組織でのシナリオプランニング活用のリアル【Stylish Ideaメールマガジン vol.287】
このメールマガジンでも何度もお伝えしていることですが、シナリオプランニングで作成するシナリオはアウトプットではなくて、インプットです。
(「 あー、またこの話か…」という方も、どうぞお付き合いください…)
言い換えれば、2軸、4象限で表現される複数の未来の可能性を考えることが、シナリオプランニングのゴールではありません。あくまでも、それはインプットであり、そのようなシナリオを元にして自組織のことを考えることの方にこそ、取り組みの重点を置かなければいけません。
私が、この「シナリオはアウトプットではなくて、インプット」ということを、口すっぱくお伝えしているのは、どうしても「アウトプットとしてのシナリオ作成」にだけ注力してしまうシナリオプランニングの取り組みが多いからです。
言い換えれば、シナリオを作成したあと、それを元に自組織のことを十分に考えるという「インプットとしてのシナリオ活用」を重視しない取り組みが多いと感じています。
では、なぜ、そのような取り組みになってしまうのでしょうか?
「アウトプットとしてのシナリオ作成」にだけ注力してしまう理由
それは、アウトプットとしてのシナリオを作成することの方が簡単だからです。
ただし、ここで言う「簡単」というのは、一般的な意味での「簡単」ではなく、「インプットとしてのシナリオ活用」と比べて簡単だということです。
「簡単」というよりも、「やりやすい」と表現した方が正確かもしれません。
なぜ「やりやすい」のかというと、それは次のように考える対象が違うことが原因だと考えています。
アウトプットとしてのシナリオ作成:外部環境のこと
インプットとしてのシナリオ活用 :自組織のこと
たしかに「アウトプットとしてのシナリオ作成」は、広げるためのリサーチと深めるためのリサーチが必要になり時間がかかりますし、軸を検討することも簡単ではありません。
しかし、どれだけ時間がかかり、難しかったとしても、考える対象は自組織以外です。
一方、「インプットとしてのシナリオ活用」では、自組織として、そのような未来に向けて、自分たちとしてどんなことに取り組まなければいけないかを考えなくてはいけません。
つまり、「インプットとしてのシナリオ活用」に取り組むというのは、「検討した未来の可能性を自分事として考える」ことだと言うことができます。
そして、この「自分事として考える」からこそ、難しく感じてしまったり、ついつい及び腰になってしまうのではないかと思うのです。
ワークショップでの「インプットとしてのシナリオ活用」のリアル
例えば、ワークショップなどをやっていて、この最後の「インプットとしてのシナリオ活用」に取り組む場面で、私が参加者の方によくする質問があります。
それは、
「 今、みなさんが考えている未来に向けての対応策、それを『明日からあなたが担当として取り組んでください』と言われたら、本当にやりますか?」
というものです。
こう質問すると、「えっ…」となって、口ごもってしまう人が出てきます。そして「考えたことを本当にやるのだとは思っていなかった…」というコメントが返ってきます。
あるいは、「自分としてはやりたいと思っているけど、今のうちの組織では実行できない」というコメントをいただくこともあります。
「インプットとしてのシナリオ活用」で本当に考えるべきこと
「インプットとしてのシナリオ活用」をとおして、最終的に自組織としての対応策を考えるとは、何もIR資料に載るような大きな方向性を考えることだけではありません。
大きな方向性を考えつつ、それが今の自組織では実行できないのであれば、それを実行できるようにするための取り組みもあわせて施策として考え、実行するところまで落とし込むことが「インプットとしてのシナリオ活用」で考えるべきことなのです。
もちろん、このような取り組みをすると、普段、「見て見ぬふり」をしているものに向き合うことも必要になってくるでしょう。
「見て見ぬふり」をしているものをどうにかするためには、自分がどうにかする必要も出てきます。そうすると、仕事が増える、あるいは責任が増える、というように現実的なことが、あれもこれも出てきます。
そういうことをすべて含めて「対応策」として考えていくことが、「インプットとしてのシナリオ活用」でやるべきことです。
「未来」を考えることがゴールではない
現在のように先が読みにくい時代になって、さまざまな「未来を考えるための手法やツール」が出てきています。
どんな手法やツールを使って「未来」を考えるにせよ、特に組織での取り組みとして進める場合には、自分たちと切り離した「未来」を考えるだけで十分であるはずはありません。「自分たち」は「今から」何をするのかというところまで落とし込んでいくことを外してはならないのです。
その「自分たち」が「今から」取り組むことを考える際、日頃考えている枠組みにとらわれずに考えるための媒介として使うのが「未来を考える」ことの本来の役割であるはずです。
もちろん、それは簡単なことではありません。しかし、簡単ではないからこそ、シナリオプランニングのような確立された体系化した手法を使って考えていく必要があるのです。
コラム執筆者:新井 宏征(あらい ひろゆき)

株式会社スタイリッシュ・アイデア 代表取締役
東京外国語大学大学院修後、SAPジャパン、情報通信総合研究所(NTTグループ)を経て、現在はシナリオプランニングやプロダクトマネジメントの考え方を応用し、事業と組織の両面からクライアントの変革を支援するコンサルティング活動に従事。
Saïd Business School Oxford Scenarios Programmeにおいて、世界におけるシナリオプランニング指導の第一人者であるRafael Ramirezや、Shell Internationalでシナリオプランニングを推進してきたKees van der HeijdenやCho-Oon Khongらにシナリオプランニングの指導を受ける。
その内容を理論的な基礎としながら、2013年の創業以来、日本の組織文化や慣習にあわせた実践的なシナリオプランニング活用支援を行っている。
資格として、PMP(Project Management Professional)、英検1級、TOEIC 990点、SAP関連資格などを保有している。
主な著書に『実践 シナリオ・プランニング』、訳書に『プロダクトマネジャーの教科書』、『成功するイノベーションは何が違うのか?』、『90日変革モデル』、『世界のエグゼクティブが学ぶ 誰もがリーダーになれる特別授業』(すべて翔泳社)などがある。