ロジックモデルで成果を起点として成果物を考える【Stylish Ideaメールマガジン vol.299】

弊社の公開セミナー「ロジックモデル活用講座」で取り上げるロジックモデルとは「事業の設計図」と呼ばれることがあります(「社会的インパクト評価に関する調査研究 最終報告書 (PDFファイル)」35ページ)。 

ロジックモデルの構成要素

上記の報告書には「事業が成果を上げるために必要な要素を体系的に図示化したもの」とも説明されていますが、次のような構成要素で構成される図として表現されることが一般的です。 

図:ロジックモデルの構成要素(公開セミナーテキストより抜粋) 

左から見ていくと、何かの事業に取り組むために、自社などが保有している「資源」を活用し、具体的な「活動」に取り組みます。それによって具体的な商品やサービスなどの「成果物(アウトプット)」ができあがります。それを顧客などが活用することで「成果(アウトカム)」が上がります。そして、その「成果」によって、社会などに中長期的にもたらされるものが「影響(インパクト)」です。 

ロジックモデルの構成から学ぶ重要なポイント

ロジックモデルのこの構成要素から私たちが学べることのひとつは、日頃、企業などで目に見える商品、あるいは目には見えないサービスを提供する際、自分たちが提供する「成果物」にだけ意識がいってしまっていないかという点です。

 ロジックモデルの図を元にすれば、日頃、商品やサービス、事業や戦略などを考える際、真ん中の「成果物」からの左半分(自社に関連する構成要素)だけではなく、右半分(社会や顧客に関連する構成要素)も意識できているでしょうか?

営利組織でのロジックモデルの活用

ここまでの説明を読んで、ロジックモデルをご存じの方は「え、ロジックモデルって営利組織でも使えるの?」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。 

たしかに冒頭で参照した報告書は、日本における非営利組織やソーシャルビジネスの活動に関する社会的インパクト評価の実践例について調べたものですし、私自身も、以前はこの報告書に書かれているとおり、ロジックモデルという手法は、非営利組織などで主に使われるものではあるものの、営利組織ではあまり使われないというイメージを持ってしまっていました。

 しかし、必ずしもそうではなく、ロジックモデルを営利組織でも活用することができると考えるようになったヒントが、3年前にたまたま読んだ『Outcomes Over Output: Why customer behavior is the key metric for business success』という本でした。

 Amazonの商品ページを見ていただくとわかりますが、76ページのボリュームで、ペーパーバック版は本というよりも、小冊子のようなサイズとボリュームです。

 しかし、そのコンパクトな本の中で解説されていたのが、プロダクト開発においてロジックモデルを応用する方法でした。極々簡単にではありますが、OKRなどへのつなぎについても説明されています。

 この本をきっかけに、シナリオプランニングとロジックモデルを組み合わせて活用することを思いつき、実際に、現在でもいろいろなプロジェクトで活用しています。

「完了」と「成功」は別のもの

 この『Outcome Over Output』の著者であるジョシュ・セイデン氏が共著者に名を連ねている『Sense and Respond: How Successful Organizations Listen to Customers and Create New Products Continuously』という本があるのですが、その訳書が『センス&レスポンド』として今年の5月に発売されました。 

監訳者の篠原稔和さんにご恵贈いただいていたものの、なかなかじっくり読むことができていなかったのですが、先日、必要があってぱらぱらとめくっていたところ(しっかり読めていないことには変わりないのですが…)、ロジックモデルを活用することの意義を再確認する内容に出会いました。 

それは本書第5章の「変化と不確実性のためのプランニング」という部分です。 本で書かれている内容の前後を入れ替えたりしながらの説明になってしまいますが、この章では「私たちのマネジメントの文化やツールは、アウトプットの観点から作られてきた(103ページ)」という指摘があります。

 このことについて別の部分では「"完了"を"成功"と定義する(102ページ)」と表現されています。 例えば過去の日本のように、多くの人が車や家電を持っていないような時代においては、この「"完了"を"成功"と定義する」という考え方をしていても大きく間違うことはなかったはずです。 品質の高い商品を納期どおりに生産し、それを出荷して「完了」とすれば、多くの人がそれを購入してくれる。そのため、「"完了"を"成功"と定義する」という考え方も間違ってはいなかったわけです。

 しかし、例えば『センス&レスポンド』で扱っているソフトウェアのようなものをはじめとして、現在、私たちが扱っている商品やサービスを考えると、「"作り終える"と"意図した効果をもたらす"の間の関係がそれほど明確でない(102ページ)」わけです。

 ロジックモデルの構成要素で言えば、自分たちの「資源」を使い、さまざまな「活動」をして「成果物」をつくったとしても、それが顧客にとって意味のある「成果」につながるとは限らないわけです。

成果を起点として成果物を考える

 ここから私たちが学ぶことができるのは、同書の103〜104ページに書かれている見だしにあるとおり「不確実性のなかでは、アウトプットを定義してもうまくいかない」「アウトプットの代わりにアウトカムを使用する」ということです。

 自分なりに言い換えると「アウトカム(成果)を起点としてアウトプット(成果物)を考える」となります。 日々、商品やサービスを考える立場にいる人にとって、「アウトプット(成果物)」のことを一切考えずに「アウトカム(成果)」を考えるというのは、簡単ではないでしょう。少なくとも、言われてすぐにできるというものではないかもしれません。

 ですので、慣れないうちは、まず自分たちが提供する「アウトプット(成果物)」を考えても大丈夫です。

 しかし、大切なのは、そこで終わりにしないこと。仮に「アウトプット(成果物)」を先に考えたとしても、それをきっかけに顧客にとっての「アウトカム(成果)」を考える。 そして出てきた「アウトカム(成果)」を起点にして、

  • 最初に考えた、このアウトプット(成果物)で良いのだろうか?
  • 最初に考えたものの他に、想定したアウトカム(成果)を満たすアウトプット(成果物)はないだろうか?
  • 今回は最初にアウトプット(成果物)から考えてしまったので今のアウトカム(成果)になっているが、他にアウトカム(成果)はないのだろうか?

というようなことを問い続け、アウトカム(成果)とアウトプット(成果物)を行き来しながら、両者を深めていくように取り組むのが現実的でしょう。 最初は慣れないかもしれませんが、これらの問いを念頭に置きながらこのプロセスを続けていくうちに、成果を起点として成果物を考えるというプロセスに、以前よりもずっと慣れていることに気づくはずです。