「縮図チーム」を使った”全員”を巻き込むビジョン策定の進め方

「ビジョンや戦略の策定には、できるだけ多くの社員を巻き込んだほうがいい」

ビジョン策定に取り組もうとする人なら、誰もが考えていることでしょう。しかし、実際にやろうとすると、すぐに壁にぶつかります。

過去に自分たちで取り組んだお客さまにヒアリングしてみても、それは理想だと即答されます。しかし、「現実的には無理ですよ」という声も同時に耳にします。

たしかに、全社員を一堂に集めてビジョンを考えていくのは現実的ではありません。しかし、だからと言って一部の部署だけでつくってしまうと、出来上がったビジョンに対して現場は「また上から降ってきた」と白けてしまう。こうして以前のコラムでも触れた「きれいごと」のビジョンが生まれてしまうわけです。

では、どうすればいいのでしょうか。

「全員を集める」のではなく「縮図」をつくる

ポイントは、全社員を集めることではなく、プロジェクトチーム自体を「会社全体の縮図」にすることです。

つまり、営業、開発、製造、管理、現場というように、できるだけ多くの部署から一人ずつメンバーを集め、そのチームの中に「会社全体と同じ構造」を再現するのです。

こうすることで、たとえ10人、20人のチームであっても、そこで交わされる議論は、特定の部署の視点に偏ったものではなく、全社的な視点を持ったものになります。各部署の現場感覚や課題意識がチームの中に持ち込まれるからです。

策定と浸透を同時に進める「持ち帰り対話」

むしろ本当に大事なのは、検討の過程で各メンバーが自部署に持ち帰り、「今こういうことを議論しているんだけど、どう思う?」という対話を現場で起こすことです。

このプロセスを意図的に設計しておくことで、ビジョンの策定と浸透が同時に進んでいきます。完成してから「さあ、どう伝えよう」と考えるのではなく、つくっている最中から自然と全社に広がっていく仕組みができるのです。

ビジョン策定が「次世代リーダー育成」になる

そして、このプロセスにはもう一つ大きな効果があります。

「縮図チーム」のメンバーは、策定のプロセスをとおして、自部署の視点だけでなく全社的な視点で考える力を身につけていきます。さらに、検討内容を自部署に持ち帰って対話を促す経験は、まさに「人を巻き込みながら組織を動かす」というリーダーシップの実践そのものです。

つまり、この取り組みは、ビジョン策定であると同時に、次世代リーダーの育成の場にもなっているのです。

ビジョンの策定を「成果物をつくる作業」としてだけとらえるのではなく、「組織を動かす仕組みづくり」としてとらえる。そのための第一歩が、チーム編成の段階で「会社全体の縮図」をつくることなのです。

コラム執筆者:新井 宏征(あらい ひろゆき)

株式会社スタイリッシュ・アイデア 代表取締役

東京外国語大学大学院修後、SAPジャパン、情報通信総合研究所(NTTグループ)を経て、現在はシナリオプランニングやプロダクトマネジメントの考え方を応用し、事業と組織の両面からクライアントの変革を支援するコンサルティング活動に従事。

Saïd Business School Oxford Scenarios Programmeにおいて、世界におけるシナリオプランニング指導の第一人者であるRafael Ramirezや、Shell Internationalでシナリオプランニングを推進してきたKees van der HeijdenやCho-Oon Khongらにシナリオプランニングの指導を受ける。

その内容を理論的な基礎としながら、2013年の創業以来、日本の組織文化や慣習にあわせた実践的なシナリオプランニング活用支援を行っている。

資格として、PMP(Project Management Professional)、英検1級、TOEIC 990点、SAP関連資格などを保有している。

主な著書に『実践 シナリオ・プランニング』、訳書に『プロダクトマネジャーの教科書』、『成功するイノベーションは何が違うのか?』、『90日変革モデル』、『世界のエグゼクティブが学ぶ 誰もがリーダーになれる特別授業』(すべて翔泳社)などがある。