シナリオプランニングの「死の谷」の乗り越え方【Stylish Ideaメールマガジン vol.208】
このメールマガジンでは、シナリオプランニングで作成するシナリオはアウトプットではなく、インプットだと、何度かお伝えしています。
・シナリオプランニングの切れ味を決めるもの【Stylish Ideaメールマガジン vol.112】
https://www.stylishidea.co.jp/2016/08/31/newsletter-0112/
それを忘れてしまった時によく起きることとして、シナリオプランニングの「死の谷」とでも呼べるような状況があります。
シナリオプランニングの「死の谷」とは、せっかくシナリオで未来のことを描いたものの、それを元に戦略や事業などを検討する際にシナリオで得た気づきが反映せず、現状を前提としたものになってしまうこと。
ご存じの方もいると思いますが、「死の谷」とは、研究開発から事業化につなげる際に起きる障壁などを指し、ここではそれを援用しています。
シナリオプランニングのワークショップでは、複数の未来を描くためのシナリオの作成にかなりの時間とエネルギーを注ぎ込みます。
普段なら考えない先の未来を考えるので、たしかに簡単ではありません。
ただし、現在のことを脇に置いて考えるため、自由気ままに考えられる機会でもあります。
しかし、完成したシナリオをインプットとして「今から何をする?」ということを考える時にはそうはいきません。
シナリオで描いた未来を踏まえて考えてみると、
- 自社の事業がこのままでは立ちゆかなくなる
- 自社の強みがこのままでは活かせなくなる
- そもそも業界全体が不要になる可能性がある
という現実を目の当たりにすることがあります。
そのような現実を踏まえた上で、この状況をどう乗り越えていくのかを考えるのが、シナリオをインプットとして考える対応策です。
この対応策を考えるプロセスでは、今までの自由気ままに考えるプロセスとは異なり、自分事として考えなくてはいけません。
しかし、見たくはない現実を見せられた上、自分事として考えるという場面になると、これまでのような真剣さでは考えなくなる人が出てくることがあります。
そういう人の傾向としては、
- 実現可能性がない「大胆な」案を出してみたり、
- 「笑いを取れる」案を考えることに走ったり、
- 責任の所在を自分たち以外に求める
というのがあります。
もちろん、ワークショップに参加している人がこのような状況になってしまわないように、事前の設計や、その場でのファシリテーションを工夫することは、我々や、弊社が開催している応用編やプロコースに参加した人たちの役割です。
そういう人の助けを借りつつも、私たちは皆、一参加者でもあるわけです。(こう書いている私自身も、例外ではありません)
一参加者として意識をしておくべきことは、どんなに不都合な現実が目の前にあったとしても、それに対して自分事として向き合うことを、決してやめないこと。
自分を取り巻く環境が変わり続けていくのに、自分だけは変わらなくても良い、というような都合が良いことはあるわけないのです。
どういうことがあっても、自分事としてとらえ、変わり、変わり続けることをあきらめないこと。
そういう気持ちを持ち、参加者ひとりひとりが、目の前に描かれた未来の可能性に自分事として向き合うことができれば、シナリオプランニングの「死の谷」は、その参加者たちの後ろに横たわっているはずです。
コラム執筆者:新井 宏征(あらい ひろゆき)

株式会社スタイリッシュ・アイデア 代表取締役
東京外国語大学大学院修後、SAPジャパン、情報通信総合研究所(NTTグループ)を経て、現在はシナリオプランニングやプロダクトマネジメントの考え方を応用し、事業と組織の両面からクライアントの変革を支援するコンサルティング活動に従事。
Saïd Business School Oxford Scenarios Programmeにおいて、世界におけるシナリオプランニング指導の第一人者であるRafael Ramirezや、Shell Internationalでシナリオプランニングを推進してきたKees van der HeijdenやCho-Oon Khongらにシナリオプランニングの指導を受ける。
その内容を理論的な基礎としながら、2013年の創業以来、日本の組織文化や慣習にあわせた実践的なシナリオプランニング活用支援を行っている。
資格として、PMP(Project Management Professional)、英検1級、TOEIC 990点、SAP関連資格などを保有している。
主な著書に『実践 シナリオ・プランニング』、訳書に『プロダクトマネジャーの教科書』、『成功するイノベーションは何が違うのか?』、『90日変革モデル』、『世界のエグゼクティブが学ぶ 誰もがリーダーになれる特別授業』(すべて翔泳社)などがある。