シナリオプランニングはプラモデルではない【Stylish Ideaメールマガジン vol.308】
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弊社ではシナリオプランニングの実践方法を7つのステップに分けてご紹介しています。
この整理は、さまざまな先人の知恵を活かしつつ、自身がOxfordのコースで体験した「不確実な可能性を考える」というシナリオプランニングの醍醐味を比較的味わいやすいようにするためにはどうしたら良いか?と考えた結果、たどり着いたものです。
このように整理したことによって、取っつきやすい印象を持ってもらえるようになった反面、このステップをたどれば自動的に、かつ労せずシナリオができるという間違った印象を与えてしまっている側面もあります。
例えばプラモデルであれば、あらかじめ用意されているパーツを説明書に書かれているステップにしたがって組み立てれば、基本的には想定されている完成形にたどり着きます。
しかし、シナリオプランニングはそうではありません。
プラモデルとの大きな違いのひとつは、「あらかじめ用意されているパーツ」の違いです。シナリオプランニングにおいて複数シナリオを作成する際に使うパーツは、世の中で起きていることすべてが対象です。
もちろん、シナリオテーマなどによって、ある程度の絞り込みはできるものの、それでもプラモデルと比較すると無数と言って良いほどのパーツにあふれています。ですので、そこから自分たちで「パーツを選んでいかなければいけない」というのが違いのひとつめです。
プラモデルと比較した場合のもうひとつの違いは、「想定されている完成形」がないという点です。
それもそのはず、冒頭でも書いたとおり、シナリオプランニングは「不確実な可能性を考える」ための手法です。
したがって、作成する前から、そして作成した後になったとしても、その結果が「完成形」なのかどうかを判断する「お手本」のようなものはないのです。
「お手本」がないならどのように判断するのかというと、拙著『実践 シナリオ・プランニング』でも紹介しているとおり、
- その複数シナリオは、シナリオプランニングの考え方に沿っているか?
- その複数シナリオは、自分たちにとって考える意義があるものか?
という2つの観点を使うことが一般的です。
このうち1点目については、われわれのような専門家に判断してもらうこともできますが、2点目については自分たちで意義があるかどうかを判断しなければいけません。
ここから言えるシナリオプランニングのステップに取り組む特徴は、「シナリオプランニングに取り組むこと自体が不確実なことに向き合うこと」だという点です。
このコラムで紹介した中だけでも、「どこまでパーツを集めれば(調べれば)いいか?」という点や「完成したものの良し悪しをどう判断すればいいか?」という点は、誰もが、いつでも同じように、そこまで考えを巡らせなくても判断できるような確実な根拠があるわけではありません。
ここで紹介している以外のステップに目を向けても、「どのように軸を選べば良いのか?」とか「どのような切り口で詳細化していけばいいのか?」など、自分たちで判断をしていかなければいけない場面がいろいろあります。
もちろん、それぞれの場面で、どのような方針で判断をすれば良いのかは書籍でも詳しく紹介していますし、コンサルティングや公開セミナーでは、取り組んでいるアウトプットに応じて具体的にご紹介しています。
しかし、そういう場合でも、最後に判断をするのは、取り組んでいる皆さん自身です。 このシナリオプランニングの取り組みをとおして、「明確な根拠がない中で判断し、次のステップに進まなければいけない」という経験をすること自体が、不確実な状況における意思決定をしていく実践の機会なのです。
ステップとして整理されていたとしても、単にそのステップをなぞるだけではなく、そのステップに取り組んでいること自体にも意味があるということを踏まえて、シナリオプランニングの取り組みを進めていくことが重要です。
『実践 シナリオ・プランニング』
シナリオ・プランニングを活用し、自分たちの「シナリオ」を作成することで、過度に悲観的な予測に立って不安に飲み込まれることも、将来の可能性を過度に楽観視することもなく、「健全な危機感」をもって未来を捉え、将来に対する備えをしていくことができるようになります。
本書ではシナリオ・プランニングの理論的な理解はもちろんのこと、シナリオ・プランニングの「実践」をあらゆる組織で無理なく進めていくための方法論、さらには、シナリオ・プランニングの「実践」をもとに、人と組織の成長を促すヒントを解き明かします。