シナリオプランニング上達のためのAI活用【Stylish Ideaメールマガジン vol.311】
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前回のコラムでは、弊社として毎年シナリオプランニングを使って戦略と計画を立てている中で、年々、それらが上達してきているという話をご紹介しました。
そして、その理由には2つあるというお話をし、前回のメールマガジンでは、「答え合わせ」ができているからという1つめの理由を書きました。
まだ読んでいないという方はこちらからご確認ください。
なぜ、シナリオプランニングを継続することが必要なのか?【Stylish Ideaメールマガジン vol.310】
AIを活用したシナリオプランニング実践
2つめの理由とはシナリオプランニングや戦略立案、計画策定にAIを活用しているからです。
私自身、ChatGPTをはじめ、さまざまなAIツールをいろいろと試し、日々の業務にも活用しています。
今のところ自社専用ものを構築して使っているのではないため、お客さまの個別の状況を入力するようなことはしない等の注意をして使っていますが、それでも大きな可能性があるものだと実感しています。
AIを活用することで自分にはない案を出すこともできましたし、自分では曖昧なところを二重三重にチェックすることもできました。また、自分で検討した結果をブラッシュアップする際にも、AIは大いに役に立っています。
AIやシナリオプランニングに対する反応
このようにお伝えすると「シナリオプランニング実践でAIをどう使ったのか?」と興味を持たれる方と、「AIなんかに戦略をつくらせて…」と否定的な感想を持たれる方の両方がいらっしゃるかもしれません。
実際にいろいろな方とお話ししていても、AIについていろいろな反応があることがわかります。
それは「AIは間違うこともあるから」という機能の不十分さに関することから、「AIなんかが○○の仕事を置き換えられるわけではない」という個人的な意見のようなものまでさまざまです。
少し話がそれますが、このような反応を聞いていると「これはシナリオプランニングに対する反応と同じだな」と思います。シナリオプランニングに限らず、新しいもの、自分の知らないものに対するものについての共通的な反応と言えるかもしれません。
自分たちにとって馴染みがない新しいものや知らないものが出てきたとき、それらのダメな部分のみを取り上げて強調したり、従来のやり方の良さを取り上げて強調することが共通的な反応です。
新しいものに対する否定的な反応の扱い方
シナリオプランニングについてお伝えする場面でも、このような反応が返ってくることはよくあります。シナリオプランニングはAIと比べても圧倒的に認知度が低いので、このような反応になることも仕方ありません。
しかし、そのような反応をされる方には、ご自身の中に出てきた否定的な反応だけを判断基準にしないでくださいとお伝えをしています。これは、決してそのような反応を否定するものではありません。そのような反応だけで判断しないでくださいとお伝えしています。
ではどうすれば良いかというと、シナリオプランニングの場合では、
- 否定する気持ちがあること自体は問題ないが、それをいったん脇に置いておき、
- 一度シナリオプランニングを試してみる機会を取り、
- その上で「どうやったらこの手法を活用できるか?」と考えてみる
ということを試していただきたいとお伝えしています。
感情だけで判断をするのではなく、限られた時間でも良いので実際に試していただき、その上で、例えば「今の自社ではシナリオプランニングという手法は活用する機会がない」というように判断していただきたいのです。
シナリオプランニングなどへのAI活用のコツ
AIも同じです。
たしかにAIは常に正しい答えを返してくるわけではありません。しかし、私たち人間も常に正しい答えを返すわけではありません。
社内のメンバーに何らかの対応をお願いした際、それが常に正しいことは限らないことはわかっています。だからこそ、指示を工夫したり、依頼をする仕事の内容を考えたり、出してきた結果を確認したりということを日々やっているわけです。
AIとの付き合い方もこれとまったく同じです。
今回のシナリオプランニングの取り組みから戦略立案までという流れでは、日々の情報収集からシナリオ作成時点、そして戦略検討時点まで、あらゆる場面でAIを活用しました。
しかし、それは「すべてをAIに丸投げした」わけではありません。
それぞれの場面で、AIをどのように使うのが良いのかとか、どのAIツールを使うのが良いのかという点を自分が判断してAIを活用し、結果を丁寧に確認し、必要があれば追加で質問していきました。
つまり、シナリオプランニングをやるとか戦略を立案するということ自体は、あくまでもAIを前提とせずに進め方を考え、実際の作業をしていきながら、その合間合間で「ここはAIを使ってみると良いのではないか?」と考えて試してみるのです。
まったく同じプロンプトで質問をしても、AIによって返ってくる回答はさまざまです。そのため、人間がやる前提で作業を進めつつ、複数のAIを使い分けていくと、たとえ一人でやっていても、あたかも多様なメンバーとのチームで仕事をしているような感覚になりました。
AIにせよ、シナリオプランニングにせよ、ツールは使いようです。「使いよう」ということは、それを使う人次第だと言うこともできるでしょう。
何のためにこのツールを活用するのかという目的を明確にして、先入観を持たず、新しいものをどんどんと取り入れていきたいですね。
コラム執筆者:新井 宏征(あらい ひろゆき)

株式会社スタイリッシュ・アイデア 代表取締役
東京外国語大学大学院修後、SAPジャパン、情報通信総合研究所(NTTグループ)を経て、現在はシナリオプランニングやプロダクトマネジメントの考え方を応用し、事業と組織の両面からクライアントの変革を支援するコンサルティング活動に従事。
Saïd Business School Oxford Scenarios Programmeにおいて、世界におけるシナリオプランニング指導の第一人者であるRafael Ramirezや、Shell Internationalでシナリオプランニングを推進してきたKees van der HeijdenやCho-Oon Khongらにシナリオプランニングの指導を受ける。
その内容を理論的な基礎としながら、2013年の創業以来、日本の組織文化や慣習にあわせた実践的なシナリオプランニング活用支援を行っている。
資格として、PMP(Project Management Professional)、英検1級、TOEIC 990点、SAP関連資格などを保有している。
主な著書に『実践 シナリオ・プランニング』、訳書に『プロダクトマネジャーの教科書』、『成功するイノベーションは何が違うのか?』、『90日変革モデル』、『世界のエグゼクティブが学ぶ 誰もがリーダーになれる特別授業』(すべて翔泳社)などがある。