未来についての対話で育むオリジナリティ【Stylish Ideaメールマガジン vol.291】

未来創造ダイアローグ」は、シナリオプランニングの手法を元にした対話手法です。 

シナリオプランニングは非常にすぐれた手法ですが、人によっては難易度が高く、時間もかかるということで、実践するのに二の足を踏む方も少なくありません。 

難易度が高く、時間がかかったとしても、組織の戦略や中期経営計画を考えたり、新規事業をじっくりと考える場合には良いかもしれません。 

しかし、例えば、部署のメンバー全員で、役職や経験に関係なく、今後の目指すべき方向性をざっくばらんに話したり、日々仕事を進めているチームメンバー全員で、これからの働き方について改めて話したりしたい場合には、不確実な将来のことを考えるシナリオプランニングの手法が良さそうだと思っても、時間をかけて7つのステップに取り組むことは躊躇してしまうでしょう。

このように「シナリオプランニングには取り組みたいけど、そこまで時間や労力をかけられない」と考えている方に、シナリオプランニングによって得られる効果を大幅に損なわないようにしながら、前提知識がなくても不確実な将来のことを考えられるようにしたものが「未来創造ダイアローグ」という対話手法です。 

なぜチームに「対話」が必要なのか?

ここまで何度か「対話手法」という言葉を使ってきましたが、未来についてひとりで考えるのではなく、チームや部署、組織で対話をしながら考えていく点が、この手法の重要な点です。

 先日、Futuringコミュニティで実施した『自分の<ことば>をつくる』の著者である細川英雄さんとの対談では、個人のオリジナリティ(固有性)を育んでいくための対話の必要性についての話が出ました。 

「オリジナリティ」と言われると、ついつい「そんなものは自分にはない」と言いたくなってしまいますが、細川さんは著書『自分の<ことば>をつくる』の中で、それは決して特別なものではなく「あなたの存在そのものが固有なのだ」と言っています。 

ダイバーシティの必要性が叫ばれている中、チームや組織においては、固有な存在であるメンバーひとりひとりが、それぞれのオリジナリティを発揮してもらえるような環境を整えることは、どうしても考えなくてはいけないもののはずです。 

では、どうすれば、チームのメンバーそれぞれの中にある固有なものを見いだして、それらを日々の活動の中で発揮できるようになるのでしょうか。 

細川さんは、そのために必要なのが他者との対話だと説きます。

 私たちは、これまでの人生から得たさまざまな経験を踏まえて、自分固有の言いたいことや考えていることをつくっていきます。

しかし、自分の中でとどめているだけでは、それらが一体どのようなものなのか、自分でもはっきりとは認識できません。

そこで、まだ十分には整理されていない状態で、拙いながらも、それらを他者に伝えることが重要になります。

他者に伝え、他者からの反応(例えば自分が思っていた以上に賛同を得られたとか、自分では思いつかない表現で言い換えてもらったとか、考えていく過程で見落としていた点を伝えてもらった等)を得ることで、改めて「なるほど、自分はそういうことを考えていたのか」ということが明確になります。

こうして、自分のオリジナリティを、他者との対話をとおして理解するのです。 このことについて『自分の<ことば>をつくる』の中では次のように紹介されています。 

人がものをつくりあげるということは、(中略)そこに本来的なオリジナリティが存在するのではなく、他者とのやりとりのプロセスにおいて、さまざまな刺激を受けつつ、それを自分のものにして、最終的には、自分のことばとして表現するということになります。(中略)オリジナリティは、はじめから「私」の中にはっきりと見えるかたちで存在するものではなく、他者とのやりとりのプロセスの中で少しずつ姿を見せ始め、自分と環境の間に浮遊するものとして把握されるからです。(『自分の<ことば>をつくる』33〜34ページ)

「将来やりたいこと」というオリジナリティの育まれ方

もう少し具体的に考えるために、例えば、「あなたは将来、何をやりたいの?」と誰かに聞かれた場面を想像するとわかりやすいかもしれません。 

誰もが一度は聞かれたことがあるであろうこの手の質問に対して、どの程度明確に答えられるかは、過去にこのような質問をされたことがあるかどうか、しかも、それをどれだけ丁寧に質問してもらったかに大きく影響します。 

この手の質問をされたのが初めての場合、ほとんどの人が答えに詰まるでしょう。

そんな大きな質問をされても、すぐに答えられるものではないと思うかもしれません。 

しかし、そのように質問されたことがきっかけで、自分の頭が動き出します。

特に、そのような質問をただぶっきらぼうに突きつけられるだけではなく、例えば、

  • 過去にやりたいと思っていたことは何かあるか?
  • それに近いことを試したことがあるか?
  • 試したことがあるとして、実際にやってみてどんな感想を持ったのか?
  • そのような感想を持った理由は何なのか?

というようなことをあわせて尋ねられれば、より自分の頭は活発に動くでしょう。 

そして、その結果出てきた言いたいことや考えていることを相手に伝え、その反応や追加でされる質問などから、「他の誰でもない自分が将来やりたいこと」というオリジナリティが姿を現します。 

もちろん、そこで出てきた「やりたいこと」の答えだけを見れば、他の人と似たようなものになるかもしれません。しかし、その「やりたいこと」に至るまでの自分の体験や思考は、自分固有のものであるはずです。

未来を媒介にする対話で実現されるもの

話がだいぶ長くなりましたので、ここでまとめます。 

ここまでの説明で、(なんとなくではあるかもしれませんが)個人のオリジナリティを育むために他者とのプロセス(対話)が必要であることは理解していただけたかもしれません。 

これを組織内のチームや部署に応用すると、それぞれのメンバーのオリジナリティを育み、それを発揮してもらうためには、対話をすることが必要だということになります。

 しかし、そのためには誰にとっても対等で話すことができる環境が欠かせません。 

「未来創造ダイアローグ」では、未来という、誰にとっても経験したことがないものを媒介にすることによって、この「誰にとっても対等で話すことができる環境」を実現しようとしています

 もちろん、単に未来を媒介にするだけで「誰にとっても対等で話すことができる環境」が実現されるわけではありません。それ以外にもさまざまなことに目を向け、設計やファシリテーションをすることが必要です。 

そのような周辺への気遣いも十分にしつつも、未来を媒介にすることを中心に据えたこの未来創造ダイアローグは、チームのメンバーが持つそれぞれのオリジナリティを育み、発揮したい場合の選択肢として、ぜひ検討していただきたい対話手法です。