統合報告書から読み解く「公式の未来」

スタイリッシュ・アイデアの新井です。

先週土曜日は都内で「シナリオプランニング練習会」の7月例会を開催しました。

「シナリオプランニング練習会」とは、弊社のコンサルティングや公開セミナー、あるいは拙著『実践 シナリオ・プランニング』でシナリオプランニングを学んだ方向けの継続学習の機会として提供しているもの。

7月の例会ではキース・ヴァン・デル・ハイデン氏の名著『シナリオ・プランニング』の中で紹介されている「逐次的シナリオ」という方法について取り上げ、実際のシナリオ作成にも取り組みました。

同書の中での「逐次的シナリオ」についての解説は、次のように始まります。

シナリオ・プランニングが十分受け入れられている場合は、演繹的メソッドや帰納的メソッドを使うほうが好ましい。この2種類のメソッドは、戦略的対話に影響を与える新しい考え方をもたらす。

しかしすべてのクライアントが、これらのアプローチを受け入れる用意があるというわけではない。たとえば、シナリオ・プランニングが導入されて間もない場合には、演繹的アプローチや帰納的アプローチが伝統的な予測手法より優れており、費用対効果も高いということを、クライアントはまだ十分に理解し、納得していない。

『シナリオ・プランニング』220ページ

組織の中でシナリオプランニングに取り組んでいらっしゃる方の中には、「こういう状況、あるなぁ…」と思った人も少ないのではないでしょうか?

このような場合に、出発点として「オフィシャルな未来」を使う手法というのが、逐次的メソッドとして紹介されているものです。

この部分、上に書いたとおり、組織でシナリオプランニングに取り組んでいらっしゃる人は大きく頷きながら読むようなことが書かれているのですが、いざ実践しようとすると、具体的なやり方までは解説されていない。

それで私なりに試行錯誤してきたやり方を、この月例会では試してみました。

具体的なやり方は割愛しますが、今回の練習会では公開されている統合報告書を使いました。そこで示されている将来ビジョンを元に「公式の未来」を読み解き、そこから複数シナリオをつくっていくというやり方です。

シナリオプランニング練習会の風景

この公式な未来を読み解いていくやり方、オープンな場では初めて紹介する機会になりましたが、皆さんにも自分にとってもいろいろな気づきがある機会になりました。

ディスカッションでは、この方法そのものの話を超えて、企業の長期ビジョン作成についても話題が広がりました。「ありたい姿」を描くだけでなく、「シナリオプランニング」で複数の未来可能性を探る。その後、理想と現実的な予測を組み合わせることで、不確実な未来にも対応できる柔軟なビジョンが作れるのではないか、というもの。

シナリオプランニングを使った企業のビジョン策定のご支援も行っている弊社ですが、このディスカッションも含め、さまざまな意見交換をすることで、日々の業務で活用してもらえるビジョンを策定するための参考にもなるヒントが得られた勉強会でした。

コラム執筆者:新井 宏征(あらい ひろゆき)

株式会社スタイリッシュ・アイデア 代表取締役

東京外国語大学大学院修後、SAPジャパン、情報通信総合研究所(NTTグループ)を経て、現在はシナリオプランニングやプロダクトマネジメントの考え方を応用し、事業と組織の両面からクライアントの変革を支援するコンサルティング活動に従事。

Saïd Business School Oxford Scenarios Programmeにおいて、世界におけるシナリオプランニング指導の第一人者であるRafael Ramirezや、Shell Internationalでシナリオプランニングを推進してきたKees van der HeijdenやCho-Oon Khongらにシナリオプランニングの指導を受ける。

その内容を理論的な基礎としながら、2013年の創業以来、日本の組織文化や慣習にあわせた実践的なシナリオプランニング活用支援を行っている。

資格として、PMP(Project Management Professional)、英検1級、TOEIC 990点、SAP関連資格などを保有している。

主な著書に『実践 シナリオ・プランニング』、訳書に『プロダクトマネジャーの教科書』、『成功するイノベーションは何が違うのか?』、『90日変革モデル』、『世界のエグゼクティブが学ぶ 誰もがリーダーになれる特別授業』(すべて翔泳社)などがある。