シナリオプランニングとは、将来における不確実な可能性を考える手法です

ただし、組織などでシナリオプランニングを活用する場合、将来における可能性を考えるだけでは十分ではありません。考え方可能性を元に組織としての対応を考える必要があります。そこで、株式会社スタイリッシュ・アイデアでは、組織で活用するためのシナリオプランニングを、次のとおり定義しています。

設定したテーマにおいて起こり得る不確実な未来の可能性を検討し、その結果をインプットとして不確実な未来の可能性に備える対応策を検討する。さらに、このステップを繰り返すことで、未来のとらえ方をアップデートし続ける取り組み。

出所:『実践シナリオ・プランニング』

現在のような不確実な時代において、組織や個人を取り巻く不確実性に対処し、不確実性を機会に変えるために、シナリオプランニングは非常に有効な手法です。

ここからは、上記の定義も踏まえながらシナリオプランニングについて解説します。

シナリオプランニングが必要となる背景

まず、シナリオプランニングが必要となる背景について考えていきます。

シナリオプランニングは不確実な時代に使われるものだとよく言われます。では、不確実な時代に考えなければいけないこととは何でしょうか?

それを考えるための前提として、企業などが提供している事業がどのようなものかを考えます。そうすると、図のように「自社の能力」、つまり自社が持っている強みや組織資源と、「顧客のニーズ」、つまり顧客が抱えている課題や欲求とが重なる部分が、自社が提供している事業の範囲だと考えることができます。

自社や顧客を取り巻く外部環境が大きくは変化しない場合は、この2つの要素だけを考えておけば良いかもしれません。しかし、実際にはそうではありません。外部環境が変化することによって、顧客のニーズも変化していきます。

例えば、スマートフォンが現在のように当たり前になる前と今では、情報収集に関する人々のニーズは大きく変わっているはずです。あるいは、新型コロナウイルス感染症の拡大によって、あらゆる面で生活者のニーズは変わっているでしょう。

図の上の部分に「社会や顧客を取り巻く環境変化」と書いてあるとおり、環境変化が顧客のニーズに影響を及ぼし、顧客のニーズの位置は変わっていきます。

環境変化によって顧客のニーズが変わっていくと、上の図のとおり、これまで事業の範囲だと思っていた部分に、顧客との接点がなくなってしまいます。これは、自社が提供していることが、顧客のニーズには合わなくなってしまったことを表しています。

ここから言えることは、過去から現在までの経験から抱いている常識や成功法則が、今後も同じように通用するわけではないということです。

むしろ、そのような成功体験が、自分たちが抱いている常識や成功法則といった思い込みを強化してしまうことになります。短期的には、そのような思い込みを持って事業を進めていても、同じように成功することができるかもしれません。しかし、それによって強固になった成功体験が思い込みを強化し、ますます外部環境の変化に目を向けられなくなってしまうかもしれません。

このような悪循環に陥らないようにするために取り組むのが、自分たちを取り巻いている外部環境の不確実な変化の可能性に目を向けるシナリオプランニングなのです。

シナリオプランニングにおける「不確実性」とは?

ここまで「不確実」あるいは「不確実性」という言葉を特に定義せずに使ってきました。たしかに「不確実」という言葉は、私たちが日常的に使っている言葉ではありますが、シナリオプランニングでは、次のような定義で使っています。

「不確実」という言葉を理解するために対義語の「確実」という言葉と比較して考えてみましょう。

シナリオプランニングでは、5年後、10年後、あるいは現在のように不確実な時代には3カ月後といったように、検討する将来の時間軸を設定します。図の中の定義に書いてある「設定した期間」とは、この時間軸のことを指しています。

「シナリオプランニングなのに、3カ月後?!」と思った方は、過去のメールマガジンで紹介した「90日シナリオプランニング」などをご覧ください。

設定した期間において、ある外部環境要因がどうなるかを考えます。そして、その外部環境要因がどうなっているのか、その状態をひとつに特定できることを「確実」と呼びます。

逆に、ある外部環境要因の設定した期間における状態をいくつか考えられる状態、言い換えれば、ひとつには特定できない状態のことを「不確実」と呼びます。

シナリオプランニングにおける「不確実性」の具体的な考え方の例

例えば、日本における「高齢化」という外部環境要因を考えてみましょう。この外部環境要因について、設定した期間を10年後として考えてみます。そうすると、10年後に「高齢化」という外部環境要因がどのような状態になっているか考えると、10年後の日本においても引き続き「高齢化」という状態が続いていると考えられます。このように設定した期間における状態をひとつに特定できるので、「高齢化」という外部環境要因は「確実」だと言えます。

別の例を考えてみましょう。例えば、日本における「自動運転サービスの普及」という外部環境要因を考えてみましょう。「高齢化」の場合と同じように、10年後にこの外部環境要因がどのような状態になっているかを考えるためにいろいろな情報を調べてみると、普及しているという立場や普及は限定的という立場など、さまざまな意見があることがわかります。また、普及している範囲についても、全国での可能性や一部の地域での可能性など、同じようにさまざまです。ここから10年後における「自動運転サービスの普及」については、いくつかの可能性が考えられる、言い換えれば、ひとつには特定できないため「不確実」だと判断します。

なお、シナリオプランニングにおいては、設定した期間における外部環境要因の状態について、「確実」「不確実」という区別を使うのではなく、不確実の程度がどの程度なのかという形で表現します。そのため、「確実」と呼ぶのではなく「不確実性が低い」、「不確実」と呼ぶのではなく「不確実性が高い」と呼ぶことが一般的です。

「不確実性」を元に複数のシナリオを検討する

「不確実」の定義や具体的な考え方の例を読んで、「そんなややこしいことはやってられない…」と思った方もいるかもしれません。しかし、実際には、このような頭の使い方を日常的にやっているのです。

例えば、3週間後の予定を考えるという場面を想定してみます。

3週間後の予定となると、天気もはっきりわかりません。長期予報を見ても、週間予報などと比べると、どうしても正確性は劣ります。そのため、晴れるのか、雨になるのか、どちらの可能性も想定しておいた方が良さそうです。

さらに、この例では週末を知り合いのAさんと過ごしたいと考えました。そのため、Aさんの予定が空いているのかどうかも、今の段階では定かではありません。

この「天気」と「Aさんの予定」という2つのことは、設定した期間(この場合は3週間)における状態をいくつか考えられるため、「不確実」なもの、シナリオプランニングの用語で言えば「不確実性が高い」ものだと言えます。

そのため、この2つの「不確実性が高い」ことをあわせて考えるとなると、次のような場合分けをすることができます。

「天気」が晴れか雨の2パターン、「Aさんの予定」が空いているか空いていないかの2パータン、それらを組み合わせると全部で4つの可能性を想定することができます。 これをシナリオプランニングでよく使われている2軸を使ったマトリクスで表すと次のようになります。

冒頭で紹介したシナリオプランニングの簡易な定義は「将来における不確実な可能性を考える手法」というものでしたが、このような形で3週間後という将来の不確実な可能性を考えています。

しかし、組織で使うためには将来のことを考えるだけでは不十分だとして、「設定したテーマにおいて起こり得る不確実な未来の可能性を検討し、その結果をインプットとして不確実な未来の可能性に備える対応策を検討する。」という定義を紹介しました。

この定義を3週間後の予定を考える場合にも当てはめると次のようになります。

もちろん、個人の3週間後の予定を考える際には、ここまで大げさなことはやる必要はありません。しかし、個人のプライベートな予定ではなく、組織が戦略や計画、事業などを考えるときには、ここまで単純ではありません。

例えば、組織を取り巻く不確実な外部環境要因にはさまざまなものがありますので、個人が「天気」と「Aさんの予定」と考えるよりも、もっとさまざまなことを考えなくてはいけません。また、できあがった4つのシナリオを考える場合も、個人の予定を考えるよりもずっと複雑なものになります。

しかし、背景にある基本的な考え方は同じです。実際に、世界経済フォーラムが作成した世界の食糧システム(Global Food Systems)に関するシナリオプランニングの取り組みでは、次のような複数シナリオを作成しています。

シナリオプランニングにおける頭の使い方

ここまで紹介した不確実な可能性に目を向けるシナリオプランニングの取り組みにおける頭の使い方を整理すると、次のように整理することができます。

話をわかりやすくするため、「未来は現在の延長」だと考える頭の使い方と比較して紹介します。

「未来は現在の延長」型の未来の見方

「未来は現在の延長」と考える頭の使い方は、図の左側で表したとおり、過去から現在までの延長線上に未来があると考えます。

未来に起きることは、現在よりも良くなる悪くなるという程度の差はあるかもしれませんが、本質的には変わらないと考えます。そのため、図にあるとおり、将来における可能性として想定するものはひとつだけです。

「未来は不確実」型の未来の見方

一方、「未来は不確実」と考える頭の使い方は、図の右側で表したとおり、過去から現在までの延長線上にある未来の可能性(図では ◆ の形で表している可能性)もあり得るとは考えています。しかし、3週間後の予定を考えたときと同じように、その他の可能性も考えます。(図では ★ などの形で表している可能性)。

「未来は不確実」型で起こる「枠組みの見直し」と「認識の見直し」

未来の可能性をいくつ見るのかという組織や個人の外側にあるものに着目して話を進めてきましたが、そのような未来の可能性を見ている組織や個人の内側に目を向けてみると、何が起きているのでしょうか。

いままで「未来は過去から現在の延長にある」と考えていたときと比較すると、「未来は不確実」型で考える場合、まずは物事を見ている枠組みの見直しが起こります。つまり、未来になったとしても、基本的には組織や個人を取り巻く環境はそうは変わらないだろうと思っていた枠組みが、シナリオプランニングをとおして起こり得る未来の可能性を描いた結果として見直され、これまで想定していなかったような可能性にも目を向けることができるようになりました。

物事を見ている枠組みの見直しが起きると、当然、入ってくる情報も変わってきます。それによって、未来に対する認識やその認識を元にした組織や個人の今後の可能性に対する認識など、自身が持っていた認識の見直しが起こります。

シナリオプランニングの土台となる「未来創造OS」

シナリオプランニングの取り組みでは、複数シナリオなどのアウトプットをつくれば良いわけではありません。

取り組みをとおして、組織や個人が持っているパラダイム(メンタルモデルや思い込みと呼んだりもします)に目を向け、先ほど紹介した「枠組みの見直し(reframing)」「認識の見直し(reperception)」をとおして、自分たちのパラダイムをアップデートしていくことが重要です。

その「枠組みの見直し(reframing)」と「認識の見直し(reperception)」に一度取り組めば良いわけでもありません。一度、パラダイムをアップデートしたとしても、その間に組織や個人をとりまく環境はどんどん変化していきます。そのため、「枠組みの見直し(reframing)」と「認識の見直し(reperception)」に何度も取り組んでいく必要があります。

それを「内省をとおした繰り返し(reflective iteration)」と呼んでいます。単に回数を繰り返せば良いわけではなく、内省をとおして自分たちのパラダイムに目を向けて繰り返していくことが大切です。

株式会社スタイリッシュ・アイデアでは、シナリオプランニングの取り組みをとおして、この3つのRで始まるステップ、つまり、

  • 「枠組みの見直し(reframing)」
  • 「認識の見直し(reperception)」
  • 「内省をとおした繰り返し(reflective iteration)」

というすべてのステップに取り組んでいくことが大切だと考え、この3つのRをまとめて「未来創造OS」と呼んでいます。

シナリオプランニングの取り組みに「未来創造OS」の考え方を組み込むことは、次のように表すことができます。

シナリオプランニングの取り組みにおいて、複数シナリオなどの目に見えるアウトプットをつくることだけに意識が向けられることが少なくありません。たしかに、そのような取り組みで複数シナリオなどの「成果物」を得ることはできますが、成果物ができたら、あとは普段の頭の使い方に戻ってしまいます。

ここに「未来創造OS」を組み込むと、シナリオプランニングの取り組みをとおして、組織や個人のパラダイムをアップデートすることにも目が向けられます。つまり、自分たちがこれまで「常識」だと思っていたことを見直し、環境変化にあわせて自分たちの頭の使い方をアップデートし、それを元にさまざまな組織活動を進めていくことができるようになるのです。そのような「成果」にまで目を向けたシナリオプランニングの取り組みを進めるために「未来創造OS」の考え方は欠かせません。

ここまで紹介したような内容を踏まえて、株式会社スタイリッシュ・アイデアでは、シナリオプランニングを次のように定義しているのです(再掲)。

設定したテーマにおいて起こり得る不確実な未来の可能性を検討し、その結果をインプットとして不確実な未来の可能性に備える対応策を検討する。さらに、このステップを繰り返すことで、未来のとらえ方をアップデートし続ける取り組み。

出所:『実践シナリオ・プランニング』

シナリオプランニングの実践プロセスの考え方

このように「未来創造OS」も組み合わせたシナリオプランニングの取り組みは、次のようなプロセスで実施します。

個々のプロセスについては、改めて別ページで紹介していきます。

シナリオプランニングの具体的な活用場面

ここまで紹介したような考え方を元にして、株式会社スタイリッシュ・アイデアでは、シナリオプランニングを活用して次のような取り組みにつなげています。

それぞれの取り組みとシナリオプランニングはどのようにつながるのかについては、改めて別ページで紹介していきます。

組織でのコンサルティングや研修の実施や、記事の執筆等、まずはお問い合わせください。

実践 シナリオ・プランニング

「シナリオ・プランニング」とは、組織や個人が未来を見据え、不確実性をチャンス・機会に変えていくための思考法。

シナリオ・プランニングを活用し、自分たちの「シナリオ」を作成することで、過度に悲観的な予測に立って不安に飲み込まれることも、将来の可能性を過度に楽観視することもなく、「健全な危機感」をもって未来を捉え、将来に対する備えをしていくことができるようになります。

本書ではシナリオ・プランニングの理論的な理解はもちろんのこと、シナリオ・プランニングの「実践」をあらゆる組織で無理なく進めていくための方法論、さらには、シナリオ・プランニングの「実践」をもとに、人と組織の成長を促すヒントを解き明かします。