」ではありません。
では、「成果」とは何でしょうか?
いろいろな定義がありますが、プロダクトやサービスを開発している人にとってわかりやすく書かれている下記の本には、次のようなシンプルな定義がのっています。
"an outcome is a change in human behavior that drives business results"
(成果とは、人間の行動の変化のことであり、その変化がビジネスに良い結果をもたらす)
ここで言っている「人間」とは、一番わかりやすく言えば「顧客」です。そして、自社のプロダクトやサービスを利用することで得られる、その「顧客」の行動、あるいは「顧客」の立場や姿勢、知識などが変化することが成果なのです。
例えば、あるアプリを使うことで、
- ユーザのコミュニケーションが円滑になる
- ユーザの健康がより良くなる
- ユーザの英語力が高まる
といった変化が「成果」になるのです。
そして、上記の定義で書かれていたように、ユーザがこのような「成果」を出すことが、プロダクトの追加での購入やサービスの継続的な利用につながり、最終的に自社のビジネスに良い結果、つまり売上や利益などをもたらすのです。
シナリオプランニングにおいても、長期的な変化の可能性を考えたあとに考えるのは、まずは未来の時点での顧客に対する「成果」です。
よくあるのが、長期視点で不確実な可能性を考えたにもかかわらず、「成果」ではなく「成果物」を考えることに時間を割いてしまい、現状の延長線上にあるようなものしか出てこないという状況です。
こういう状況になり、「シナリオプランニングは使えない」という話しになることがありますが、それはシナリオプランニングの問題ではなく、「成果」と「成果物」をはき違えていることが原因となっている問題なのです。
このようにシナリオプランニングをやる場合でも、最後に重要になってくるのは、極々基本的な("簡単な"という意味ではありません)ビジネスの考え方なのです。
手法やツールの目新しさにまどわされずに、基本を徹底することを心がけていきましょう。
コラム執筆者:新井 宏征(あらい ひろゆき)

株式会社スタイリッシュ・アイデア 代表取締役
東京外国語大学大学院修後、SAPジャパン、情報通信総合研究所(NTTグループ)を経て、現在はシナリオプランニングやプロダクトマネジメントの考え方を応用し、事業と組織の両面からクライアントの変革を支援するコンサルティング活動に従事。
Saïd Business School Oxford Scenarios Programmeにおいて、世界におけるシナリオプランニング指導の第一人者であるRafael Ramirezや、Shell Internationalでシナリオプランニングを推進してきたKees van der HeijdenやCho-Oon Khongらにシナリオプランニングの指導を受ける。
その内容を理論的な基礎としながら、2013年の創業以来、日本の組織文化や慣習にあわせた実践的なシナリオプランニング活用支援を行っている。
資格として、PMP(Project Management Professional)、英検1級、TOEIC 990点、SAP関連資格などを保有している。
主な著書に『実践 シナリオ・プランニング』、訳書に『プロダクトマネジャーの教科書』、『成功するイノベーションは何が違うのか?』、『90日変革モデル』、『世界のエグゼクティブが学ぶ 誰もがリーダーになれる特別授業』(すべて翔泳社)などがある。