シナリオプランニングプロジェクトの失敗を回避するための難易度の調整【Stylish Ideaメールマガジン vol.238】
シナリオプランニングに取り組んだことがない人が メンバーの大半を占めるようなプロジェクトでは、 プロジェクトの冒頭で、一度シナリオに慣れるため難易度の調整を行うことがあります。
ただし、この難易度の調整、うまくやらないと、 かえってシナリオプランニングについて 誤解を生んでしまうきっかけにもなりかねません。
そのため、難易度の調整について検討する場合、 プロジェクトの目的や与えられた期間、 そして参加者の特性なども考慮した上で、 どのステップで、どのような調整を行うのかを 慎重に考える必要があります。
本来であれば、このように個別の状況を詳しく 考慮する必要がありますが、汎用的に使えるのが シナリオテーマの調整による難易度の調整です。
シナリオテーマは、
- 時間軸
- 地理軸
- 検討スコープ
の3つの要素で検討します。
(シナリオテーマの詳しいつくり方について 学びたい方は、シナリオプランニング実践ガイドブックをどうぞ)
このうち、難易度の調整のために検討する要素は 次の2つになります。
- 時間軸
- 地理軸
どちらの要素についても、まずは最終的に 検討したい本来の時間軸、地理軸を検討した上で、
- 時間軸は本来の時間軸よりも短くする
- 地理軸は本来の地理軸よりも狭くする という観点で検討します。
例えば、プロジェクトの目的を踏まえると、 本来は 「10年後の東南アジアにおける消費生活」 というシナリオテーマで考えたいとします。
しかし、プロジェクトのメンバーは誰も シナリオプランニングに取り組んだことはなく、 プロジェクトの期間にも余裕があるので、 まずは難易度の調整をして取り組みたい。
そういう場合は、上記のテーマの時間軸を 短くし、地理軸を狭くした上で、 「3年後のシンガポールにおける消費生活」 というシナリオテーマを設定し、 まずはこれでシナリオプランニングを体験します。
そうすることで、シナリオプランニングの 各ステップの理解はもちろん、かかる時間や負荷、 進め方のコツなどを理解することができます。
その理解を元に、いよいよ本来のテーマである 「10年後の東南アジアにおける消費生活」に 取りかかるのです。
たしかに、このやり方は時間はかかります。
しかし、無理に本来のテーマで進めて、 シナリオの質やメンバーのモチベーションを 犠牲にしてしまっては本末転倒ですし、 プロジェクトに大きな支障が出てしまいます。
そのような状況に陥らないようにするためにも、 「急がば回れ」でシナリオテーマの調整による 難易度の調整を検討してみてはいかがでしょうか。
コラム執筆者:新井 宏征(あらい ひろゆき)

株式会社スタイリッシュ・アイデア 代表取締役
東京外国語大学大学院修後、SAPジャパン、情報通信総合研究所(NTTグループ)を経て、現在はシナリオプランニングやプロダクトマネジメントの考え方を応用し、事業と組織の両面からクライアントの変革を支援するコンサルティング活動に従事。
Saïd Business School Oxford Scenarios Programmeにおいて、世界におけるシナリオプランニング指導の第一人者であるRafael Ramirezや、Shell Internationalでシナリオプランニングを推進してきたKees van der HeijdenやCho-Oon Khongらにシナリオプランニングの指導を受ける。
その内容を理論的な基礎としながら、2013年の創業以来、日本の組織文化や慣習にあわせた実践的なシナリオプランニング活用支援を行っている。
資格として、PMP(Project Management Professional)、英検1級、TOEIC 990点、SAP関連資格などを保有している。
主な著書に『実践 シナリオ・プランニング』、訳書に『プロダクトマネジャーの教科書』、『成功するイノベーションは何が違うのか?』、『90日変革モデル』、『世界のエグゼクティブが学ぶ 誰もがリーダーになれる特別授業』(すべて翔泳社)などがある。