良いシナリオをつくるために必要な違和感【Stylish Ideaメールマガジン vol.223】

日々、さまざまな機会でシナリオ作成のファシリテーションをやっていると、良いシナリオができる際の共通点に気づきます。

それは、良いシナリオをつくるチームは、必ず一度は自分たちのつくっているシナリオの中身に違和感を感じているという共通点です。

具体的に、その人たちがつくりながらどういう違和感を感じているかというと、例えば、次のようなものが挙げられます。

  • こんな世界、本当にあり得るんだろうか…
  • こんな世界、想像したくもない…

シナリオプランニングとは、「もし、こういう世界になったとしたら?」という観点で未来の世界を描き、その結果を元に、戦略や計画、事業案を考えるための手法です。

この時に考える「こういう世界」の中に、どれだけ、普段の自分たちは想定していないが、実際には起こり得る要因を盛り込めるかどうかが良いシナリオをつくる上で非常に重要です。

しかし、実際には、普段は想定していないことを盛り込むのは簡単ではありません。

なぜなら、上の違和感の例で紹介したとおり、中身を考えようにも、普段は考えていないため、具体的に想像できずに、あきらめてしまいます。

あるいは、具体的に想像したものの、自分たちにとって都合が悪い未来(例えば、自社の製品の用途がなくなる等)であるため、考えるのが嫌になってしまうこともあります。

しかし、この状態を超えていかなければいけません。

シナリオプランニングをやる意義は、未来についての自分たちの想定の幅を広げ、「想定外」を減らしていき、環境変化に対する柔軟性(レジリエンス)を高めること。

そのためには、違和感を感じながらも、その状態を経て、未来を描き、その未来に対する備えを考えていかなければいけません。

ただし、シナリオをつくっていく過程で、違和感を感じさえすれば、それで良いわけではありません。

その違和感の原因を冷静に分析し、それが良いシナリオをつくるための過程として必要な違和感かどうかを判断する必要があります。

例えば、違和感の原因が次のようなものの場合、それは「必要な違和感」とはいえません。

  • 未来の世界を想像するための知識が足りない
  • 未来の世界を想像する土台の現状分析が足りない
  • 考えることに対して的外れな要因を選んでいる

などなど・・・

言い換えれば、上記のような違和感は、作成プロセスのどこかに問題があるために生じている違和感なのです。

そのため、シナリオプランニングにつきものの「必要な違和感」を正しく認識できるためには、まずはシナリオプランニングの基礎をしっかりと押さえておくことは欠かせません

そのような基礎を土台として、単に複数の未来を描いただけでは終わらないシナリオプランニングに取り組むことができるのです。

コラム執筆者:新井 宏征(あらい ひろゆき)

株式会社スタイリッシュ・アイデア 代表取締役

東京外国語大学大学院修後、SAPジャパン、情報通信総合研究所(NTTグループ)を経て、現在はシナリオプランニングやプロダクトマネジメントの考え方を応用し、事業と組織の両面からクライアントの変革を支援するコンサルティング活動に従事。

Saïd Business School Oxford Scenarios Programmeにおいて、世界におけるシナリオプランニング指導の第一人者であるRafael Ramirezや、Shell Internationalでシナリオプランニングを推進してきたKees van der HeijdenやCho-Oon Khongらにシナリオプランニングの指導を受ける。

その内容を理論的な基礎としながら、2013年の創業以来、日本の組織文化や慣習にあわせた実践的なシナリオプランニング活用支援を行っている。

資格として、PMP(Project Management Professional)、英検1級、TOEIC 990点、SAP関連資格などを保有している。

主な著書に『実践 シナリオ・プランニング』、訳書に『プロダクトマネジャーの教科書』、『成功するイノベーションは何が違うのか?』、『90日変革モデル』、『世界のエグゼクティブが学ぶ 誰もがリーダーになれる特別授業』(すべて翔泳社)などがある。