シナリオプランニングを「学習の機会」にするために必要なこと【Stylish Ideaメールマガジン vol.236】
弊社の公開セミナーもそうですが、最近はクライアント向けのワークショップでも、すべてオンラインでシナリオプランニングに取り組んでいます。
対面で実施するワークショップと比べると、たしかにオンラインならではの難しさはあります。一方で、オンラインならではの良さもあります。
そうはいっても、対面でもオンラインでも、シナリオプランニングの実施プロセスは基本的には変わりはありません。
ただし、オンラインで実施するようになってからこれまで以上に気をつけていることがあります。
それは、明確な根拠を持って、シナリオ作成の各ステップを進めていくこと。
例えば、
- なぜこのシナリオテーマにしたのか?
- なぜ外部環境要因をこのような分類にしたのか?
- なぜこの2軸にしたのか?
というようなことを明らかにしていきます。
なぜ、ここまでするのでしょうか?
オンラインでのワークショップは、対面と比べるとどうしても細かいところでの情報共有がやりにくくなります。そういう環境では、明確に意識しないと各ステップを進めていくときに、なんとなくステップが流れていきやすくなります。
たしかに、そういうやり方でも、対面と同じステップをひととおり進めていけば、一旦シナリオは完成します。しかし、一度できあがったものを他の人からのフィードバックなども踏まえて作り直そうと思ったとき、各ステップを根拠が曖昧なまま進めていると、どこまで戻れば良いか検討がつきにくくなります。
それでも、つくった直後に作り直すのであれば、検討がまったくつかないということはないでしょう。
しかし、シナリオを作り直すタイミングはつくった直後に限りません。一度つくったシナリオを元にして、外部環境の変化を定点観測し、大きな変化があった場合に見直すことがあります。今のように不確実性が高く、変化が激しい場合、そのような見直しの機会は、これまでよりも頻繁に起こり得るでしょう。
そうなったとき、上で紹介したようなステップで明確な根拠がなければ、変化を踏まえてシナリオを見直すことが難しくなります。
「そうなったらなったで、最初からやり直せばいいじゃないか」という声もあるかもしれません。しかし、そこで失われているのは、見直すためにかかる時間だけではありません。
自分たちの「学習の機会」も失われています。
ここで言う「学習の機会」とは、自分たちが外部環境をどのように見ていたのかに気づくための機会です。
最初にシナリオをつくった時点で、
- 自分たちの想定どおりだったものは何か?
- 想定と違っていたものは何か?
- まったく想定できていなかったものは何か?
- なぜ、そういう想定のズレが起きたのか?
というような点に気づき、振り返っていくのが、シナリオプランニングを活用した自社の外部環境に対する見方をアップデートしていく「学習の機会」なのです。
「学習の機会」を十分に享受するためにも、オンラインで実施する場合はもちろん、対面でシナリオプランニングに取り組む場合でも、各ステップの根拠を明確にすることを意識してください。
コラム執筆者:新井 宏征(あらい ひろゆき)

株式会社スタイリッシュ・アイデア 代表取締役
東京外国語大学大学院修後、SAPジャパン、情報通信総合研究所(NTTグループ)を経て、現在はシナリオプランニングやプロダクトマネジメントの考え方を応用し、事業と組織の両面からクライアントの変革を支援するコンサルティング活動に従事。
Saïd Business School Oxford Scenarios Programmeにおいて、世界におけるシナリオプランニング指導の第一人者であるRafael Ramirezや、Shell Internationalでシナリオプランニングを推進してきたKees van der HeijdenやCho-Oon Khongらにシナリオプランニングの指導を受ける。
その内容を理論的な基礎としながら、2013年の創業以来、日本の組織文化や慣習にあわせた実践的なシナリオプランニング活用支援を行っている。
資格として、PMP(Project Management Professional)、英検1級、TOEIC 990点、SAP関連資格などを保有している。
主な著書に『実践 シナリオ・プランニング』、訳書に『プロダクトマネジャーの教科書』、『成功するイノベーションは何が違うのか?』、『90日変革モデル』、『世界のエグゼクティブが学ぶ 誰もがリーダーになれる特別授業』(すべて翔泳社)などがある。