組織でシナリオプランニングに取り組む意味【Stylish Ideaメールマガジン vol.194】

『対話型組織開発』の翻訳を担当された南山大学の中村先生が、同書の訳者まえがきで対話型組織開発についてこう書いています。

本書が示唆しているのは、(中略)職場のメンバーとともに自分たちの見方や前提について対話を通して探究すること。
そして、その探究を通して自分たちの見方や前提に見直しが起こり、話し合いでの「語られ方」が変わることの重要性である。
端的に言えば、話し合いでの語られ方やコミュニケーションのありようが変わることでイノベーションは生まれる、ということである。

(出所:『対話型組織開発』7ページ )

ここで書かれていることは、今年の6月に書いた「希望を語る」という話しや、

・シナリオプランニングで希望を語る【Stylish Ideaメールマガジン vol.174】

最近書いた「前提」に目を向ける話しに通じます。

・シナリオプランニングで生まれる「重要性」の新たな意味【Stylish Ideaメールマガジン vol.192】

この訳者まえがきの中で大切なことは「見方や前提を見直す」という部分でしょう。

ただし、「見方や前提を見直す」ことは簡単なことではありません。

そのために、まず必要なことは、自分自身が「どのような見方や前提をしているか」に気づくこと。

そのためには、世の中には自分の見方や前提以外の見方や前提が存在しているという事実に気づくことが必要になってきます。

シナリオプランニングでは、

  • 自分がいる現在ではない未来の視点

を意識するのはもちろんのこと、

  • 自分以外のステークホルダーの視点

にも目を向けながら未来を考えます。

さらに、グループでシナリオを検討することで、否応なく自分以外の見方や前提に触れ続けます。

シナリオプランニングの本などを読むと、シナリオを作成する手順や、各手順でのポイントだけに目が行きがちです。

しかし、実際にシナリオを作る場に一度でも身を置いてみると、その手順を進める過程で自分の見方や前提が揺らぐことに気づきます。

シナリオプランニングを実施するゴールは、複数の未来を描くことではありません。

未来を描ていく過程で起きる、これまで「当たり前だった見方」が揺らぎ、それがきっかけで「語られ方」が変わり、結果としてイノベーションが起きるような組織に変えていくこと。

それが組織でシナリオプランニングに取り組むゴールなのではないかと思うのです。

コラム執筆者:新井 宏征(あらい ひろゆき)

株式会社スタイリッシュ・アイデア 代表取締役

東京外国語大学大学院修後、SAPジャパン、情報通信総合研究所(NTTグループ)を経て、現在はシナリオプランニングやプロダクトマネジメントの考え方を応用し、事業と組織の両面からクライアントの変革を支援するコンサルティング活動に従事。

Saïd Business School Oxford Scenarios Programmeにおいて、世界におけるシナリオプランニング指導の第一人者であるRafael Ramirezや、Shell Internationalでシナリオプランニングを推進してきたKees van der HeijdenやCho-Oon Khongらにシナリオプランニングの指導を受ける。

その内容を理論的な基礎としながら、2013年の創業以来、日本の組織文化や慣習にあわせた実践的なシナリオプランニング活用支援を行っている。

資格として、PMP(Project Management Professional)、英検1級、TOEIC 990点、SAP関連資格などを保有している。

主な著書に『実践 シナリオ・プランニング』、訳書に『プロダクトマネジャーの教科書』、『成功するイノベーションは何が違うのか?』、『90日変革モデル』、『世界のエグゼクティブが学ぶ 誰もがリーダーになれる特別授業』(すべて翔泳社)などがある。