「来るか来ないか」に備える頭の使い方【Stylish Ideaメールマガジン vol.199】

毎年、Webサイトで年頭挨拶を書いていますが、今年は「エフェクチュエーション」という理論で伝えていることを踏まえて、書いています。

・不確実さを思い切り楽しむ(2019年のスタイリッシュ・アイデア)

「エフェクチュエーション」では熟達起業家の行動を元に5つの原則を導き出していますが、そのうちの1つが上記のリンク先の文章でも紹介している「レモネードの原則」です。

レモネードの原則とは、

「すっぱいレモンをつかまされたら、レモネードを作れ」

という言葉に表れているとおり、予期していない出来事が起きたときに、それをうまく活用してしまおうという考え方。

『エフェクチュエーション』の中では、この原則を次のように簡潔に解説しています。

「レモネード」の原則
この原則は、不確実な状況を避け、克服し、適応するのではなく、むしろ予期せぬ事態を梃子として活用することで、不確実な状況を認め、適切に対応していくことを示している。

『エフェクチュエーション』、20ページ

これからの時代において唯一確実なのは「不確実な状況は避けられない」ということ。
「レモネードの原則」の解説の言葉で言えば、「予期せぬ事態」というのは確実に起きるのです。

日本人デザイナー奥山清行氏はフェラーリ・エンツォのデザインを担当したことで知られています。

彼がフェラーリ・エンツォをデザインするきっかけとなったのは、フェラーリのモンテゼーモロ会長への咄嗟のプレゼンでした。

咄嗟といっても、その場で急場しのぎでデザインを考えたわけではありません。

担当でもないにもかかわらず、フェラーリのデザインを描き続けていた奥山氏。
その様子を密かに見ていた上司が、「15分だけやるから、あの絵を仕上げてこい」と言い、色を付けたそのデザインが採用されました。

この経験を奥山氏はこう振り返っています。

結果として、僕は来るか来ないかわからない15分のためにこの絵を準備していたことになる。
だが、それがあったからこそ、今の奥山清行になることができたし、フェラーリ・エンツォというクルマを世に出すことができた。

(『100年の価値をデザインする』、37ページ )

奥山氏が「今の自分になることができた」と語るこの出来事は、まさに予期せぬ事態を梃子として活用することができた好例です。

だからと言って、あらゆる「来るか来ないかわからないこと」に備えるわけにもいきません。

だからこそ、不確実なことを考えるのです。

「レモネードの原則」に従うからといって、

・不確実なものは避けられない

で終わりにしてしまうのか、あるいは、

・不確実なものは避けられないけど、可能な限り、その状況を想定してみよう

と考え続けるのかは大きな差です。

Webの年頭挨拶で書いたように、不確実なことをネガティブにとらえる必要はありません。

むしろ、その不確実なことがあることで、未来にどんな機会があるのかを考えながら、それに備えるための取り組みを続けていく。

そういう先に、奥山氏が振り返るような「あの出来事があったから」と呼べるような経験が待っているのではないかと思います。