シナリオプランニングで得られる「健全な危機感」とは【Stylish Ideaメールマガジン vol.176】
シナリオプランニングに取り組むことによって「健全な危機感」を持てるようになると解説をすることがあります。
公開セミナーやワークショップなどで何度も使っている言葉ですが、一般的にはなじみがない組み合わせであることは確かです。
そこで、「健全な危機感」とは何なのか、そして、なぜシナリオプランニングをやることで「健全な危機感」を持つことができるのかを考えてみたいと思います。
そもそも「危機感」の意味はというと
「危機がすぐそばまでせまっているという不安な感じ」(三省堂国語辞典 第七版)
となっています。
これを分解してみると、
- 危機がすぐそばまでせまっている
という事実と、
- それによって「不安な感じ」を持っている
という心理的な状態に分解できます。
危機がすぐそばまでせまっているという事実に気がつくことは、事業を行う上ではとても大事なことです。
しかし、不安な感じになってしまうことは良いことではありません。
不安によって、正常な思考力も低下しますし、判断力も鈍ります。
そう考えると「危機がすぐそばまでせまっている」という事実を把握しつつも、「不安な感じはない」状態がベストです。
そのベストな状態を、単なる「危機感」ではなく「健全な危機感」を持っている状態と呼んでいます。
では、なぜシナリオプランニングをやることでその「健全な危機感」を持つことができるのか?
シナリオプランニングは、
- 日常的には考えない先の未来について
- ひとつではなく複数の可能性を考える
という特徴を持つ手法です。
これらの特徴のうち1点目の特徴によって、危機を「すぐそばまでせまって」来る前に想定することができるようになります。
さらに、2点目の特徴によって、さまざまな可能性を事前に想定することができます。
これらの特徴が正しく反映されたシナリオを作成することができれば、危機がすぐそばまでせまってくる前に、さまざまな可能性を考慮することができます。
つまり、シナリオプランニングによって自社に取っての危機を事前にいろいろと想定でき、それによって不安になることなく、むしろ予めどのように対応するかを決められる。
こうなれば、不安ではなく、文字どおりに「健全な危機感」を持つことができるのです。
コラム執筆者:新井 宏征(あらい ひろゆき)

株式会社スタイリッシュ・アイデア 代表取締役
東京外国語大学大学院修後、SAPジャパン、情報通信総合研究所(NTTグループ)を経て、現在はシナリオプランニングやプロダクトマネジメントの考え方を応用し、事業と組織の両面からクライアントの変革を支援するコンサルティング活動に従事。
Saïd Business School Oxford Scenarios Programmeにおいて、世界におけるシナリオプランニング指導の第一人者であるRafael Ramirezや、Shell Internationalでシナリオプランニングを推進してきたKees van der HeijdenやCho-Oon Khongらにシナリオプランニングの指導を受ける。
その内容を理論的な基礎としながら、2013年の創業以来、日本の組織文化や慣習にあわせた実践的なシナリオプランニング活用支援を行っている。
資格として、PMP(Project Management Professional)、英検1級、TOEIC 990点、SAP関連資格などを保有している。
主な著書に『実践 シナリオ・プランニング』、訳書に『プロダクトマネジャーの教科書』、『成功するイノベーションは何が違うのか?』、『90日変革モデル』、『世界のエグゼクティブが学ぶ 誰もがリーダーになれる特別授業』(すべて翔泳社)などがある。