シナリオプランニングで考えるのは不確実な世界だけではない【Stylish Ideaメールマガジン vol.216】
先日、東京工業大学のリーダーシップ教育院でシナリオプランニングを使った授業を担当しました。
参加者は東工大に通う大学院生が中心。
留学生も含む彼らは、普段は専門性の高い分野の研究に取り組んでいます。
シナリオプランニングをとおして、日本社会が抱えている課題を理解してもらい、その理解を踏まえ、自らの研究分野を新しい視野・視点で見てもらえるようになることがこの授業の目的のひとつです。
授業では10年後の日本社会がどうなるのかを考えるためのシナリオを作成し、自分がつくったシナリオから大きな気づきを得た学生が何人もいました。
彼らに共通していたのは、
「10年後の日本におけるほぼ確実な状態をしっかりと認識できたこと」
でした。
こう書くと、
「シナリオプランニングは、不確実な未来を見るものじゃないの?」
と思う人もいるかもしれません。
たしかにシナリオプランニングでは、不確実な要因を元にして、複数の世界を描きます。
しかし、弊社では複数の世界(シナリオ)を描く前に、必ず「ベースシナリオ」を描きます。
ベースシナリオの詳細は、公開している「シナリオプランニング実践ガイドブック」をご覧ください。
簡単にご紹介すると、ベースシナリオとは、「設定したテーマにおいて、ほぼ確実だと考えられる世界を描いたもの」のことです。
例えば、今回の授業で扱った10年後の日本社会のベースシナリオの中には、
- 高齢化の進展
- 少子化の進展
- 労働力人口減少
などの要因が含まれます。
今回の授業では、これらの要因について、表面的な情報として知ってもらうことを超えて、
- 10年後における予測データを調べてもらい、
- そうなった日本を想像してもらい、
- その中にいる自分たちを想像してもらう
ということを、限られた時間で行いました。
こうすることで、不確実な未来を考える前に、これからの日本社会が抱えるであろう課題を自分事として実感することができました。
たしかに、シナリオプランニングの醍醐味は不確実な未来の可能性を描いていくことです。
しかし、不確実な情報をネットなどで調べた上で、定められた手順のとおりに未来を描いたとしても、それは「自分とは関係ない未来の世界の話」で終わってしまいます。
そうではなく、まずは定められたテーマにおいてほぼ確実な世界を描く。
しかも単に描くだけではなく、その世界における個人や自社、事業の未来の影響を十分に検討し、自分事として実感するまで考えていく。
このように、シナリオプランニングに取り組む目的をぶらさずに手順を進めていくことで、本当の意味でシナリオプランニングを活用できる個人や組織になっていくことができるのです。
コラム執筆者:新井 宏征(あらい ひろゆき)

株式会社スタイリッシュ・アイデア 代表取締役
東京外国語大学大学院修後、SAPジャパン、情報通信総合研究所(NTTグループ)を経て、現在はシナリオプランニングやプロダクトマネジメントの考え方を応用し、事業と組織の両面からクライアントの変革を支援するコンサルティング活動に従事。
Saïd Business School Oxford Scenarios Programmeにおいて、世界におけるシナリオプランニング指導の第一人者であるRafael Ramirezや、Shell Internationalでシナリオプランニングを推進してきたKees van der HeijdenやCho-Oon Khongらにシナリオプランニングの指導を受ける。
その内容を理論的な基礎としながら、2013年の創業以来、日本の組織文化や慣習にあわせた実践的なシナリオプランニング活用支援を行っている。
資格として、PMP(Project Management Professional)、英検1級、TOEIC 990点、SAP関連資格などを保有している。
主な著書に『実践 シナリオ・プランニング』、訳書に『プロダクトマネジャーの教科書』、『成功するイノベーションは何が違うのか?』、『90日変革モデル』、『世界のエグゼクティブが学ぶ 誰もがリーダーになれる特別授業』(すべて翔泳社)などがある。