”悪魔の代弁者”に語らせる未来のシナリオ【Stylish Ideaメールマガジン vol.279】
シナリオプランニングをやっていて、軸を検討したり、シナリオの中身を検討する際に苦労するのは、自分の経験や信念と反する世界観を考えること。
可能性としてはあり得るのかもと思いながら、
「そうなる可能性は自分のこれまでの経験からあり得ない」
「日本が将来そういう方向に進むわけがない」
ということを考えてしまい、そういうことが起こる可能性を考えられない。
グループのメンバーに言われて、なんとか考えようとするも、経験や信念に反するため、さっぱり中身が想像できないということが起こります。
このような場合、どうすれば良いでしょうか?
まずは、いつもこのメールマガジンなどでお伝えしているとおり、
「策定しているシナリオはアウトプットではなく、インプットである」
ということに、改めて目を向けてください。
シナリオプランニングの取り組みのゴールは、シナリオを考えることではなく、シナリオを元に自分たちの対応策を考えること。
ですので、自分の経験や信念に反する未来の可能性は、自分たちの対応策を考えるための元となるものであって、それがゴールではありません。
と、ここまで説明したとしても、
「いや、それは頭ではわかっているけれど、それはそうとしても、そもそもこういう可能性は自分の経験上、起こるはずがないと思う…」
と言いたくなる人も多いでしょう。
そういう時に応用できる可能性があるのが、「悪魔の代弁者(devil's advocate)」と呼ばれる考え方です。
この言葉でウェブを調べていただくと、いろいろな解説が出てくると思いますが、あえて批判・反論する役割を担う人のことを「悪魔の代弁者」と呼びます。
この役割を、自分の中につくって、未来の可能性を考えてみるのです。
例えば、経験上、起こるはずがないと思っているある未来の可能性について、
「そんなことはない、それは起こる可能性があるんだ。」
という立場をあえて取るのです。
自分の経験や信念とは関係なく、「その可能性が起きる」という前提に立ち、あくまでも思考のシミュレーションということで、いろいろなことを考えてみます。
いろいろなこと、とは例えば次のようなことです。
・それが起きる背景には○○という変化がある
・それが起きたとしたら、シナリオテーマで設定した世界にはに○○という影響がある
・そうなったら自社には○○という影響がある
拙著などでも紹介していますが、シナリオプランニングとは "what if"、つまり「もし、○○になったらどうなるか?」を考えるための手法。
あくまでも仮定の話なので、経験や信念に反する可能性を考えることは、決してそれらを否定するためではありません。
そう考えて、一度、「悪魔の代弁者」になりきり、今まで考えたことがない可能性を考えてみてはいかがでしょうか。
もしかすると、そうして考えたことから、自分の経験や信念をアップデートするような新たな視点が見つかる可能性があります。
これこそが拙著「実践シナリオ・プランニング」でも紹介している「未来創造OS」を働かせて取り組むシナリオプランニングなのです。
コラム執筆者:新井 宏征(あらい ひろゆき)

株式会社スタイリッシュ・アイデア 代表取締役
東京外国語大学大学院修後、SAPジャパン、情報通信総合研究所(NTTグループ)を経て、現在はシナリオプランニングやプロダクトマネジメントの考え方を応用し、事業と組織の両面からクライアントの変革を支援するコンサルティング活動に従事。
Saïd Business School Oxford Scenarios Programmeにおいて、世界におけるシナリオプランニング指導の第一人者であるRafael Ramirezや、Shell Internationalでシナリオプランニングを推進してきたKees van der HeijdenやCho-Oon Khongらにシナリオプランニングの指導を受ける。
その内容を理論的な基礎としながら、2013年の創業以来、日本の組織文化や慣習にあわせた実践的なシナリオプランニング活用支援を行っている。
資格として、PMP(Project Management Professional)、英検1級、TOEIC 990点、SAP関連資格などを保有している。
主な著書に『実践 シナリオ・プランニング』、訳書に『プロダクトマネジャーの教科書』、『成功するイノベーションは何が違うのか?』、『90日変革モデル』、『世界のエグゼクティブが学ぶ 誰もがリーダーになれる特別授業』(すべて翔泳社)などがある。