シナリオプランニングを「こってり」やる理由【Stylish Ideaメールマガジン vol.203】

シナリオプランニングのワークショップをやると、時折、以前に別の機会でシナリオプランニングを実践したことがあるという方がいらっしゃいます。

そういう方が、以前の体験と比較して、弊社がやるワークショップや研修の感想を伝えてくれることがあります。

先日はある経営者の方から、「新井さんのシナリオプランニングのワークショップの進め方はこってりしてるね!」と言われました。

何か自分の性格のことを指摘されているようでドキッとしましたが(笑)、せっかくの機会なのでどういう点でそう感じたかを尋ねてみました。

そうすると、いろいろな点で感じたが、特に、

・何度もシナリオをブラッシュアップしていく点
・ブラッシュアップしていく過程で、ファシリテーターである自分が判断するよりも全体での対話を重視している点

で、そう感じたとおっしゃっていました。

やはり、性格を指摘された感じがしましたが(笑)、もちろん、そうしているのには理由があります。

いつもお伝えしているように、シナリオプランニングはアウトプットではなくインプットです。

その点から考えると、シナリオ自体を考えることも大切ですが、完成したシナリオを踏まえて、未来の可能性を自分事として考えることが大切。

しかし、だからといって、シナリオを完成させる過程が大切ではないというわけではありません。

上で経営者の方に挙げていただいた、

・シナリオを何度もブラッシュアップする
・その過程を参加者の対話中心に進める

という背景には、そのような過程をとおして

「さまざまな未来の可能性に触れて、それを自分事として考える機会を増やす」

という意図があるのです。

リーンスタートアップなど、最近の事業開発の手法でも主張されているとおり、大切なのは仮説検証のサイクルをなるべく多く繰り返すこと。

事業開発では、その過程をとおして、自分たちの仮説の精度を高めていきます。

シナリオプランニングでは、ブラッシュアップの機会を多くし(もちろん、闇雲にではなく)、その機会を私の「鶴の一声」ではなく、参加者同士の対話で検証していくことで、参加者の皆さんの「未来の可能性を考える精度」を高めていくことを意図しています。

シナリオプランニングに取り組む人に、よく「これだけ長期の未来のことを考えるのに、2本の軸だけで大丈夫なのか?」と聞かれます。

たしかにアウトプットだけを見ると、そういう風に考えてしまうのはよくわかります。

しかし、というか、だからこそシナリオを作成する過程を「こってりしたもの」にするのです。

アウトプットを完成させる過程を繰り返し、対話をとおして行うことで、未来のいろいろな可能性を頭の中にストックしていく。

そういう過程から作り上げられたシナリオは「2本の軸」以上の可能性を考えられるものになっているのです。

(ちなみに「2本の軸だけ」の懸念に関して手法の面から考えると、軸だけに目を向けず、「シナリオ詳細分析」というステップをとおして2本以上のことを考えるという対処法をとりますが、それはまた別の機会に紹介します)

コラム執筆者:新井 宏征(あらい ひろゆき)

株式会社スタイリッシュ・アイデア 代表取締役

東京外国語大学大学院修後、SAPジャパン、情報通信総合研究所(NTTグループ)を経て、現在はシナリオプランニングやプロダクトマネジメントの考え方を応用し、事業と組織の両面からクライアントの変革を支援するコンサルティング活動に従事。

Saïd Business School Oxford Scenarios Programmeにおいて、世界におけるシナリオプランニング指導の第一人者であるRafael Ramirezや、Shell Internationalでシナリオプランニングを推進してきたKees van der HeijdenやCho-Oon Khongらにシナリオプランニングの指導を受ける。

その内容を理論的な基礎としながら、2013年の創業以来、日本の組織文化や慣習にあわせた実践的なシナリオプランニング活用支援を行っている。

資格として、PMP(Project Management Professional)、英検1級、TOEIC 990点、SAP関連資格などを保有している。

主な著書に『実践 シナリオ・プランニング』、訳書に『プロダクトマネジャーの教科書』、『成功するイノベーションは何が違うのか?』、『90日変革モデル』、『世界のエグゼクティブが学ぶ 誰もがリーダーになれる特別授業』(すべて翔泳社)などがある。