シナリオプランニングで起こりやすい"手段の目的化"の罠【Stylish Ideaメールマガジン vol.274】

さまざまな組織でシナリオプランニングをやっていると、やはり2軸での複数シナリオ作成がみなさん一番苦戦するようです。

日々仕事をやっているとき、私たちはどちらかというとほぼ確実なこと、シナリオプランニングの用語で言えば不確実性が低いことを元に動いています。

それが当たり前の中で、自社を取り巻く不確実性が高いことを中心に考えなくてはいけなというのは、やはり簡単ではありません。

簡単ではないからこそ、複数シナリオを考える3つのステップ、

(1) リサーチした外部環境要因を元に軸をつくる
(2) 軸を組み合わせて複数シナリオをつくる
(3) 複数シナリオの中身を検討する

を順にたどっていくことで、自分たちにとって考える意義がある複数シナリオを考えやすくなります。

(複数シナリオ作成をこの3つに分けて考えることについての詳細は、拙著『実践 シナリオ・プランニング』を
 参照してください )

しかし、このようにステップにしているからこそ陥ってしまう望ましくない状況もあります。

それは「軸」や「複数シナリオ」といった形式にそったものをつくることにとらわれてしまい、本来の目的を忘れてしまうという状況です。

例えば、何本かの軸をつくり、それらのいろいろなパターンの組み合わせを試すということを繰り返すことは時間も労力もかかります。

そうすると、そのうち、「この組み合わせが考えやすそうだから、これにしようか」という基準で2軸を決めてしまったりします。

しかし、忘れてはいけないのは、「不確実な未来の可能性を考えるため」に軸をつくったり、組み合わせたりしているということです。

不確実な未来の可能性を考えることを、誰にとってもやりやすくするためにつくられたものがシナリオプランニングという手法です。

一方、このように手法として体系化されたからこそ、「手段が目的化する」ことに陥りやすくなったのもたしかなこと。

手法としてのやりやすさを活かしながら、「手段の目的化」という罠にはまらないためには、シナリオプランニングが目指している本来の目的に常に立ち戻ることが大切

シナリオプランニングを進めていて、軸や複数シナリオを自分たちの都合だけで考え出してしまったときには、

「これは不確実な未来の可能性を考えるためにやっているんだよね」

ということを、メンバーで再確認してください。

コラム執筆者:新井 宏征(あらい ひろゆき)

株式会社スタイリッシュ・アイデア 代表取締役

東京外国語大学大学院修後、SAPジャパン、情報通信総合研究所(NTTグループ)を経て、現在はシナリオプランニングやプロダクトマネジメントの考え方を応用し、事業と組織の両面からクライアントの変革を支援するコンサルティング活動に従事。

Saïd Business School Oxford Scenarios Programmeにおいて、世界におけるシナリオプランニング指導の第一人者であるRafael Ramirezや、Shell Internationalでシナリオプランニングを推進してきたKees van der HeijdenやCho-Oon Khongらにシナリオプランニングの指導を受ける。

その内容を理論的な基礎としながら、2013年の創業以来、日本の組織文化や慣習にあわせた実践的なシナリオプランニング活用支援を行っている。

資格として、PMP(Project Management Professional)、英検1級、TOEIC 990点、SAP関連資格などを保有している。

主な著書に『実践 シナリオ・プランニング』、訳書に『プロダクトマネジャーの教科書』、『成功するイノベーションは何が違うのか?』、『90日変革モデル』、『世界のエグゼクティブが学ぶ 誰もがリーダーになれる特別授業』(すべて翔泳社)などがある。