組織で対話を浸透させるためのシナリオプランニングと未来創造ダイアローグの組み合わせ方【Stylish Ideaメールマガジン vol.293】

最近のコラムでは「対話」について扱っています。

未来についての対話で育むオリジナリティ【Stylish Ideaメールマガジン vol.291】
未来を土台にした対話がつくる”共通の領土”【Stylish Ideaメールマガジン vol.292】


これまでのコラムを読んでいただくと、シナリオプランニングと対話の相性というか、シナリオプランニング、そしてそれを元にした未来創造ダイアローグという手法を進めていく上で、「対話」が必要だということをつかんでいただけるかもしれません。

一方で「書かれていることが理想的すぎて、こんなことが本当にできるのかどうかわからない」、「自組織のメンバーに、ここに書かれたようなことを理解してもらうのは、なかなか難しい気がする」という感想を持たれた方もいるのではないでしょうか。

このようなコメントは、単なる私の想像ではなく、未来創造ダイアローグについて紹介した際、実際にお客さまからいただいたものを元にしています。

そのような感想を持ってしまうことは理解できます。しかし、これまでの経験からいえば、十分な準備をして、適切なファシリテーションをすれば、程度の差はあれ、どのような組織であっても想定していた効果をあげることができました。

未来創造ダイアローグとシナリオプランニングの組み合わせ

未来創造ダイアローグは、いろいろな場面で使うことができますが、シナリオプランニングに本格的に取り組んでいる企業にとっては、シナリオプランニングの取り組みの成果を社内に浸透させる際に活用することをお薦めしています。

このような活用をとおして、これまで紹介したような「対話」の考え方を、組織の中に根づかせやすくなるのです。

通常、どのような組織であっても、シナリオプランニングに取り組むのは、組織の中の一部のメンバーです。

そのような状況でシナリオプランニングを進めてよく起きる課題のひとつが、シナリオプランニングの取り組みに携わったメンバーは、取り組みをとおして共通の危機感を持つことができ、その危機感を踏まえた施策の検討や取り組みの変化につなげていくことができているものの、他のメンバーはそうではないというもの。

その差を埋めるために、プロジェクトの成果を使った報告会などを実施します。しかし、実施したとしても、実施した担当者が「自分たちはこれだけ危機感を持っているのに、なぜ、同じものを見ても、この危機感を共有できないのだろうか…」と感じて終わる、という結果になってしまうことが少なくありません。

しかし、そうなってしまうのは不思議ではないのです。なぜなら、そのように開かれる報告会は、通常、取り組んだ側からの一方的なもので、文字どおり「報告」で終わってしまっているからです。

「危機感」と「危機」を分けて考える

「危機感」と「危機」は違います。

「危機」というのは、自分たちにとって都合の悪いものが顕在化している状態です。顕在化、つまり、目に見える形で都合が悪い事態が起きているので、誰もがその状態を同じように解釈しやすいのです。

しかし「危機感」は「危機」とは違います。「危機感」は、具体的な事態ではなく、あくまでも感覚です。

日本人の感覚のとらえ方についていろいろな議論がありますが、ここでは、感覚は何もないところから自然と湧き上がってくるものではなく、その感覚を感じる原因となる対象があり、その対象からの影響を受けて、感覚として感じるものとして話を進めます。

シナリオプランニングに取り組んだメンバーは、シナリオを作成する過程で、未来の状態、例えば「2030年の日本社会」という対象を元にして、それについての対話をしたことで、「危機感」という感覚を感じているわけです。

そのため、シナリオプランニングに取り組んだ人たちの感覚だけを一方的に伝えるよりも、取り組んだ人たちが「危機感」を持つにいたった対象である未来のシナリオを使い、自分たちが行った対話のプロセスを追体験してもらう方が、同じ感覚を持ってもらいやすくなるのです。

シナリオプランニングを導入する理想と折衷案

組織において、手法としてのシナリオプランニングだけではなく、そこから得られる成果を全員が体感し、日々の業務でそれを活かしてもらえるようにするためには、時間をかけて組織の全メンバーがシナリオプランニングに精通することが理想的です。

しかし、現実的には、そこまでの労力をかけられる組織は多くありません。

そこで目を向けるのが未来創造ダイアローグです。

まずは一部のメンバーでシナリオプランニングの取り組みを進め、その成果を未来創造ダイアローグを使って組織内に浸透させることにより、「手法としてのシナリオプランニングを実践できるわけではないものの、その成果は理解し、活用できている」メンバーを増やしていきます

そうすることで、全員にシナリオプランニングを習得してもらう場合よりは短期間で、同じような成果を目指すことができます。

その後、未来創造ダイアローグを続けるうちに「ここで使うをシナリオを自分でもつくれるようになりたい」というメンバーを選抜し、少しずつシナリオプランニングの社内実践者を増やしていく。

このようにシナリオプランニングと未来創造ダイアローグを組み合わせた取り組みを行うことで、シナリオプランニングによる効果も得ながら、組織の中に「対話」の考え方を自然に定着させていくことができるようになるのです。