<わからない>に居続ける【Stylish Ideaメールマガジン vol.187】
数年前に、複数の企業合同で実施した、かなり大がかりな次世代リーダー育成プログラムに携わったことがあります。
先日、その企画に携わった人と久々に会って、いろいろなことを話していました。
その中で、
「あのプログラムに参加していたメンバーの中で、その後、本当にリーダーポジションに着いた人はどんな人なのか?」
という話しになりました。
幸いそのプログラムの評判が良く、プログラム後も参加者との交流が続いており、誰がどうなったのかを追うことができます。
プログラム参加者の現在のポジションと、当時のプログラム中の様子を思い浮かべると、結果を出している参加者には共通している特長があるという結論にたどりつきました。
その特長とは、
「わからない状態に居続ける」
というもの。
そのプログラムの初期のフェーズで、数日かけてシナリオプランニングを実施しました。
たしかにシナリオプランニングは難しい手法で、ほとんどの参加者が苦戦していました。
苦戦している中でも、「もう、これは、こんな感じでいいよ…」と、苦戦している状態、つまり、わからない状態から早いところ抜け出す方法を選んでしまっていた参加者がたくさんいました。
しかし、そういう中にいて、「いやぁ、ちょっと、これ、もう少し考えようよ」と、わからない状態を安易に解消しようとしない参加者もいたのです。
わからない状態を解消しようとしなかった参加者、言い換えると「わからない状態に居続ける」ことを選んだ参加者のほとんどが、プログラム後、大きな成果を上げていたメンバーだったのです。
いま、世の中を見渡すと、「わかりやすさ」を過剰に売りにしたものであふれています。
・わかりやすさが売りになっている書籍
・わかりやすさが売りになっている勉強法
・わかりやすさが売りになっている読書法
もちろん、そういったもの全てがダメだと言っているわけではありません。程よい「わかりやすさ」が必要な場合もあります。
ただ、過剰なほどにわかりやすさが強調され、それに慣れてしまうことで、「わからない状態」を嫌がる人も増えているのも事実です。
しかし、
・未来に向けて事業を考える場面
・未来に向けて組織を変える場面
・未来に向けてキャリアを変える場面
などは、「わからない状態」であふれています。
そして、私たちはますます「わからない状態」が強まっていく時代で仕事をし、キャリアを選び、日々の生活をしていかなければいけません。
そういう中では、安易にわかりやすさに頼らず、「わからない状態」というのを無闇に嫌がったり、「悪いことだ」と誤解したりすることなく、「わからない状態に居続ける」選択をする。
その「わからない状態」の中で、仮説を立て、検証をし、最終的な意思決定をして、さらに、その結果を元にして新たな仮説を立て…というサイクルを繰り返していく。
そんな実践をできる人こそが、次世代のリーダーにふさわしい人物だと痛感した出来事になりました。
コラム執筆者:新井 宏征(あらい ひろゆき)

株式会社スタイリッシュ・アイデア 代表取締役
東京外国語大学大学院修後、SAPジャパン、情報通信総合研究所(NTTグループ)を経て、現在はシナリオプランニングやプロダクトマネジメントの考え方を応用し、事業と組織の両面からクライアントの変革を支援するコンサルティング活動に従事。
Saïd Business School Oxford Scenarios Programmeにおいて、世界におけるシナリオプランニング指導の第一人者であるRafael Ramirezや、Shell Internationalでシナリオプランニングを推進してきたKees van der HeijdenやCho-Oon Khongらにシナリオプランニングの指導を受ける。
その内容を理論的な基礎としながら、2013年の創業以来、日本の組織文化や慣習にあわせた実践的なシナリオプランニング活用支援を行っている。
資格として、PMP(Project Management Professional)、英検1級、TOEIC 990点、SAP関連資格などを保有している。
主な著書に『実践 シナリオ・プランニング』、訳書に『プロダクトマネジャーの教科書』、『成功するイノベーションは何が違うのか?』、『90日変革モデル』、『世界のエグゼクティブが学ぶ 誰もがリーダーになれる特別授業』(すべて翔泳社)などがある。
