シナリオプランニングとリーダーシップ【Stylish Ideaメールマガジン vol.178】

『センスメーキング イン オーガニゼーションズ』の著書で知られるカール・E・ワイクがよく紹介するハンガリーの偵察隊のストーリーがあります。

軍事演習でアルプス山脈に偵察隊を送りましたが、その後に雪が降り続き、偵察隊は戻ってきません。3日たちダメかと思っていた頃に、彼らは無事に戻ってきました。

戻ってきた隊員に話しを聞くと、こう答えました。


「私たちも、もう終わりだと思ったけれど、隊員の一人がポケットに地図を見つけたのです。わたしたちは、その地図のおかげで冷静になり、ここまでたどり着くことができました」

ハンガリー人の少尉は、地図を見た。
すると、地図は「アルプス山脈」のものではなく、「ピレネー山脈」のものだった。

なぜ偵察隊は帰ってこられたのか? 

 

これにはいろんなバリエーションがありますが、最後のオチの部分は基本的にはどれも同じです。

このストーリーはセンスメイキングについて説明するために使われることが多いのですが、初めてこのストーリーを聞いたとき、私自身はリーダーシップについて考えました。

これを聞いて考えたのは、

「リーダーとは、普通の人が手詰まりだと考える状況において、それを打開するための選択肢を見出し、行動に移すことができる人」

なのではないかと考えたのです。

自分やチームが取り組んでいる難題を目の前にして「もうダメだ」と思うことは誰でもできます。

あきらめるための言い訳を並べ立てることもできるでしょう。

ともすれば、その言い訳を使って責任転嫁し、この状況になったのは人のせいだと言うこともできるかもしれません。

誰だって、そういう気持ちになることはあります。

しかし、そこで留まっていても何も変わりません。

そういう「お先真っ暗」なときにこそ、「何かできることはないのか?」と自分に問い、なんとか打開するための糸口を探していく。

その姿勢がリーダーシップではないかと思うのです。

シナリオプランニングでは、長期の未来を複数描いた上で、どのような未来になったとしても対応できる対応策を考えていきます。

そのように対応策を考えることで、通常なら「お先真っ暗」だと考える未来に対しても、その状況を解消するための糸口を考え続け、さまざまな未来に対する備えをつくります。

たしかに、この作業はとても大切ですし、ワークショップでも時間をかけて取り組みます。

しかし、この作業の裏にある本当に大切なことは、そのような作業をとおして、どのような未来にも対応していこうとするリーダーシップを育てること。

誰もがダメだと思っている中でも、ひとり、未来のことを見据え、未来を創ろうとしている。

先が見通せない今という時代に求められるリーダーシップの本質というのは、こういうところにあるのだと思っています。

コラム執筆者:新井 宏征(あらい ひろゆき)

株式会社スタイリッシュ・アイデア 代表取締役

東京外国語大学大学院修後、SAPジャパン、情報通信総合研究所(NTTグループ)を経て、現在はシナリオプランニングやプロダクトマネジメントの考え方を応用し、事業と組織の両面からクライアントの変革を支援するコンサルティング活動に従事。

Saïd Business School Oxford Scenarios Programmeにおいて、世界におけるシナリオプランニング指導の第一人者であるRafael Ramirezや、Shell Internationalでシナリオプランニングを推進してきたKees van der HeijdenやCho-Oon Khongらにシナリオプランニングの指導を受ける。

その内容を理論的な基礎としながら、2013年の創業以来、日本の組織文化や慣習にあわせた実践的なシナリオプランニング活用支援を行っている。

資格として、PMP(Project Management Professional)、英検1級、TOEIC 990点、SAP関連資格などを保有している。

主な著書に『実践 シナリオ・プランニング』、訳書に『プロダクトマネジャーの教科書』、『成功するイノベーションは何が違うのか?』、『90日変革モデル』、『世界のエグゼクティブが学ぶ 誰もがリーダーになれる特別授業』(すべて翔泳社)などがある。