なぜシナリオプランニングでは2軸で考えるのか【Stylish Ideaメールマガジン vol.179】
シナリオプランニングでは、複数の未来を描くということは決まっていますが、では、いくつの未来を作るのか?と思って調べるといろいろなバリエーションがあることがわかります。
そういうバリエーションがある中で、弊社が実施するワークショップでは2軸を使って、4つの未来を描く手法を使うのが一般的です。
場合によっては、これ以外の手法を使うこともありますし、2軸ではなく、3つの要素の分岐で8つの未来を描くパターンも極稀にあります。
しかし、実際には、2軸で考えることが一般的。
ワークショップでは、たくさんの不確実な要因を出すのに、そこから2つしか選ばないというのは「もったいない」というコメントもあります。
では、なぜ2つを選んで2軸なのかというと、いろいろな解説がある中で、私の見解は、
「たくさんの要因から2つだけを選ぶという意思決定のための対話のプロセスが重要だから」
というものです。
シナリオプランニングのワークショップでは未来についてのシナリオというアウトプットだけが重要なのではありません。
アウトプットと同じか、それ以上に重要なのはそれを作るプロセスで交わされる対話です。
いろいろと調べた要因のうち、不確実性が高く、自分たちに与える影響も大きい要因の中からたった2つだけを選ぶ。
このプロセスでは、
- その要因が起きる可能性について
- その要因が起きた場合の自社への影響について
- その影響の範囲や大きさの見極めについて
など、さまざまな観点に思いを巡らせながら、自分たちの思考を制限している思い込みを自覚し、チームメンバーの共通点、相違点にも目を向け、確実な根拠がない中で意思決定をするのです。
普段の会議やオフィスでの会話であれば、ついつい日和見的な、当たり障りのない意見でもその場は進んでいくかもしれませんが、シナリオプランニングのワークショップではそのような姿勢では確実に前に進みません。
普段の仕事のやり方と比較すると、ある意味異質な、人によっては違和感を感じるやり取りをとおして、未来の可能性を考えていく。
このプロセスをとおして、組織として、自分たちの視点を広げることができ、率直に意見を出すような文化を育んでいくのです。
未来の分岐点となる不確実で重要な要因を2つしか選べないという制約を設定することで、その制約が生み出す組織学習の機会が生まれます。
このような機会を生み出すことができるようなワークショップの進め方を実践することで、単に「未来を描く」以上の成果を得られるのです。
コラム執筆者:新井 宏征(あらい ひろゆき)

株式会社スタイリッシュ・アイデア 代表取締役
東京外国語大学大学院修後、SAPジャパン、情報通信総合研究所(NTTグループ)を経て、現在はシナリオプランニングやプロダクトマネジメントの考え方を応用し、事業と組織の両面からクライアントの変革を支援するコンサルティング活動に従事。
Saïd Business School Oxford Scenarios Programmeにおいて、世界におけるシナリオプランニング指導の第一人者であるRafael Ramirezや、Shell Internationalでシナリオプランニングを推進してきたKees van der HeijdenやCho-Oon Khongらにシナリオプランニングの指導を受ける。
その内容を理論的な基礎としながら、2013年の創業以来、日本の組織文化や慣習にあわせた実践的なシナリオプランニング活用支援を行っている。
資格として、PMP(Project Management Professional)、英検1級、TOEIC 990点、SAP関連資格などを保有している。
主な著書に『実践 シナリオ・プランニング』、訳書に『プロダクトマネジャーの教科書』、『成功するイノベーションは何が違うのか?』、『90日変革モデル』、『世界のエグゼクティブが学ぶ 誰もがリーダーになれる特別授業』(すべて翔泳社)などがある。