「粘土」のように戦略を作り、「前向きな朝令暮改」のためにビジョンを使う
その計画、変えるのが「怖い」ですか?
精鋭のメンバーを集めて、通常業務の合間に時間と労力をかけて練り上げた戦略や中期経営計画、そしてそれを支える詳細な数値目標や緻密なロードマップ、完璧なスライド。
こういうプロセスを経て、戦略や計画をいざ完成させると、私たちは無意識のうちにこう思ってしまいます。「これだけ苦労して作ったのだから、この通りに進めなければならない」と。
そして、一度決めたことを変えることに対して、強い抵抗感を抱くようになります。計画や戦略の立案にエネルギーを掛け過ぎたがゆえに、作ったものを守りたくなってしまう。いわゆる「サンクコスト(埋没費用)」の呪縛です。
しかし、すでにいろいろなところで言われていますが、机上で作った計画はあくまでも「仮説」に過ぎません。実際の事業環境で実行してみなければ、その計画が通用するかどうかは分かりませんし、時間がたてば、あるいは戦略や計画の作成に取り組んでいる途中で、前提条件となる環境が激変するかもしれません。
それなのに、私たちは計画を「正解」だと思い込んでしまいます。そして、現実が計画と食い違ってきても、計画の方を正当化しようとしてしまう。これでは、なんのために戦略や計画をつくったのかわかりません。
「彫刻」ではなく「粘土」のような戦略・計画を

なぜ、このようなことが起きてしまうのでしょうか。それは、多くの組織が戦略や計画を、一度完成したら二度と形を変えられない「彫刻」のようなものととらえているからかもしれません。
硬い石を削り出し、磨き上げ、完璧な形を目指す。だからこそ、最初から完璧なものにしようと躍起になり、完成すると、それを変えることに抵抗感をおぼえます。
しかし、不確実性が高い現代に必要なのは、「彫刻」のような戦略や計画ではありません。環境の変化に合わせて何度でも形を変えられる、「粘土」のような戦略や計画です。
「粘土だって、放っておけば固まるじゃないか」と思われるかもしれません。その通りです。だからこそ、「毎日練り続ける(触り続ける)」ことが必要なのです。作って満足してしまい、あとは共有フォルダの奥底に眠らせたりする(=彫刻化する)から、気づいたら固まってしまっていて、もう変えられなくなってしまう。
常に手元に置き、日々の業務の中で参照し、普段の会話の中で取り上げ、練り続けていれば、粘土はいつまでも柔らかさを保ち、変化に対応できます。
つまり、つくられた戦略や計画は「飾り物」ではなく「日常の道具」として扱わなければいけないのです。
ビジョンは「変わるための指針」

もちろん、「粘土」のように変えてもいいとは言っても、ただ闇雲に方針を変えるだけでは、それは単なる迷走です。
特にマネジメント層にとっては、戦略や計画を変えると、「朝令暮改」だと揶揄されそうだと感じるかもしれません。
闇雲に変えるのではなく、必要な変更をするためには「何を変えて、何を変えてはいけないのか」という指針や判断基準を明確にすることが大切です。
そこで必要になるのがビジョンです。
ビジョンをそういう目的に活用するためには、単に綺麗な言葉を散りばめるようなビジョンのつくり方であってはいけません。
弊社がご紹介しているレジリエント・ビジョンは、シナリオプランニングなどを使い、環境変化の可能性を想定してビジョンをつくる考え方であり、プロセスです。
このようなプロセスを経てできあがったビジョンには、どのような環境になったとしても実現したいと考えるありたい姿(Being)が盛り込まれています。
そのようなビジョンを以前のコラムの最後にも紹介した「つくり方」を意識してつくることができれば、そこに到達するまでの実行にかかわる戦略や計画(Doing)を変えることも、納得して進めることができるでしょう。
そうすることで、「社会や顧客に届ける価値を”変わらないもの”にするために、”変わり続ける”」組織へと変えていくことができるのです。
「せっかく作った計画だから」と変化に抗うのではなく、「環境が変わったのだから、計画もアップデートしよう」と前向きに捉える。そういう「前向きな朝令暮改」を進められるような組織を作るために、ビジョンのとらえ方を変えてみませんか?
コラム執筆者:新井 宏征(あらい ひろゆき)

株式会社スタイリッシュ・アイデア 代表取締役
東京外国語大学大学院修後、SAPジャパン、情報通信総合研究所(NTTグループ)を経て、現在はシナリオプランニングやプロダクトマネジメントの考え方を応用し、事業と組織の両面からクライアントの変革を支援するコンサルティング活動に従事。
Saïd Business School Oxford Scenarios Programmeにおいて、世界におけるシナリオプランニング指導の第一人者であるRafael Ramirezや、Shell Internationalでシナリオプランニングを推進してきたKees van der HeijdenやCho-Oon Khongらにシナリオプランニングの指導を受ける。
その内容を理論的な基礎としながら、2013年の創業以来、日本の組織文化や慣習にあわせた実践的なシナリオプランニング活用支援を行っている。
資格として、PMP(Project Management Professional)、英検1級、TOEIC 990点、SAP関連資格などを保有している。
主な著書に『実践 シナリオ・プランニング』、訳書に『プロダクトマネジャーの教科書』、『成功するイノベーションは何が違うのか?』、『90日変革モデル』、『世界のエグゼクティブが学ぶ 誰もがリーダーになれる特別授業』(すべて翔泳社)などがある。
