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「嘘」と「軸」【Stylish Ideaニューズレター vol.030】

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「嘘」と「軸」

◆「虚構の誘惑」
ルポライター、ジャーナリストとして『深夜特急』などの作品で知られる沢木耕太郎氏が、取材や執筆の過程で思うところをまとめた「路上の視野」というシリーズがあります。

今では古本でしか入手できなくなってしまっていますが、その一冊目が『紙のライオン』というもの。

・『路上の視野〈1〉紙のライオン』

この中の最初のエッセイが「虚構の誘惑」というもので、彼はこの文章の中で「嘘」と向き合います。とても気に入っている内容でいろいろなところで引き合いに出すものです。

少し長くなりますが、その中で気に入っている箇所を引用してみます。

 この5年間に何十篇かのルポルタージュを書いた。だが、そのうちのたった一篇ですら「真実を追究するジャーナリストとしての使命感に燃えて」書いたことはない。ぼくの書いたルポルタージュは「嘘」ばかりだった。自分が自分に課した制約の中で、材料を拾いあげ、自分好みのひとつの物語を織っていたにすぎないのだ。

その制約とは何か。取材に疲れて、安易に想像力の世界に逃げ込まないこと、つまり「嘘」は書かぬということだった。しかし、執拗に取材し、慎重に材料を選り分け、「嘘」でないと信じる素材で必死に作り上げたものも、結局は一篇の「嘘」でしかありえない。だとすれば、「嘘」を書くために「嘘」を書かぬ、という奇妙な努力をつづけていることになる。なぜそれほどまでして馬鹿ばかしいほどストイックに「嘘」を書かぬという制約を自らに課さなくてはならないのだろう…。

恐らく、いま、ぼくは「嘘」を書きたがっているのだ。だが、それは取材に疲れたからというのでは決してない。どうせ「嘘」になってしまうのだから、初めから「嘘」でいいというのでもない。
「嘘」を書かぬために、取材に取材を重ねたあげく、どうしても
「嘘」を書くより仕方がないことも起こり得るのに気がついたのだ。
いや「嘘」をこそ書きたいという欲求が生じることがあるのに、やっと気がついたのだ。
(『路上の視野〈1〉紙のライオン』13ページ)

最近は、Web上にあふれる「論評」のうち、仕事とは関係のないものについてはなるべく目を通さないようにしているのですが(疲れるので…)、そういう書き手にぜひ読んでもらいたい内容です(笑)。

この後、兄のミイラ死体と1年半以上も「同居」していた老女の話しを持ち出し、この「嘘」の話しが展開されます。

◆「メンタルモデル」と「軸」
シナリオプランニングの現場では、このニューズレターでも何度かご紹介している「メンタルモデル」の話しは欠かさずにします。

『学習する組織』の中でピーター・センゲが書いている「世の中とはこういうものだという心に染みついたイメージ」という定義を引用しながら、自分固有の見方から離れることの大切さを強調します。

「わかりました。今後はもっととらわれずに、客観的に世の中を見るようにします!」

そう言っていただけるとうれしいと思うと同時に、「客観的に世の中を見る」というのは、一体、どういう状況なんだろう?という疑問が頭をよぎります。

実際の現場では、余裕があれば、あるいはランチや懇親会の際にダイアログのような形で「客観的に見るってなんなんでしょうね?」ということを皆さんで自由に話すことがあります。

実はというか、情けないことにというか、このことについて、わたしとしても「これだ!」という明確な答えを持っているわけではありません。

ただ、ひとつ浮かぶのは「軸」という言葉です。

あえて世に出回っている言葉で表現するなら「メンター」と呼びたくなるようなNさんという方がいます。

「師匠」という言葉の方が合っているような気もしますが、呼び方はどうでも良いと思えるような、自分にとって数少ない大切な方です。

彼と会ったのは自分が就職をする前で、その時に彼にかけてもらった言葉が「自分の側に軸を持てよ」という言葉です。

では「軸を持つ」というのはどういうことでしょうか?

◆あなたは踊り続けられるか?
その時に頭に浮かぶ動画があります。有名なのでご存じの方も多いと思いますが、First Followerという動画です。

・First Follower: Leadership Lessons from Dancing Guy – YouTube

リーダーシップの話しとして、最初ひとり踊り続ける人がいて、そこに一緒に踊り出す「最初に付き従う人」について解説している動画です。

「リーダー」というと、大きな会社でトップに立って大胆な采配を振るう人という印象を持つ人もいるかもしれませんが、職業に貴賎はないように、会社の規模は関係ありません。

さらに職場だけではなく、社外のグループやプライベートな人間関係でもリーダーシップは必要になります。突き詰めれば、「自分が自分のリーダー」でなければなりません。

その時に大切なものが「軸」でしょう。もしかしたら誰も一緒に踊ってくれないかもしれないと思いながら、踊り続けることができる、そのための動機であったり、目標であったり、信念(Belief)なのかもしれません。

シナリオプランニングにおいては、世の中を客観的に見るための冷静な視点は絶対に必要です。

そのためには沢木耕太郎氏が「執拗に取材する」と書いているように、外部環境を可能な限り客観的に見るための徹底したリサーチは必要です。

そういう手間のかかる作業を続けるために必要なもの、そして手間をかけ、作ったシナリオを元にして新たなスタートを切る時に必要なものは「軸」であり、その「軸」をもって、なんとしてでも見たいと思っている「嘘」のような世界が、その人にとって、本当に実現したい世界なのかもしれませんね。

あなたにとっての「軸」は何でしょうか。
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編集後記「詰められる」

会社員時代も、こうして自分の会社で仕事をしていても、一対一でお話しをさせていただくことがあります。話題はビジネスのこともあれば、プライベートなこともあります。

そういう時「コーチングみたいですね」と言われることがあります。相手の方の状況があまり良くないときは「なんか詰められているみたいな感じになります…」と言われます。

仕事などでは、あえて詰めていることもあるのであながち間違いではないのですが(笑)、きちんとしたコーチングのトレーニングを受けたことはありません。

要は自分が自分に対して日々やっていることなのですが、ふと浮かんできた曖昧な言葉に対して、それをひたすらはっきりさせていく作業です。

言葉でしか考えられない以上、きちんと言葉を積み重ねていくことでしか、ぼんやりとした印象以上の状態には抜け出せません。

ということを、つい周りの方に対してもやってしまうのですが、ついつい深刻な感じにならないように気を配らないとなと反省します。

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