チームで取り組むシナリオプランニング【Stylish Ideaメールマガジン vol.215】

先日実施したシナリオプランニング活用講座応用編で扱った内容で重要なもののひとつが、組織でシナリオプランニングをやる際に、どういうメンバーでやるかを検討すること。

弊社が実際に実施しているプロジェクトで最近増えてきたのが、取締役メンバーなど、組織の中で重要な取り組みを推進していくチームでシナリオプランニングに取り組むこと。

多くて10名程度、少ない場合だと5〜6名のメンバーで集中的にシナリオ作りに取り組みます。

取締役メンバーで実施する場合は、自社の中長期の方向性を考えることを目的にシナリオを活用することが一般的です。

一方、社内で何かを推進しているチームの場合、自社を取り巻く環境変化をシナリオで見た上で、チームとしてのビジョンを考えるなど、チームの目的によってさまざまな使い方をします。

どのような目的で取り組むにしても、このような少人数で実施する場合は、私自身がファシリテーターとして、チームの皆さんのシナリオつくりに関わります。

シナリオプランニングをプロジェクトで活用する場合は、20〜30人くらいの参加者で進めることが一番多くなります。

それと比べて、チームで実施する場合は、参加者との関わり方の密度が圧倒的に濃いので、参加者の変化が手に取るようにわかります。

いろいろな変化を目の当たりにしますが、どんな場合でも共通しているのが、チームメンバー間の関係の質が変わること。

例えば、取締役メンバーで取り組んだときのこと。

どのような企業でも、取締役メンバーは、たしかに普段から経営に関することは十分すぎるほどに考えています。

しかし、通常は、それぞれの立場や役割を前提として発言や議論を行っています。

一方、シナリオプランニングでは、そのような立場や役割を一度は脇に置いておき、立場や役割に関係なく、未来のことを考えます

取締役メンバーは積極的な方が多いので、こちらがうまく議論の流れをつくっていくと、お互いにお互いの新しい面を垣間見る機会がどんどん出てきます。

このような状態で半日も過ぎればお互いの関係性はかなり変わってきています。

(この時間を普段の仕事の場とは別の場でやると、この傾向は特に顕著です)

ただし、この間、ファシリテーターとしての私は取締役メンバーの関係の質を変えようと意図して働きかけをするようなことはありません。

やっているのは、未来のことを話すときに、それぞれの人の思い込みと思える発言について質問をしていきながら、他の人の考えも聞くことを繰り返しているだけです。

そのようなことをとおして起きていることは、未来のことを題材にしながら、普段の立場や役割を前提としては見えてこないそれぞれの個性や信条、考え方の癖などがどんどんオープンになっていくこと。

つまり、取締役メンバーにとって重要な自社や事業を取り巻く未来について話すことが、メンバー間の関係性改善につながっているのです。

今回は取締役メンバーを例に挙げましたが、どのような目的のチームであっても、未来を考える際には、良くも悪くも、その人のその人の思い込みが出てきやすいもの。

それらを丁寧に扱いながら、シナリオプランニングに取り組んでいくことで、未来に向けた取り組みが明確になるだけでなく、メンバー同士の関係の質も向上していくのです。

コラム執筆者:新井 宏征(あらい ひろゆき)

株式会社スタイリッシュ・アイデア 代表取締役

東京外国語大学大学院修後、SAPジャパン、情報通信総合研究所(NTTグループ)を経て、現在はシナリオプランニングやプロダクトマネジメントの考え方を応用し、事業と組織の両面からクライアントの変革を支援するコンサルティング活動に従事。

Saïd Business School Oxford Scenarios Programmeにおいて、世界におけるシナリオプランニング指導の第一人者であるRafael Ramirezや、Shell Internationalでシナリオプランニングを推進してきたKees van der HeijdenやCho-Oon Khongらにシナリオプランニングの指導を受ける。

その内容を理論的な基礎としながら、2013年の創業以来、日本の組織文化や慣習にあわせた実践的なシナリオプランニング活用支援を行っている。

資格として、PMP(Project Management Professional)、英検1級、TOEIC 990点、SAP関連資格などを保有している。

主な著書に『実践 シナリオ・プランニング』、訳書に『プロダクトマネジャーの教科書』、『成功するイノベーションは何が違うのか?』、『90日変革モデル』、『世界のエグゼクティブが学ぶ 誰もがリーダーになれる特別授業』(すべて翔泳社)などがある。