戦略的対話を起こすシナリオプランニングの取り組み【Stylish Ideaメールマガジン vol.264】
今回の新刊『実践 シナリオ・プランニング』では、シナリオプランニングの「作り方」だけではなく、「使い方」についても丁寧に解説している点は、前回のメールマガジンでお伝えしました。
・シナリオプランニングの作り方と使い方【Stylish Ideaメールマガジン vol.263】
このうち、シナリオプランニングを使うという点で重要になってくる考え方が「戦略的対話」です。
『実践 シナリオ・プランニング』の表紙(正確には帯ですが)には、次のように書かれています。
【組織・チームに「戦略的対話」を促す】
「戦略的対話」について、本書では、まず次のように解説しています。
作成した複数シナリオを共有することで組織内に生まれる対話を、シナリオ・プランニングでは「戦略的対話」と呼んでいます。
この考え方はロイヤル・ダッチ・シェルでシナリオプランナーとして活躍したキース・ヴァン・デル・ハイデンが強調している考え方であることを紹介した上で、より詳しい解説をしています。
少し長くなりますが、引用します。
組織における意思決定プロセスに影響を及ぼしているのは 経営会議等の公式な意思決定のプロセスや場だけではないと考えました。むしろ、組織内のさまざまな場所や場面で起きている非公式なやり取りが、組織の意思決定に与える影響が大きいと考えたのです。非公式なやり取りとは、日々の会議やチーム内での会話、休憩中の雑談等で、日常的かつ継続的に行われているものを指しています。
そのような非公式なやり取りの中で、既存の事業の将来や新規事業の可能性、今後の人事制度や人材育成のあり方、組織の構造や文化等、組織に関連するさまざまなテーマについての対話が行われることが「戦略的対話」です
シナリオプランニングに取り組みにかかわったメンバーは、自社に影響を及ぼす将来の環境変化の可能性などに目を向けたことで、さまざまな問題意識が生まれています。
しかし、組織の中で一部の人だけが、問題意識を持っているだけでは、不確実な環境変化に、組織として柔軟に対応することはできません。
かといって、「プロジェクト報告会」などの形式でその問題意識を伝えようとしても、同じようなレベルで問題意識を持ってもらうことは難しいでしょう。
そこで必要になってくるのが「戦略的対話」を組織やチーム内に起こしていくことです。
しかし、「戦略的対話」、言い換えれば、上で書いているような「非公式なやり取り」は「対話しなさい」と指示して起こせるものでもありません。
では、どうするかというと、作成したシナリオを読むための機会をつくるのです。
組織の状態や規模によって、どのような機会が適切なのかは変わってきますが、たとえば社内でワークショップを開くとか、読んでもらうためのワークシートを作成するとか、動画などをつくることが、それに相当します。
そのような「使い方」に関する取り組みを根気よく続けることで、社内に「戦略的対話」が起きる土壌がつくられはじめるのです。
上層部にいる一部の人がすべてを決め、指示し、動いていくのではなく、組織にいる1人ひとりが、自分の立場で考えられることを考え、取り組めることに取り組んでいくためには、この「戦略的対話」の考え方が欠かせません。
以前のメールマガジンでも書いたとおり、シナリオをつくるだけで「戦略的対話」に取り組むことができるわけではないのも確かです。
・対話に”スペース”を与えるシナリオの作り方【Stylish Ideaメールマガジン vol.262】
しかし、どんなに理論を押さえたとしても、最後は取り組んでみないとわからないことが多いのもたしか。
ぜひ、組織内やチーム内に「戦略的対話」を起こすための第一歩をはじめてみましょう。
コラム執筆者:新井 宏征(あらい ひろゆき)

株式会社スタイリッシュ・アイデア 代表取締役
東京外国語大学大学院修後、SAPジャパン、情報通信総合研究所(NTTグループ)を経て、現在はシナリオプランニングやプロダクトマネジメントの考え方を応用し、事業と組織の両面からクライアントの変革を支援するコンサルティング活動に従事。
Saïd Business School Oxford Scenarios Programmeにおいて、世界におけるシナリオプランニング指導の第一人者であるRafael Ramirezや、Shell Internationalでシナリオプランニングを推進してきたKees van der HeijdenやCho-Oon Khongらにシナリオプランニングの指導を受ける。
その内容を理論的な基礎としながら、2013年の創業以来、日本の組織文化や慣習にあわせた実践的なシナリオプランニング活用支援を行っている。
資格として、PMP(Project Management Professional)、英検1級、TOEIC 990点、SAP関連資格などを保有している。
主な著書に『実践 シナリオ・プランニング』、訳書に『プロダクトマネジャーの教科書』、『成功するイノベーションは何が違うのか?』、『90日変革モデル』、『世界のエグゼクティブが学ぶ 誰もがリーダーになれる特別授業』(すべて翔泳社)などがある。