シナリオプランニングで理想やビジョンを鍛え直す【Stylish Ideaメールマガジン vol.219】
シナリオプランニングをやっていると、自分の目指したい理想の世界やビジョンをシナリオの軸に据えようとする場面に遭遇します。
たとえば「サステナブルな世界」のような軸で片側を「当たり前になっている」という極にするというような例です。
このような軸の設定の仕方が良いかどうかは、その軸をどういう意味合いで置いているのかで変わってきます。
このような軸は、次のどちらかのパターンでつくられることが一般的です。
(a) 「世界におけるサステナビリティに関する取り組みが今後も進んでいくかどうか?」という観点でこの軸をつくっている場合。
(b) 「今後、世界はサステナブルになっていってほしいと思っている」という強い想いでこの軸をつくっている場合。
(a)の場合は、サステナビリティを外部環境としてとらえているので、シナリオプランニングの基本的な考え方に当てはまります。
難しいのは(b)のように、外部環境というよりも、つくる人の想いが入っているような軸の場合です。
いろいろな考え方がありますが、弊社の場合は、このような軸は「使わない方が良い」とアドバイスをしています。
たしかに、このような軸を使えば、自分たちの目指す世界の未来を考えることができるので、良さそうにも思えます。
しかし、シナリオプランニングは、そもそも自分たちではコントロールできない外部環境の変化による影響を考えるために使われる手法です。
そう考えると、(b)の軸を使いたい人にとってより適切なシナリオプランニングの使い方は、世の中のサステナビリティに関する取り組みを阻害するような可能性を考えることです。
そうすると、自分たちが目指している世界とは相容れない世界の可能性が見えてきます。
そのようなシナリオをつくった上で、
・このように自分たちが目指している世界とは正反対の世界になったとしても、私たちは自分たちのビジョンを推し進めるのか?
・このように自分たちが目指している世界とは正反対の世界にならないようにするために、今から私たちができることは何なのか?
という問いについて考えるのです。
(b)のような動機でシナリオをつくってしまうと、そこで出てくる世界は、自分たちの理想をそのまま形にしただけの世界でしかありません。
そのようなシナリオを元にした対話は、一見するととても盛り上がるのですが、ともすると自分たちの思い込みを強化するだけで、新たな観点は何も得られないかもしれません。
一方で、シナリオプランニングの基本に則り、自分たちではコントロールできない外部環境の変化の影響を踏まえ、自分たちが目指している世界にはネガティブな影響を与える可能性も考えることは、自分たちが考えていたビジョンを新しい視点から見直すきっかけになるでしょう。
内発的に出てくる理想的な未来を踏まえつつ、その実現を妨げるかもしれない外部の環境変化を踏まえた上で、理想の未来を見つめなおす。
このようにして、自分たちが持っている理想やビジョンを鍛え直すために使う方がより「シナリオプランニングらしい」使い方だと弊社は考えています。
コラム執筆者:新井 宏征(あらい ひろゆき)

株式会社スタイリッシュ・アイデア 代表取締役
東京外国語大学大学院修後、SAPジャパン、情報通信総合研究所(NTTグループ)を経て、現在はシナリオプランニングやプロダクトマネジメントの考え方を応用し、事業と組織の両面からクライアントの変革を支援するコンサルティング活動に従事。
Saïd Business School Oxford Scenarios Programmeにおいて、世界におけるシナリオプランニング指導の第一人者であるRafael Ramirezや、Shell Internationalでシナリオプランニングを推進してきたKees van der HeijdenやCho-Oon Khongらにシナリオプランニングの指導を受ける。
その内容を理論的な基礎としながら、2013年の創業以来、日本の組織文化や慣習にあわせた実践的なシナリオプランニング活用支援を行っている。
資格として、PMP(Project Management Professional)、英検1級、TOEIC 990点、SAP関連資格などを保有している。
主な著書に『実践 シナリオ・プランニング』、訳書に『プロダクトマネジャーの教科書』、『成功するイノベーションは何が違うのか?』、『90日変革モデル』、『世界のエグゼクティブが学ぶ 誰もがリーダーになれる特別授業』(すべて翔泳社)などがある。