シナリオプランニングで直面する2つのギャップ【Stylish Ideaメールマガジン vol.298】

研修などの単発のトレーニングではなく、自組織の成果物(戦略や中期経営計画)の作成や課題解決のためにシナリオプランニングに取り組んでいると、よく直面する2つの「ギャップ」があります。

 その2つとは、こちら。

  • 世界の想定についてのギャップ
  • 自社の想定についてのギャップ

世界の想定についてのギャップとは?

このうち、よりわかりやすいのは、1つめの「世界の想定についてのギャップ」です。 

シナリオプランニングをやる以前、将来の世界について想定、特に個人ではなく、組織として将来の世界をどう想定しているのかと問われると、多くの場合、過去から現在までの延長線上にある世界か、あるいは「自組織として、こういう世界を目指している」という理想的な世界のどちらかです。

 一見すると、この2つの世界はまったく別のものに見えるかもしれませんが、どちらとも将来における不確実な可能性を想定していないという点では共通しています。 

このような状態で、将来における不確実な可能性を考慮するシナリオプランニングに取り組むと、元々、自分たちが想定していた世界観とのギャップに気づくことが、この「世界の想定についてのギャップ」です。

自社の想定についてのギャップとは?

もう一方の「自社の想定についてのギャップ」は、「世界の想定についてのギャップ」のあとに感じるギャップで、ベースシナリオや複数シナリオの理解が深まってきた時点、そして戦略オプション検討に取り組む時点で、特に感じるギャップです。

 「世界の想定についてのギャップ」で感じたとおり、シナリオプランニングで描かれる将来の可能性は、自社が想定していた過去からの延長や理想の姿とは別の世界の可能性が含まれています。

 ここで組織として考えなくてはいけないことのひとつは、「そのような可能性が現実のものとなったら、自社はどうするのか?」という点です。

 そこでは、既存の社内の仕組みを見直さなくてはいけないものもあるでしょう。また、既存の事業や顧客とまったく別のものを考える必要も出てくるかもしれません。

 自社の既存の状況とは異なるシナリオを前提として考えるとなると、当然、これまで慣れ親しんだ自社の状況とは別のことを考えなくてはいけなくなります。

 このときに私たちが感じるのが「自社の想定についてのギャップ」です。

自社の想定についてのギャップがもたらすもの

 このギャップに気づいたとき、例えば、次のような声が出てきます。 

  • 既存の仕組みやリソースを活かそうと思っても、活かせる場面がない…
  • 思い浮かぶ案が、既存の自社の取り組みと相反するものばかり…
  • 新たな案を思いついたとしても、今の仕組みでは実行できない…

このような声は、私たちが自由に考えることを妨げます。

 その結果、シナリオプランニングに取り組んだものの、結局、「新しい」案は考えられなかった、という結論になってしまうこともあります。

ギャップを活かして自分たちを「複雑にする

なぜ人と組織は変われないのか』という本の中には、次のような一文があります。

 世界が「複雑になりすぎている」と感じるのは、世界の複雑性と自分の能力の複雑性(つまり能力のレベル)の間にギャップが生まれているからだ。要するに、自分の処理能力を超えた課題に直面しているのである。

 ますます複雑になっている世の中の変化に対して、これまで慣れ親しんできた仕組みや事業、頭の使い方だけを当てはめて「新しい」ことを考えることはできません。

 シナリオプランニングの取り組みでは、たしかにベースシナリオ、複数シナリオといった成果物はつくります。

そして、そのような成果物を精度高くつくることは、その後の、社内の展開、浸透のためには非常に重要です。 しかし、だからといって成果物をつくりさえすれば良いわけではありません。

 シナリオプランニングをとおして「複雑になりすぎている」世界を認識し、その認識を元にして自分たちの側の複雑性も高めていかなければいけません。

 これまでのやり方はやり方で尊重しつつ、それだけにとらわれない頭の使い方、計画策定や経営管理の方法、あるいは組織運営の考え方などにも目を向け、シナリオプランニングの取り組みを、「複雑になりすぎている」世界に対応していくためにはどうしたら良いかを考えはじめていくためのきっかけとする。

 そのために、今回紹介した2つのギャップは、シナリオプランニングの取り組みにおいて、決して避けるものではなく、正しく認識し、活かしていくものなのです。