変化を見る視点を増やすためのシナリオプランニング【Stylish Ideaメールマガジン vol.301】

メールマガジンバックナンバーシリーズ
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最近もさまざまなお客さまに対してシナリオプランニングのプロジェクト支援やワークショップを提供しています。

 さまざまな取り組みを見ていると、もちろん、皆さんの取り組み具合はそれぞれによって違いますが、悩むところ、悩むまではいかないけれど、なんだかモヤモヤしてスッキリしないところは、ある程度、共通しています。

●シナリオプランニングで感じる違和感

そのうちのひとつが、シナリオプランニングで見る世の中の変化と自分たちが普段取り組んでいることとの間に横たわる「ギャップ」に対する違和感です。

 ギャップに対する違和感は、ワークショップの中で次のように表現されます。

  • シナリオで考えている世界が幅広すぎて自分の業務には関係ない
  • シナリオで考えている社会や消費者がどうなろうと、自社はB2Bだから影響はない
  • シナリオで考えている世界がどうなろうと、自分の仕事は自分の仕事で品質を高めていけば、きちんと世の中には採用されるので、このような変化を知る必要はない

もちろん、このようなコメントが出てくる背景には、企業の中でのその人の立場が関係しているのかもしれません。

 立場というのは、例えば、かなり分野を絞り込んだ範囲での研究業務に従事しているとか、自社が扱っている製品が最終顧客が使う商品の極々一部でしかないような場合です。

 たしかに、そのような立場で日々仕事をしていると、世の中の変化は自分には関係ないと思うかも知れません。

 ただし、そういう立場の人はもちろん、そういう立場ではない人にとっても、昨今では、世の中の変化と自分たちの普段の取り組みの間に「ギャップ」を感じやすくなっている、言い換えると、つながりを見出しにくくなってきています。

●ポリクライシスとは

 なぜ、そう言えるのかというと、そのひとつの解説が、世界経済フォーラムが毎年出しているGlobal Risks Reportの最新版で紹介されているPolycrisis(ポリクライシス)という考え方です。

 このポリクライシスとは、Global Risks Report 2023の中では " a cluster of related global risks with compounding effects, such that the overall impact exceeds the sum of each part." と紹介されています。

 試しに訳してみるとポリクライシスとは「関連性があり、複合的な影響を持つグローバルリスクの集まりで、全体の影響がそれぞれの部分の総和を上回るようなもの」という感じでしょうか。

 この定義だけだと理解しにくいかもしれませんが、同レポートに載っている次の図を見ると、具体的にイメージできるのではないでしょうか。 

天然資源の危機が及ぼす生活コストへの影響

これは「天然資源(natural resources)」に関するポリクライシスを表現した図になります。

図の詳しい見方については、ぜひ同レポートをお読みいただきたいのですが、図の上部中央のNatural resource crisesという緑色の円が、天然資源に関する危機を表しています。

その周辺に、そこからつながる同じ緑色の環境関連のさまざまな危機があります。例えば生物多様性(biodiversity)に関する危機は、矢印を見るとわかるとおり、相互に影響し合っています。また、この天然資源に関する危機は、左側にある気候変動緩和の失敗(Failure to mitigate climate change)からの影響を受けていることがわかります。

さらにこの天然資源に関する危機が、左下のオレンジ色、地政学(geopolitical)に関する危機や真下にある経済(economic)の危機、そして右下にある生活コストの危機(cost-of-living crisis)という社会関連(societal)の危機にもつながっていることがわかります。

このように、今、私たちの周りで起きている危機は、相互に関連し合っていることを表しているのが、最新のGlobal Risks Reportでの考察です。

●変化を見る視点を増やすためのシナリオプランニング

例えば、皆さんが消費者関連の商品やサービスに関する事業に携わっていてシナリオをつくろうとすると、今後、日本における生活コストがどうなっていくのかについては注意を向けているかもしれません。

その際、そこで思考を止めてしまい、それだけでシナリオをつくろうとするのではなく、このレポートで示されているような環境面での影響に目を向けることが、シナリオプランニングで見る世の中の変化と自分たちが普段取り組んでいることとの間に横たわる「ギャップ」に目を向けることなのです。

もちろん、普段の仕事で、日々、そのような「ギャップ」に目を向け続けなくてはいけないということではありません。普段の仕事では、他にも意識しなければいけない世の中の変化や指標があるでしょう。

しかし、シナリオプランニングの取り組みをとおして、一度、このような世の中の変化と普段の取り組みのつながりを頭に入れておくと、それに関連する変化の兆候が見えてきた際に、いち早く気づくことができるようになります。

普段の取り組みに影響を与える要因はひとつではありません。その中には誰の目から見てもつながりや影響範囲がわかりやすいものもあれば、そうではないものもあります。

一見するとつながりや影響範囲がわかりにくい変化を見る視点を手に入れるために、シナリオプランニングは最適な手法なのです。