時間の広がりを踏まえた事業の考え方【Stylish Ideaメールマガジン vol.201】

シナリオプランニングのワークショップでは、2軸をつくり、その2軸を組み合わせて4つの世界を考えていくところがひとつの山場。

山場というと聞こえが良いかもしれませんが、多くの人が苦労するのが、このステップです。

つくってはダメ出しされを何度も繰り返して、最終的には

「もう、この組み合わせが一番考えやすいから、これにしよう!」

という形で選んでしまうグループがあります。

しかし、それで本当に良いのでしょうか?

80年代にシェルでシナリオプランナーとして活躍したアリー・デ・グースは、組織としての学習こそが、変化し続ける環境で、継続的な成長を可能にするものだとして、次のように述べています。

「組織としての学習とは、経営陣が会社や市場、競合企業について自分たちが共有するメンタルモデルを変えるプロセスである。」

メンタルモデルとは、個人や組織が持っていて意思決定などにも影響を及ぼす世界観です。

個人や組織が「こういうものだ」と思っている世界観を変えていくことが「学習」だとアリー・デ・グースは言っているわけです。

それを元に考えると、シナリオプランニングでせっかく普段なら考えない未来を見ているのに「一番考えやすい」未来を描けるような2軸を選ぶことは最適な判断なのでしょうか?

私は、ワークショップで、その2軸の組み合わせが良い組み合わせかどうかを判断するために、

「今までに考えたことがない世界ができあがったシナリオに含まれているか?」

とうい基準をお伝えしています。

もちろん、考えたことがない世界を考えることは簡単なことではありません。

しかし、不可能なことでもないのです。

考えたことがない世界を考えるためには、それぞれの軸がどういう世界観を表しているのか丁寧な情報収集と、その情報に基づいた思考と対話を積み上げていくしかありません。

シナリオプランニングとは、普段は想定していない想定外の変化を「想定内」にするための手法。

この「想定していないことを想定する」というプロセスこそが、アリー・デ・グースの言うメンタルモデルを変えることにつながっていきます。

こういった「なぜ、シナリオプランニングに取り組むのか?」という大きな目的に立ち戻れば、「一番考えやすい」組み合わせは、「一番最初に捨てる」組み合わせになるはずです。

コラム執筆者:新井 宏征(あらい ひろゆき)

株式会社スタイリッシュ・アイデア 代表取締役

東京外国語大学大学院修後、SAPジャパン、情報通信総合研究所(NTTグループ)を経て、現在はシナリオプランニングやプロダクトマネジメントの考え方を応用し、事業と組織の両面からクライアントの変革を支援するコンサルティング活動に従事。

Saïd Business School Oxford Scenarios Programmeにおいて、世界におけるシナリオプランニング指導の第一人者であるRafael Ramirezや、Shell Internationalでシナリオプランニングを推進してきたKees van der HeijdenやCho-Oon Khongらにシナリオプランニングの指導を受ける。

その内容を理論的な基礎としながら、2013年の創業以来、日本の組織文化や慣習にあわせた実践的なシナリオプランニング活用支援を行っている。

資格として、PMP(Project Management Professional)、英検1級、TOEIC 990点、SAP関連資格などを保有している。

主な著書に『実践 シナリオ・プランニング』、訳書に『プロダクトマネジャーの教科書』、『成功するイノベーションは何が違うのか?』、『90日変革モデル』、『世界のエグゼクティブが学ぶ 誰もがリーダーになれる特別授業』(すべて翔泳社)などがある。