“衝動に駆られるようなアウトカム”を実現するためのシナリオプランニング【Stylish Ideaメールマガジン vol.285】
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シナリオプランニングという手法は、さまざまな考え方や手法の中で「未来のことを考えるもの」「未来を予測するもの」というカテゴリーにくくられることが多いものです。
私としては「未来を予測するもの」というとらえ方は、必ずしもシナリオプランニングの位置づけを正確に表しているわけではないと考えていて、拙著『実践 シナリオ・プランニング』の第2章の「シナリオプランニングは長期的な未来を考える手法なのか?」という部分でも、その点を取り上げています。
時間のとらえ方を「過去・現在・未来」と分けると、確かにシナリオプランニングは未来のことを考えるものに当てはまります。
しかし、未来のことを考える手法にさまざまなものがある中で、シナリオプランニングは「起こり得る未来の可能性」を考えるという点が非常に重要です。
「未来のことを考える手法」と一口に言っても、実際はさまざまなものがあります。他の手法の中には、SFを活用するもの、あるいは自分たちにとって理想的(ポジティブ)な未来を考えるものというように、考える「未来」の種類がさまざまでです。
このようにさまざまな種類のものがある中で、どの手法が優れているのかということは一概には言えません。何の目的で未来のことを考えるのかによって、最適な手法が変わってくるからです。
ここからわかるとおり、本来は「一般論として、○○という手法はシナリオプランニングよりも優れている」というような言い方はできません。
(ただし、実際にはこういう主張を見かけることは多いのですが…)
そのため、「未来のことを考える」と謳っているさまざまな手法を試そうという場合、まずは、その手法を使う場面の目的に立ち戻り、その目的に照らして、最適な手法を選ぶことが肝心です。
ずないだろう」と思われるかもしれません。
シナリオプランニングが適している場面
では、シナリオプランニングはどのような目的の時に活用するのが最適なのでしょうか?
このことを改めて考えるためのきっかけとなる記事がHCD-Netにありました。
イノベーションに不可欠なアウトカムデザイン (高橋 祥氏、竹中 薫氏) | HCDコラム | HCD-Net
HCDとは日本語では「人間中心設計(Human Centered Design)」とも呼ばれるものです。
HCD-Netで公開されている「HCD入門講座教材」を見ると、HCDとは「使う人や利用状況について丁寧に把握し、より有効で使いやすい、満足度の高い製品やサービスを提供するための一連の活動プロセス」と定義されています。
先ほどのコラムに戻りましょう。
コラムではイノベーション推進に共通する大切なポイントとして、チームの中に「衝動に駆られるようなアウトカムがあるか?」という点を挙げています。
詳しくは、ぜひコラムを直接読んでいただきたいのですが、このことを詳しく説明して、次のように解説しています。
不確実性の高い環境下でPJを推進するためには「この課題を何としてでも解決したい、こんな未来を自分たちが実現したい」という、突き動かされる理由(強い衝動)をチームでもっていることが、効果を発揮します。それがないと、人間はやらない理由や、やめる理由を見つけてきて、道半ばで簡単にあきらめてしまいますからね。
(出所:イノベーションに不可欠なアウトカムデザイン)
このメールマガジンを長らく読んでくださっている方、あるいは弊社のコンサルティングや公開セミナーを受けてくださっている方は、私が「シナリオプランニングでつくるシナリオはアウトプットではなく、インプット。そのシナリオをインプットとして、起こり得る未来の可能性を理解して、ビジョンや戦略、事業を考える」とお伝えしているのを一度は見聞きしたことがあるかもしれません。
ここからわかるとおり、シナリオプランニングでは未来のことを考えることだけが大切なのではありません。考えた未来をインプットとして、自分たちが何をしたいのか、何をするべきなのかを考えることが大切であり、それこそがシナリオプランニングに取り組む意味なのです。
シナリオプランニングを、このような取り組みに活用するものとして位置づけるとなると、自ずとどのような種類の未来を考えなければいけないのかが明確になります。
それは、いわゆる「ぶっ飛んだ」未来の可能性でもなく、あるいは自分たちにとって都合の良いだけの未来の可能性でもなく、自分たちを取り巻く環境において起こり得る未来の可能性なのです。
検討した案を実行するところまで見据えた”未来”の検討を
もちろん、他の種類の未来をきっかけとして「衝動に駆られるようなアウトカム」を思い浮かべることもできるでしょう。
しかし、組織にとって大切なのは、「衝動に駆られるようなアウトカム」を思いつくことだけではなく、そのアウトカムの実現に向けて、具体的な取り組みを進めていくことです。
具体的な取り組みにつなげていくためには、アウトカムを実現するための理想だけで動いていくことはできません。例えば、取り組みを進めていく過程で想定されるリスクを特定し、それを軽減したり、起きた場合に対処することなども考えなくてはいけません。
たしかに未来のことを考えるための手法はいろいろなものがあります。
そのような中で、自分たちを取り巻く環境において、現実にも根ざした点から「衝動に駆られるようなアウトカム」を検討し、その実現に向けて、現実的な実行につなげていくための一連の取り組みを考える際、シナリオプランニングはとても適した手法だと考えています。
未来のことを考えることにとどまらず、そこで考えた未来を元にして、社会や顧客、そして自組織にとって価値をもたらすための取り組みを検討したいと考えている場合、シナリオプランニングが最適な手法です。
『実践 シナリオ・プランニング』
シナリオ・プランニングを活用し、自分たちの「シナリオ」を作成することで、過度に悲観的な予測に立って不安に飲み込まれることも、将来の可能性を過度に楽観視することもなく、「健全な危機感」をもって未来を捉え、将来に対する備えをしていくことができるようになります。
本書ではシナリオ・プランニングの理論的な理解はもちろんのこと、シナリオ・プランニングの「実践」をあらゆる組織で無理なく進めていくための方法論、さらには、シナリオ・プランニングの「実践」をもとに、人と組織の成長を促すヒントを解き明かします。