シナリオプランニングで必要なリサーチとは【Stylish Ideaメールマガジン vol.220】
シナリオプランニングを教えていると、短時間で質の高いシナリオを描ける人がいます。
そういうことができる人とできない人の差は何かと考えてみると、一番大きなものに
「シナリオで描く分野における知識の幅と深さ」
があります。
言い換えると、現状理解の幅と深さの差が描くシナリオの質の差として出てくるのです。
シナリオプランニングで描くシナリオは、定めたテーマに関する不確実な可能性を元に描いていきます。
では、シナリオを描く元になる不確実な可能性は、どのように考えれば良いのかというと、ひとつには「確実なこと以外」を不確実なことだと見なすというのが単純な考え方です。
そう考えると、シナリオを描く前提として、「確実なこと」がわかっている必要があります。
それが「シナリオで描く分野における知識」と冒頭で書いたものに相当します。
具体的に考えるために、携帯電話業界の未来を考えるためのシナリオをつくると想定しましょう。
そのためには携帯電話業界の未来に関する不確実な可能性、言い換えれば、今の時点ではどのようになるかひとつには決めきれないものを元にしてシナリオをつくっていきます。
その不確実な可能性を考えるために、まずは携帯電話業界における「確実なこと」を考えていきます。
最終的には、未来における「確実なこと」を考えなくてはいけないのですが、その前提として、携帯電話業界の現状を知る必要があります。
この「携帯電話業界の現状」が、冒頭で書いた「シナリオで描く分野における知識」です。
これについて、例えば携帯電話端末メーカーの知識があれば良いと思う人もいるかもしれません。
しかし、それだけでは「幅も深さ」もありません。
そこで、「幅」を出すためには、部品メーカーや通信会社、コンテンツプロバイダなどの知識を押さえておくと良いかもしれません。
さらに「深さ」を出すために、どんな企業があるのかを知るだけではなく、歴史や競争状況、関連する法規制なども押さえると良いでしょう。
「シナリオで描く分野における知識の幅と深さ」をこのようにとらえて、押さえておくことで、未来において何が不確実なのかを、より具体的に理解することができます。
さらに、複数ある不確実な可能性の中から、どれかを選ぶ、つまり優先順位をつけるときにも、「現状がどれだけ変わりそうか」という基準で考えることができるようになるのです。
シナリオプランニングで「リサーチ」というと、外部環境要因で使う要素を集めることだと誤解している人も多いのですが、それはリサーチではなく、単なる情報収集です。
そうではなく、将来における不確実な可能性を、より確からしく、かつ具体的に考えるために必要な情報収集と分析を行うことがリサーチなのです。
検討したシナリオの活用先が企業にとって重要なものであればあるほど、「シナリオで描く分野における知識の幅と深さ」が成否を分けることを押さえておいてください。
コラム執筆者:新井 宏征(あらい ひろゆき)

株式会社スタイリッシュ・アイデア 代表取締役
東京外国語大学大学院修後、SAPジャパン、情報通信総合研究所(NTTグループ)を経て、現在はシナリオプランニングやプロダクトマネジメントの考え方を応用し、事業と組織の両面からクライアントの変革を支援するコンサルティング活動に従事。
Saïd Business School Oxford Scenarios Programmeにおいて、世界におけるシナリオプランニング指導の第一人者であるRafael Ramirezや、Shell Internationalでシナリオプランニングを推進してきたKees van der HeijdenやCho-Oon Khongらにシナリオプランニングの指導を受ける。
その内容を理論的な基礎としながら、2013年の創業以来、日本の組織文化や慣習にあわせた実践的なシナリオプランニング活用支援を行っている。
資格として、PMP(Project Management Professional)、英検1級、TOEIC 990点、SAP関連資格などを保有している。
主な著書に『実践 シナリオ・プランニング』、訳書に『プロダクトマネジャーの教科書』、『成功するイノベーションは何が違うのか?』、『90日変革モデル』、『世界のエグゼクティブが学ぶ 誰もがリーダーになれる特別授業』(すべて翔泳社)などがある。