ChatGPTを使ったシナリオプランニング実践の注意点【Stylish Ideaメールマガジン vol.306】
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先月と今月でChatGPTを使ってどこまでシナリオプランニングをできるのかを「スタイリッシュ・アイデア未来ラボ」の中でご紹介しています。
先月(7月)の前編でも紹介しましたが、私なりにいろいろと試してみた結果の今のところの結論は、ChatGPTなどのAIツールを使ってある程度のシナリオをつくることは可能だということです。
ChatGPTでどこまでシナリオをつくれるのか?
「ある程度」と書いているとおり、ChatGPTから出力されたものが、そのままアウトプットになるということは(今の段階では)ありません。
しかし、最終的なアウトプットにつながる「たたき台」のようなものをつくることは可能です。その「たたき台」の内容を精査することで、私たちがまったくのゼロからシナリオをつくるよりも、ずっと効率良くシナリオプランニングに取り組むことができるようになります。
シナリオプランニングでChatGPTを活用するために必要なこと
しかし、このことは「シナリオをつくることが人間からAIに置き換わる」ということを意味しているわけではありません。(少なくとも「短期的」には、です…。ただ、今の時代の「短期的には」が、どれくらいの長さなのかは、まったく不確実で読み切れませんが)
前編でもお伝えしましたが、今の段階では、
- シナリオプランニングの実践方法に基づいた指示を考えることができる
- 上記を元にしてAIがアウトプットしたシナリオの良し悪しを判別できる
という2点が、ChatGPTなどのAIを使ってシナリオプランニングを実践する際の前提条件です。
いまSNSやAmazonの自費出版本などを見ると、ChatGPTなどのAIツールを使いこなすためには「プロンプトを使いこなす」ことが必須だという意見をよく目にします。
ご存じの方も多いと思いますが、「プロンプト」とはユーザが入力する指示のことです。
より良いプロンプトを考える「プロンプトエンジニアリング」が大事だとも言われ、ChatGPTなどへの指示の仕方について事細かなやり方が紹介されたり、日々アップデートされていく機能をいかに使いこなすかという説明もオンライン上にあふれています。
実際にシナリオプランニングのためにChatGPTなどを使っていると、確かにプロンプトを工夫することは大事だと感じますし、日々進化する機能を理解しておいた方が良いなとも感じます。
しかし、「ChatGPT自体」を使いこなすことではなく、「ChatGPTをシナリオプランニングで活用すること」を目的とするのであれば、AIの詳細なテクニックを習得することに時間をかけることは必ずしも得策ではないと考えています。
シナリオプランニングの進め方の中でどこをAIに任せるかを考える
先ほどChatGPTなどのAIを使ってシナリオプランニングを実践する際には
- シナリオプランニングの実践方法に基づいた指示を考えることができる
- 上記を元にしてAIがアウトプットしたシナリオの良し悪しを判別できる
という2点が必要だと書きましたが、何よりもまずは、通常のシナリオプランニングの進め方を理解した上で「シナリオプランニングの実践方法の中でどの部分でAIを活用するのが良いのか?その際、どのような指示をするのが良いのか?」を理解することが重要です。
しかし、「ChatGPT自体」を使いこなすことではなく、「ChatGPTをシナリオプランニングで活用すること」を目的とするのであれば、AIの詳細なテクニックを習得することに時間をかけることは必ずしも得策ではないと考えています。
AIによるアウトプットの良し悪しを判断する
またよく言われているとおり、現時点でChatGPTなどのAIツールが返してくる回答は必ずしも正確なものではありません。実際に先月のスタイリッシュ・アイデア未来ラボの準備のためにChatGPTを使ったときも、そのような回答が紛れ込んでいました。
厄介なのは、明らかに間違った回答がわかりやすく返ってくるわけではなく、ひとつのほとんどが正確な情報で書かれている段落の中に、いかにもそれらしく見える誤った情報が含まれているということ。
そのため、2つめとして紹介しているとおり、ただ単にシナリオプランニングの7つのステップを実践できるというだけではなく、シナリオプランニングの各アウトプット、つまりベースシナリオや複数シナリオ、詳細分析の結果の良し悪しを判断できる能力もAIを使いこなすには欠かせません。
そもそもの目的は何なのかを常に確認する
さらに言えば、以前に書いたコラム「ChatGPTにシナリオプランニングはできるのか?」でも紹介したとおり、AIを使ってシナリオプランニングを実践したとしても、本来、それが最終的なゴールではないはずです。
いつもお伝えしている「シナリオはアウトプットではなくインプット」という話のとおり、たとえAIでシナリオをつくることができたとしても、それをアウトプットとして終わらせるのではなく、インプットとして組織やチームのメンバーで「戦略的対話」につなげることがもっとも重要なこと。
今回書いた話は現在(2023年8月)の技術を元にした話ではあり、今後の技術の進化によって前提が大きく変わる可能性もあるでしょう。
ただし、AIなどの技術がどのように変化したとしても、それ自体にこだわりすぎず(もちろん、こだわってはだめだというわけではありませんが)、本来の目的に引きつけながら活用するという姿勢を忘れないようにしたいところです。
コラム執筆者:新井 宏征(あらい ひろゆき)

株式会社スタイリッシュ・アイデア 代表取締役
東京外国語大学大学院修後、SAPジャパン、情報通信総合研究所(NTTグループ)を経て、現在はシナリオプランニングやプロダクトマネジメントの考え方を応用し、事業と組織の両面からクライアントの変革を支援するコンサルティング活動に従事。
Saïd Business School Oxford Scenarios Programmeにおいて、世界におけるシナリオプランニング指導の第一人者であるRafael Ramirezや、Shell Internationalでシナリオプランニングを推進してきたKees van der HeijdenやCho-Oon Khongらにシナリオプランニングの指導を受ける。
その内容を理論的な基礎としながら、2013年の創業以来、日本の組織文化や慣習にあわせた実践的なシナリオプランニング活用支援を行っている。
資格として、PMP(Project Management Professional)、英検1級、TOEIC 990点、SAP関連資格などを保有している。
主な著書に『実践 シナリオ・プランニング』、訳書に『プロダクトマネジャーの教科書』、『成功するイノベーションは何が違うのか?』、『90日変革モデル』、『世界のエグゼクティブが学ぶ 誰もがリーダーになれる特別授業』(すべて翔泳社)などがある。